わたしの隣の魔法使い
第10章 闇王ヤガーバ
【その7】
「さぁ、これならどう?」
私は状況がつかめないまま、聖剣を構えている。私の横では腕を組んだままモルガンがフワフワと宙を浮いていた。そして、王の側近達は私が出したカリバーンにとても驚いて、小さな声で何かを話し合っている。
(でも……、カリバーンはエアリエルが見ているはずなのに)
オーガがカイトの家に私を狙ってきた時、エアリエルも一緒にいた。それなのにこの場はとても動揺していて、ティターニア王でさえ驚いた表情を浮かべている。
(言ってない……ってこと?)
でも王に忠実なエアリエルに限って、そんなことはあるのだろうか?
「それは……本当にカリバーン……?」
ティターニア王がカリバーンを見ながら震えた声を出す。
「はい。そうです」
ロビンの亡骸に刺さっていた剣もカリバーンだったけれど、あれはもう色を失っていた。それに私はこの剣で妖精王の封印も解いた。だからこれは本当のカリバーンなんだろう。私は自信を持って頷く。
「そんな……。でもカリバーンは兄様に……」
「これはロビン……いえ、オベロン王から直接頂いたんです」
いつの間にか私の口からはロビンの事が普通に出てくるようになっていた。それはたぶん、もう隠す事は何もないからなんだと思う。そして、オベロン王の名前が出るとティターニア王はさらに驚いた顔をする。
「兄様から!?兄様は生きているの!?」
それは期待の眼差し。でも私はすぐに首を横に振る。
「いいえ。この世にはもういません。だってあなたが……」
私はティターニア王にあなたが殺したと言いたかった。あなたがロビンを刺したから世界はバラバラになってしまった、と。でも私にはそれを言う事が出来なかった。だってあれはティターニア姫の意志ではなかったはず。この気持ちはヤガーバに向けなければならない。
「そうよね……生きているわけないわよね……」
ティターニア王は今にも泣きそうな顔をして、エアリエルの方に体を向ける。そしてもう聖剣を見たくないと言う様にエアリエルの胸に顔を埋めた。
「それで、モルガン王、あなたは何が望みなんですか?」
王の側近がモルガンに向かって静かな言葉で話す。
「この世界を奪い取ろうというのですか?」
「この世界を壊そうというのですか?」
「この世界で復讐しようというのですか?」
「この世界で私達を殺すのですか?」
5人が同時に違う事を口にする。私はその様子がとても怖くて、背筋が凍るような気がしていた。
「望み?それはたった一つ」
でもモルガンの表情は少しも変わっていない。戦う意志がある彼女の瞳。
「ヤガーバはどこにいる?私はヤガーバに会いに来たのだ」
私達がここまで来ても、この世界を作った張本人であるヤガーバは出てくる気配がしない。ティル・ナ・ノーグに住んでいるノクトさえ会った事のないヤガーバ。彼は一体どこにいるのだろうか。
モルガンの要求に、王の側近達が不敵な笑みを浮かべながら笑い出す。
「あなたは何を見ているのですか?目の前にいるではありませんか」
「何?!」
ヤガーバは私もこの目で見てきている。でもこの場にヤガーバはいなかった。彼の顔を間違えるわけがない。
「魔法は常に幻影。まやかしなんです、ジハナムの王よ」
「お前は何を言っているのだ、フィフス」
王の側近達の言葉に私はノクトを見る。彼も何がなんだか分からないという表情をしていた。ここにヤガーバがいる?だってここには私達以外、ティターニア王、エアリエル、王の側近5人しかいない。
「そんなにご所望とあらば、お呼び致しましょう」
そして側近のうちに1人がフードを下ろして顔を出す。顔中に複雑な模様が入った冷たい顔にオールバックの白い長髪、彼は白の騎士フィフスだった。それと同時に他の4人もフードを下ろす。茶髪のサイン、金髪のフォルス、黒髪のセド、赤毛のファトだった。
前に出たフィフスが両手を前に出し、言葉を紡ぎ始める。
『我が主 今こそ目覚め……』
「やめろ!!」
フィフスの低い声が水晶の広間に響き渡る。しかし、その声をある人物の叫び声が遮ろうとする。それは意外な人物だった。
「やめろ!それ以上唱えるな!」
私はこの人のこんなうろたえた声をはじめて聞いた。今までずっと冷静で冷たくて顔色一つ変えなかったのに。
「エアリエル……」
今にも涙さえ流しそうなエアリエルの悲しい表情。その腕にはティターニア王を抱いている。私はそれを見て急に胸が苦しくなってきた。感情がなくなったエアリエルなのに、なんでこんなに悲しい表情をしているのだろう。しかし、フィフスは言葉を止めない。
『その強大な力を我らの前に』
「くそっ!」
エアリエルは片手で小さな風の玉を起こして、呪文を唱えているフィフスにぶつけようとする。しかし、それを止めたのは他の4人の黒の側近達だった。彼らの手から光の線のようなものがエアリエルに向けられる。
「風の王、お止めなさい」
そして光の線はエアリエルの体を何重にも巻く。その腕を離れたティターニア王はその場に立ち尽くしていた。
「や、やめろ……」
光に捕らえられ自由を失ってしまったエアリエル。それでも彼は抵抗をしようとしている。
「い、一体何が起きているの?」
私は目の前で起きていることが良くわからなかった。いきなりエアリエルは側近達に手を出したのだろう。
「……まさか」
私の横で浮いているモルガンの声が詰まったので、私は彼女を見る。
「いけない!止めるんだ!」
「え?!」
私にはモルガンが言っている事がわからなくてそこから動く事が出来なかった。
『我が主 闇王ヤガーバ』
しかし、フィフスは呪文を唱え終えたようで、手から黒い煙のような物が出現しそれが風に乗るように動き出す。
「やめろーー!」
エアリエルは今なお抵抗をしているけれど、そこから動く事が出来なかった。
「いかん、ユーリ!王子!ティターニア王を!」
「え?!ティターニア王?!」
モルガンがそう叫びながらティターニア王に向かって飛んでいく。私の後ろにいたノクトもすごいスピードで王がいる場所に走り出していた。
しかし、黒い煙はその場で立ち尽くしていたティターニア王をすぐに包んでいった。モルガンもノクトも、王を救い出す事は出来なかった。
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