わたしの隣の魔法使い
第10章 闇王ヤガーバ
【その6】
2本のクリスタルの塔のうち、1本の塔の前まで来た私達を乗せたヒポグリフ。ノクトはヒポグリフの手綱を強くさばいたが、ヒポグリフは何故かそれ以上進むのを嫌がっていた。
「くそっ。ここもか」
ノクトが悪態のような溜息を付いた。
「ど、どうしたの?」
「結界が張ってある」
私の膝に座るモルガンがそう言いながら、フワッと飛び上がった。
「モ、モルガン?」
私は驚いてモルガンを掴もうとする。しかし彼女はヒポグリフの顔の前辺りまで飛んでいった。
「王子はそのままで。これくらいなら私でも壊せる」
「わかった。任せた」
そして私とノクトを乗せたヒポグリフはそこから少し後ろに下がった。それを確認したモルガンは両手を前に出して魔法を言葉にする。
『主に抗え』
すると一瞬だけど、要塞全体に光り輝いた薄い膜のようなものが姿を現し、それがガラスが割れたように大きな音とともに消えていった。これが結界だというのだろうか。
「よし、再度結界が張られる前に中に突っ込むぞ」
モルガンはすぐに私の膝に戻ってきて、私はノクトの背中に掴まった。
そしてヒポグリフは今までで一番早いと思える速度でクリスタルの塔の中に突入していく。クリスタルの塔は窓とか扉とかどこにもなくて、どうやってこの中に入るのかと私は思った。
「え?えええ?」
目の前は大きな水晶の塔。ノクトが操るヒポグリフはそれに衝突しようとしている。もちろん中に入るような出入り口はどこにもない。私はぶつかる!と思って目をつぶった。しかし、気がついた時にはもう塔の中に進入していて私はとても驚いた。
「ど、どこから入ったの?」
私はヒポグリフから降りながらノクトに訊ねる。
「ここは魔法の塔だ。そこが入り口だと思えば入り口になる。そこが壁かと思えば壁になるんだ」
「え……?」
私にはノクトが言っている意味がわからなかった。
「触ってみれば分かるよ」
私はノクトにそう言われて水晶の床に足をついて壁の方に歩いていく。そして半透明の壁にそっと触れてみた。
「うわ……」
なんていったらいいんだろう。それは明らかに壁じゃなくて、水のようなゼリーのようなそんな感触。かと思えば、急に固体になって光りだす。とても不思議な壁だった。
「さ、行くぞ。王の間はすぐそこだ」
ノクトが歩き出したので、私も急いで後を追う。
周りが全て水晶で出来た広間。ロビンが連れて行ってくれたクリスタル・ガーデンもとても綺麗だったけれど、ここも全て水晶でとても不思議だった。でも透明なのに下の階も上の階も見えているわけじゃない。まるでこの空間しかないように、水晶を覗いても先にあるのは半透明な世界だった。でも水晶庭園にあった温かさはどこにもない。ここはとても冷たくて静かで寂しかった。
しばらく歩くと、私達の前に半透明の扉が見えてきた。とても大きくて美しい扉。ノクトはそれをゆっくりと開ける。その先にも透明の部屋が続いていた。
「オレらが来る事はわかっていたんだろ?」
部屋に入ってノクトがいきなりそんなことを言うので私は驚いて前を見る。そこには数人の人物が私たちの方を見ていた。
「ええ。わかっていたわ。止めても必ず来るってね」
水晶の広間の中で光り輝いている王の姿。ティターニア王がそこにはいた。その隣にはエアリエル、後ろには側近達が立っている。
「どうする?捕まえるのか?殺すのか?」
「ノクト……。何故そんな恐ろしい事を言うの?」
ティターニア王は悲しい表情を浮かべる。それにノクトは笑った。
「ずっと不思議に思っていた。エアリエルもそいつらも何でそんなに毎日つまらねー顔しているんだって。それは感情を奪ったからだって?何でそんなことをするんだ。お前は神なのか?!」
「ノクト……」
王の悲しい顔は変わらない。今にも泣きそうな顔をしてノクトを見ている。
「ごめんなさい。でもこうするしか道はなかったのよ。しょうがなかったのよ」
「しょうがない?何がしょうがないんだ!」
ノクトの声が少しずつ興奮していく。私は止めなきゃいけないと分かっていても、この場に入り込む事は出来なかった。
「やめなさい、ノクト」
そこで口を開いたのは王の横にいたエアリエルだった。冷たい声が水晶の広間に響く。
「あなたは何も分かっていない」
「何を分かれっていうんだ。お前たちはたくさんの妖精を見捨てて、そしてこんな所に感情を奪い取って隠れている。それで本当にいいって言うのか?!」
「それ以上はやめなさい」
ノクトがいくら興奮した声を出しても、エアリエルの声が変わることはなかった。いつでも静かな声。
「長老!お前はどうなんだ?!これで本当にいいと思っているのか!」
しかしティターニア王は顔に苦痛の表情を浮かべるだけで、何も口にはしなかった。エアリエルが後ろから彼女を支える。
「ノクト、これ以上王を惑わせないでほしい。ここから立ち去りなさい」
エアリエルのきつい視線がノクトに向けられる。ノクトは一瞬、固まった表情を見せたが、またすぐに元の表情に戻る。
「何だよ。一体なんだっていうんだよ……」
何がなんだかわからないといったノクトの顔。私にも彼らが言っている事がわからなかった。
「久しぶりね、ティターニア、エアリエル。そしてあなたたち」
そんな時、今まで黙っていたモルガンがノクトの横から出てきていきなり話し始める。
「え……?」
それを見てティターニア王が驚いた表情を浮かべる。
「こんなにも美しい王に成長していて私はとても驚いているわ」
ネコのモルガンが水晶の床を一歩ずつ王に向かって歩き出す。
「あの時はあんなに小さかったのにね」
「あなたは……」
モルガンはフッと寂しげに笑う。
「モルガン……」
モルガンの名前を告げたの王の後ろにいたエアリエルだった。
「エアリエル。あなたも立派に育ったわね」
モルガンは二人の小さい頃の姿を知っている。ロビンの従者であったモルガンは、彼女達の成長を優しく見守っていた。それが再びこういう形で出会う事になろうとは。
しかし、彼女の行く手を側近5人が塞ぐ。
「闇の王、これ以上近づく事は許しません」
「フィフス。あなたたちの裏切りを私は許してはいないのよ?」
フードで隠れて顔だけしか見ることの出来ない側近達。私にはその5人の区別がまったくつかなかったけれど、モルガンにはわかっているようだった。
「そうだとしても、私はあなたをこれ以上進ませるわけにはいきません。それにその体のあなたは何も出来ないでしょう」
モルガンは笑う。
「そうね。そうかもしれないわね」
そしてモルガンは宙に浮かんで腕を組んだ。
「でもね、あなたたちに勝てる方法が一つだけあるのよ?ユーリ!」
「えっ?!」
いきなりモルガンは私を呼んだので、私はモルガンの元に駆け寄る。
「聖剣を出しなさい」
「え?」
「はやく!」
「は、はい!」
一体何なのかわからなかったけれど、私はとにかくモルガンの言われた通りのことをする。
『聖剣カリバーン 姿を現せ』
そして私の手に握られた聖剣カリバーン。それがこの場を動揺させたのは言うまでもなかった。
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