わたしの隣の魔法使い
第11章 全てを賭けた戦い
【その2】
私とノクトは朽ちたラタトスク城の裏の出口から外に出て、すぐに高く舞い上がる。はじめはどうやって背中の羽根を動かすのかわからなかったけれど、ノクトが『自分が空を飛んでいるイメージを頭に浮かべる』と言ってくれたので、その通りにすると背中の羽根が勝手に動き出したので私はとても驚いた。
自分の力で空を飛ぶ。それがこんなに気持ちいいものだとは知らなかった。たしかにとても高い所を飛んでいて怖いには怖いんだけど、私に当たる風がとても気持ちがいい。それに余計なものを付けたり、何かに乗ったりしないで自分の体だけで飛ぶというのは思っていた以上に楽しくて胸が高鳴った。地上や空の上が戦場でなければもっと気持ちいいだろうにと私はとても残念に思っていた。
そして私たちはたくさんの敵の中、ものすごいスピードで空を駆けていく。誰が味方で誰が敵なのかわからない状態が幸いして、立ち止まらなければジハナムの出口までこのまま行けそうだと思った。空にも地上にもたくさんの妖精達が武器や魔法を使ってお互いを傷つけている。そんな妖精達の断末魔の声を聞くたびに立ち止まって助けてあげたいと何度も思ったけれど、私たちはこのまま振り返らずに一直線に出口まで進むつもりだった。
しかし、もう少しで出口という所でノクトが急に立ち止まる。その拍子に私はノクトの背中に思いっきりぶつかってしまった。鼻がジンジンと痛む。
「い、痛っ!ノ、ノクト、ど、どうしたの?!」
「……」
しかしノクトは答えてくれない。
「ノクト?」
立ち止まってしまっては戦場に巻き込まれる。そう言ったのはノクトなのに、彼はそこから動こうとしなかった。私は彼の目線の先に何かがあるのだろうと顔を向ける。
「……え?」
私は目の前の信じられない場面に体が固まる。
「なんで、彼女がここに……」
そこにいたのは鎖の鎧を身にまとって、ヒポグリフに跨りジハナムの妖精と剣を交えているニンフだった。彼女はノクトの御付きの妖精のドリアード。
「リア!」
ノクトは彼女の名前を呼ぶ。しかし、ドリアードはこちらを向く気配はまったくなかった。御付きの妖精が主人の呼ぶ声に気がつかないわけは絶対にないのに、ドリアードはノクトが何度呼んでもこちらを見なかった。
「ノクト、彼女の顔を見て……」
私はそんなドリアードの顔を見て唖然とする。彼女の顔にはまったく生気がなく、敵と戦っているというのに無表情。そして瞳は真っ赤に光っていた。
「ど、どうして……」
「変だと思ったんだ。ティル・ナ・ノーグに戦いを望むものなんていない。それなのにどこからこんな軍隊が出現したのか……」
私はノクトの言葉を聞いて、再びドリアードを見る。彼女の姿に私はある事が頭に浮かんだ。
「……ヤガーバはなんてことをしたの」
今、ジハナムの妖精達と戦っているのは、ヤガーバの軍隊なんかじゃない。これはティル・ナ・ノーグに住んでいる妖精達だった。周りを良くみると、どのティル・ナ・ノーグの妖精も無表情で目が光っている。
「こんなことって……」
私はティル・ナ・ノーグに行った時、たくさんの妖精を目にした。大小様々な背丈の妖精や、全身が鱗で出来ているような不思議な人々。色々な色の肌や髪の毛や瞳。そして背中から映える薄くて綺麗な羽根。どこを見ても色とりどりで、たとえ憎しみが生まれない感情を抑制された世界でも、彼らは幸せそうだった。それなのに、ヤガーバは彼らから今度は幸せや喜びを取り上げて、同じ仲間を殺す力を与えてしまった。それがどんなに残酷なことか、きっとヤガーバは少しもわかっていない。
「ユーリ、頼みがある」
「何?」
ノクトがドリアードに向けていた視線を私に移す。
「1人でカイトの所に行ってくれないだろうか?」
ノクトは怒りで震えているのが私でも分かった。
「オレはこの状態を見過ごすわけにはいかない。彼らはオレの大切な仲間だ」
1人でこの世界を抜ける。それが私に出来るかはわからない。でも敵の本当の姿を知らされて、ここで首を横に振るわけにはいかなかった。
「わかった。やってみる」
「ごめん。本当にごめん」
「ううん。私がノクトでもきっと同じ事を言うわ。だから私に気にせずみんなを助けてあげて」
もちろん、1人でここを抜けなければいけないのは怖い。でももう恐怖を気にしている時間はなかった。
「急いで戻ってくるから。それまで頑張って」
私はノクトと目が合って、私たちはお互いの無事を祈るように頷いた。
「ユーリ、頼んだぞ」
「うん、任せて」
そして私たちは別々の方向へ飛んでいく。ノクトはドリアード達の所へ、私はジハナムの出口の方向に。自分のやるべき事をする為に。
(なんて辛い戦いなの。こんなの絶対に続けるべきじゃない)
この戦いを止める方法。それはフェアリー・ドロップが鍵なんだと私は思っている。だから一刻も早く石を持ち帰らなければならない。たとえ、どんな強敵が立ちはだかろうとも。
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