わたしの隣の魔法使い


第11章 全てを賭けた戦い
【その1】


「モルガン様!トロール隊、オーガ隊ともに準備完了でっす」
 立派な黒の鎧を身に着けて大広間で指揮を取っているモルガンのもとにムガーが走ってやってきた。彼も粗末ながら鎧を着ている。
「わかった。私が合図するまで待機するように伝えてくれ」
「了解しました!」
 相手が同じ妖精だとわかっていないのかわかっているのか、ムガーはいつもより楽しそうにもとの配置に戻っていった。
「血の気の多い妖精ならこちらのほうが数は多い。簡単にジハナムを渡してなるものか」
「問題はヤガーバと側近達だな」
 鎖帷子のような軽そうな鎧を身に着けたエアリエルがモルガンと一緒に策を練っている。エアリエルは美しい長い髪の毛を後ろで高く束ねていて、まるで違う人のように見えていた。
 この世界にはムガーの他に王の側近や、策士のような人物はいないようで、大広間には私たちしかいなかった。ジハナムはやはり悲しみと苦しみしかない統一されていない世界。ただ、戦いを好む妖精はたくさんいて、自分の世界に攻めてきた者に対してはすぐに攻撃態勢に入ったようだった。
「そうだな。だが、まずは大量に捨て駒を投入してくるだろう。それをどうにかしなければ」
 外ではもう戦いが起きているのか、大きな掛け声や振動、爆発のような音が何度も聞こえている。
「ユーリ、そろそろ行くぞ」
「う、うん……」
 私はロビンにフェアリー・ドロップを持ってくるように言われて、これからノクトと一緒にカイトの所に行く所なんだけど、このまま本当にここを離れていいのかわからなかった。
「大丈夫だ、ユーリ。お前が戻るまでは持ちこたえる」
 私の気持ちに気がついたモルガンが優しい表情で私に言ってくれた。
「そうだ。お前は王の命に従い、石をもってきてくれ」
 感情を取り戻したエアリエルも私に優しい表情を向けてくれる。それが私の胸を痛くした。
「でも……私も一緒に戦えるよ。みんながこんなに苦しんでいるのに、ここを離れるなんて……」
 ムガーが言うには、ティル・ナ・ノーグの軍は信じられないくらいの数でジハナムに来ているらしい。ヤガーバはあの穏やかなティル・ナ・ノーグの世界のどこにそんな軍を隠していたかはわからないけど、私がカイトの所に行っている間にジハナムが落ちてしまったら……と考えてるととても怖い。体が震える。
 そんな私のもとに、モルガンが近寄ってくる。そして私の肩に手を置いた。
「ユーリ、妖精界の運命はお前の手に掛かっているんだ。だからここで躊躇わないでくれ」
「だって、モルガン……」
「私の国がそんなに弱く見えるか?だてに闇の国って言われていないぞ?」
 そうなんだけど……。そう、闇の国ジハナムの妖精達はほんとうに恐ろしい。だからそんな簡単には負けるとは思っていないんだけど。
「本当に……本当に戻ってくるまで持ちこたえる?」
「当たり前だ。あんな奴に簡単に負けてなるものか」
 勝てる、とはこの広間にいる人たちは誰も思っていない。だから私はとても怖かった。でもこのまま私がここに残って戦っても結果は変わらない。私がいくらロビンの力を持っていても、ヤガーバに刃を向ける事は出来なかったから。
「……わかった。私行ってくる」
 私の決意にモルガンもエアリエルも頷いてくれた。
「ノクト、どの道もティル・ナ・ノーグの軍がいる。すり抜けて外に出られるか?」
 モルガンがまた王の顔に戻ってノクトに訊ねる。
「出来なくてもやらなきゃいけないんだろ?」
 ノクトがモルガンにニヤっと笑う。
「ああ、そうだ。頼んだぞ」
 モルガンはノクトに答えるように頷くと、私の背中に手を添えた。
『永久に飛び立つ事の出来ない体よ しばしその呪縛を解き放ち 自由を手に入れよ』
 モルガンがそう呪文を唱えると、私の背中が急に熱くなる。
「な、何?」
 私は熱くなった背中を恐る恐る触ってみる。すると私の手に今までなかった感触が伝わってきた。
「これって……」
「これでお前も少しの間自分の意思で飛べるだろう」
「うわっ、羽根が」
 私の背中にはモルガンの魔法によって蝶々の羽根が生えていた。薄くて輝いている綺麗な羽根。
「頼んだぞ、ユーリ、ノクト」
 そしてモルガンはまたエアリエルと策を練りに行った。
「行くぞ、ユーリ」
「うん」
 ジハナムは今や戦場。簡単に外の世界に出られないことはわかっている。だから私は聖剣カリバーンを握り、ノクトと共に大広間から出て行った。
 朽ちたラタトスク城の入り口は今や戦場の中心部になっているとモルガンは言っていた。だから私たちは裏から出ていくことにした。裏口に続く廊下を歩いていると、そこに1人の女性が立っている事に私は気がつく。
(あれは……バンシー?)
 闇の世界ジハナムに入ってきて私を惑わしたバンシーがそこには立っていた。目から大量の血の涙を流している。
「世界が死を迎えようとしている」
 バンシーの悲痛の叫び。
「すべての者に死の影が訪れようとしている」
 真っ赤な瞳から流れる血の涙は止まらない。でも私はそんなバンシーに決意の目を向ける。
「いいえ、まだよ。まだそう決まってはいないわ」
「え……?」
「私がフェアリー・ドロップを持って帰るまで、未来を諦めないで」
「未来を……諦めない……?」
 それ以上はバンシーは何も言わず、その場に立ち尽くしていた。血の涙の量は少しずつ少なくなっていく。
「じゃあ私は行ってくるね」
 そして私はノクトと共に裏の出口に向かっていった。



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