わたしの隣の魔法使い
第9章 真実
【その9】
ラタトスク城に戻ったロビン達はすぐに城の皆を大広間に呼び出した。夕食の宴が催されたあの広間。今はすでにすべてが片付けられ、長い机には何人もの妖精が座っていた。
「だから人間を招き入れるのは反対だったんです。人間は傲慢すぎる」
椅子に座っている妖精達は皆、とても豪華な服に身を包んでいたり顔に威厳があったりして、きっと位の高い妖精だと思わせた。
「人間がアスガルの長(おさ)の息子に助言さえしなければ、こんなことは起こらなかったはず。すべては人間が悪いんだ」
妖精の長達からは人間を非難する声が次々と聞こえてくる。
「次は私の国が犠牲になるかもしれない。その前に人間をすべて始末しなければ」
「そうだ。ワシの国にも沢山人間がいる。急いで始末しなければならない」
声はだんだんと大きくなっていき、すべての長が人間をこの世界から排除しろと声を荒立て始めた。私はそれを聞いてとても胸が痛かった。たしかに今回の事件で悪いのは人間だから、何も言う事は出来ない。でもすべての人間があんな恐ろしい考えを持っているわけじゃないのに、まるで人間という存在が悪いように妖精達は言っていて、私はここから逃げ出したくなっていた。
「お前たち!いい加減にしろ!」
広がって大きくなった人間への非難の声を止めたのは王であるロビンだった。ロビンは玉座に座り、妖精の長達を睨んでいた。王の厳しい顔に妖精の長達は静かになった。
「確かに今回のことは人間が悪いかもしれない。しかし今、それを議論している場合ではないのだ」
ロビンの声は低く鋭い。
「アスガルの闇は少しずつ広がっている。あれを止めなければ我々は闇に食われるのだ」
ロビンの言葉に妖精の長達からは不安の声が上がる。
「浄化する方法はないのですか?!」
長の一人が声を上げる。その声は明らかに不安が満ちていた。
「それは私も考えていて、ラタトスクの書庫長の話も聞いた。しかし完全な浄化の方法はないらしい」
ロビンは大広間に来る前に、デックがいた書庫に立ち寄っていた。そこでデックと書庫長と共にたくさんの本を調べた。しかし一度発生してしまった死妖精の闇は簡単には取り除けないということしか調べる事は出来なかった。
「ではどうするのです?このまま闇に飲まれてしまうのを見ているのですか?!」
その問いにロビンは答える事が出来なかった。ロビンの顔は非常に険しく、悔しさが滲み出していた。大いなる力を持っていても闇に勝つ事は出来ないのだろうか。
「では私の提案を聞いてもらえますかな?」
その声は広間からではなく、広間の扉の方から聞こえてきていた。そちらを向く妖精の長やオベロン王。そこには一人の初老の男性が立っていた。
「ヤガーバ、あなたの入城を許した覚えはありませんよ」
突然の男性の出現にモルガンはすぐに駆け寄り、広間に入ろうとする男性を止めた。
「私達が許したのだ」
男性のすぐ後ろから3人の騎士が入ってくる。
「ファト、セド、フィフス……」
その騎士は妖精王の側近の3人だった。ロビンと一緒にアスガルにいった二人とは別の側近。それぞれ白と黒と赤の髪の毛をしていて、それと同じ色の鎧をまとっている。
「王、ヤガーバの話を聞いてください。彼はこの危機の乗り越える策を持っています」
全身が白い騎士がロビンに駆け寄る。
「わかった、フィフス。話だけでも聞こう」
ロビンの答えに3人の騎士とヤガーバは少し笑みを浮かべる。私はそれがとても怖かった。
「闇を浄化する方法がないのは皆様も知っての通りだが、もし世界を一から作り直せるいったらどうしますかな?」
世界を作り直せる?その言葉に妖精の長達からは不審な声が聞こえてくる。
「それは一体、どうやるんだ?」
「私達妖精は力を与えてくれる世界樹のような存在さえいれば生きていく事が出来るのです。それを私達で作り出せばいいだけのこと」
「それはこの世界から他に移るということか?」
長の一人が男性に問う。
「そうなりますな。だがこのまま闇に飲まれるよりいい選択かと思われますぞ」
ロビンはヤガーバの話を聞きながらずっと眉をひそめていた。しかし、周りからはだんだんヤガーバの提案に頷く者も出てくる。
「だが世界樹イグドラシルのような強大な力をどうやって用意するのだ。それは本当に可能なのか?」
それにヤガーバはにたーっと笑う。
「可能だからこうして提案に来ているのです。もうその目処も立っております」
たしかに闇に包まれそうになっているこの世界ではなく、新しい世界で生きる事が出来るのであればそれはいいことなのかもしれない。でもそうなるとこの世界は……。
「それを作るとして、どれくらいで完成するのだ?闇はもうすぐそこまで迫っている」
王の決断を聞いてはいない。しかしすでに長達の中にはヤガーバの話に乗っている者もいた。やはり皆、闇に飲まれるより生き残りたい。
「すぐにでも用意出来ます。その為に私は日々研究をしていたのだから」
その答えに長の中から喜びの声が上がる。
「だが問題もあります。新しい世界を作ったとして、もうこのようなことが起こらないように連れて行く種族は限らせて頂きたい」
「なっ……」
男性の言葉にはじめてロビンは声を上げる。
「では連れて行けない妖精達はここで闇に飲まれろというのか?!」
「はい。でもすべてが闇に飲まれるよりかはいい選択かと思いますが?」
ヤガーバの顔はずっとにやけていた。
「お前はあまりに簡単に仲間を切り捨てろという。私はそれを許す事は出来ない。それに世界樹は私達の母だぞ?それを見捨てて新しい所へ向かうのか?!」
声を荒立てるロビン。しかしそんな声を聞いてもヤガーバは冷静だった。
「あなたが許さなくても、周りの皆は望んでいるようですが?それに母がこの非常事態に何をしてくれるというのです」
ロビンは妖精の長達の姿を見る。彼らの顔には不安の顔が浮かんでいた。
「だが……」
「怒りや悲しみなんて世界にはいらないのです。むしろ感情がないほうが世界を少しも傷つけないでしょう」
私はヤガーバの話を聞きながら、それは違うと胸の中で叫んでいた。たしかに感情がなければこんな悲しいことは起こらない。でも笑いがあって悲しみがあって、怒りがあるから毎日を楽しく過ごすことは出来る。それなのに感情がない世界になんて暮らしたら、毎日がつまらないだけ。
「まあ、私はどっちでもいいんですよ。ただ王、本当に今必要な決断はなんなのかじっくり考えてもらいたい」
そう言い残してヤガーバは広間から出て行く。その後ろから3人の側近達も出て行った。
後に残された妖精の長達から不安の言葉が洩れる。ロビンは何も言わず玉座に座っていた。
(新しい世界。それが妖精界ティル・ナ・ノーグなのね……)
少しずつ繋がっていく真実。でもそれはあまりに悲しい真実で私はとても苦しかった。ロビンはこの選択をどうするんだろうか。私は大きな決断をしなければならないロビンを助けてあげたかった。しかし私にはどうすることも出来なかった。
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