わたしの隣の魔法使い
第9章 真実
【その6】
ロビンは夕食の時間になった為、大きな広間の部屋に向かった。私も袋に入ったまま一緒に向かう。本当は部屋に残るか聞かれたけれど、一緒についていく事にした。
でも今、私はその判断はちょっと失敗だったかと後悔をしていた。
(な、なんていい匂いなの)
とても大きな広間にある長い食卓の上には肉料理、魚料理、サラダにフルーツ、スープなど見たこともないくらい豪華な食事が並べられていて、それがとてもいい匂いを放っている。私はここにきて何も食べていない事に気が付き、お腹が大きくなった。でも体が小さい為かその音も周りには聞こえない。
(あぁ、お腹が減った)
私はあまりのお腹の減りに袋の中からロビンを軽く叩く。するとロビンの小さな声が聞こえてきた。
「結李、どうした?」
私は少し恥ずかしかったけれど、正直に言う事にした。
「うんとね、お腹が……」
私はちょっとだけ姿を出して、袋に顔を近づけているロビンに耳打ちする。
「あぁ、そうか。でも結李のはあとで用意する。それまで我慢できるか?」
私は今食べたくてロビンに伝えたのに、彼から帰ってきた返答にがっくりする。
「すまない。でも結李はここの料理を口にしないほうがいい」
「わかった……。もう少し我慢する」
手を少し伸ばせばそこに素敵な食事があるのに、私はグルグルと鳴るお腹に耐えつつ袋の中に体を戻した。
私は「少し豪華な夕食」っていうから、ロビンとティターニア姫、あとはエアリエルやモルガンなど知っている顔が並ぶのかと思っていたら、広間には数え切れないくらいの人の数が溢れていて私はとても驚いた。
(ここってあの場所よね)
それに私が今いる場所がジハナムでモルガンに会ったあの大きな部屋だったのにも驚いた。私の生きている時間の世界では崩壊したこの部屋も、今はとても立派で美しい。部屋の奥に玉座も2つある。ロビンはそこに座らずに広間で色々な人たちと話をしながら食事を取っていた。
真っ白い顔の美しい女性達や、とっても醜い老婆、何メートルもの大きさの巨人、体が鱗で出来ている人、モンスターのような恐ろしい姿の怪物など、ここにはたくさんの種類の妖精達が楽しそうに食事を取っている。敵も味方も関係ない広間の和やかな雰囲気に、私はここには幸せが溢れていると思っていた。
「王!オベロン王はいらっしゃいますか?!」
幸せな時間の中、それは突然壊される。
「ここだ、何があった?」
広間の扉が大きな音を立てて開いたと思ったら、廊下から一人の騎士が入ってくる。それを聞いたロビンが扉の方に早足で歩き、そして騎士を見つけ駆け寄った。
「北からの早馬による情報です!アスガルで内乱が起こったとのこと!」
騎士は王の前に跪いている。
「内乱だと?原因はなんだ?!」
騎士は息を一生懸命整えながら話を続ける。広間からは不安の声があちらこちらから聞こえてきていた。
「アスガルの長が何者かによって暗殺され、それが引き金で長老派と反乱派とが戦いを始めた模様です」
「なんだと?」
アスガル。そういえば今日そんな名前を聞いた気がする。たしか不穏が動きがあるとかなんとか。そこが戦いを始めた?私は胸がざわつくのを感じた。
「わかった。お前は自分の持ち場に戻れ」
「はっ」
騎士は走るほどの速さで広間から出て行った。
「サイン、フォルスはいるか!」
そして、ロビンが広間に向かって大声で叫ぶ。
「はっ、こちらに」
その声に、二人の白いローブを着た人物がロビンの前で跪いた。
「今から北に向かう。お前達も来い!」
「はっ」
ロビンの命令に目の前で跪いていた二人の人物がスッと消えた。
「ファト!セド!フィフス!」
「はっ!」
ロビンはまた違う名前を呼ぶ。するとさっきと同じような白いローブの3人の人物がロビンの前で跪いた。
「お前たちは南、西、東の状況を見て来てくれ。これが火種にならないとも限らない」
「了解しました!」
3人が消えたと同時にロビンは広間から出て行く。私は今起きている状況を知りたかったけれど、ロビンの顔はとても厳しくて詳しい事を聞くことは出来なかった。私は袋の中でロビンが止まるまでジッとしていることにした。
「モルガン」
「はい」
ロビンの後ろからモルガンも付いてきているようだった。
「後は任せる。ティターニアも怖がっているだろうから、見ていてやってくれ」
「はい。承知致しました」
「ついに恐れていた事が起きてしまった。妖精界で戦争など……なんて愚かな」
「王……」
ロビンの声はとても苦しそうで、モルガンの声もとても弱くなる。
「お前はもう戻れ。皆、不安がっているだろう。今の状況を説明してくれ」
「はい。王、お気をつけて……」
モルガンはそこで足を止めてそのまま走って広間に戻っていった。
そして扉の開く音が聞こえてきたので、私は袋から顔を少し出した。
「うわ……」
私はてっきり王の部屋に戻ったと思っていた。しかしそれはまったく違っていた。
「すごい」
そんなに大きくない部屋には、様々な色や形の鎧がいくつも飾られている。そして多種類の武器。剣や槍、ランスに弓など、それすべてにたくさんの宝石や模様が装飾されていて、守衛の鎧や武器とはまったく違っていてとても立派で豪華なものばかりが並んでいた。
ロビンは私が入った袋を近くの机に置き、たくさんの中の一つの鎧を身にまといはじめた。複雑な造りの鎧を一人で難なく身にまとうロビンを私はすごいと思っていた。こういうのは普通沢山の人が手伝うものではないのだろうか。
ロビンの鎧は全身真っ黒で、どの部位にも金や赤の模様が施されていてとても美しかった。大きな左右の肩当や最後に羽織った黒いマントには妖精王の紋章が描かれており、これが王の為の鎧なのだと思った。よく見ると周りのどの鎧にも妖精王の紋章が施されている。もしかしたらここは王の武器庫なのかもしれない。
「結李、お前はどうする?」
次々に完成していくロビンの鎧姿。私はそれを見とれていてはじめは彼の声に気がつかなかった。
「結李?」
私はハッと気がつき、ロビンの顔を見る。
「わ、私も行きたい!行かせて、ロビン!」
私はすべてを見たかった。知りたかった。だから私はロビンについていく。
「わかった。でも危険なことがあったら、すぐに城に戻すからな」
「う、うん!」
ロビンは袋から出た私を手ですくい上げる。するとガントレットの金属の冷たい感触が私の足から全身に伝わった。そして私を喉を守るゴルゲットの中に入れてくれた。
「少し窮屈かもしれないが、我慢してくれ」
鎧は掴む事が出来なかったけれど、私は鎧の下に着ている布の服のようなものに掴まる。
そしてロビンは最後に武器を取った。彼が少し動くと鎧のかすれる金属音が聞こえてくる。
「あ……」
ロビンの掴んだ武器。それは私もよく知っている長剣だった。
(聖剣カリバーン……)
それは私のカリバーンとまったく同じの黒い長剣。彼が握るとカリバーンは赤黒く光りだす。
(カリバーン、あなたは本当に妖精王の剣だったのね)
私はカリバーンに話しかけるように左手首の銀の腕輪を触る。なんだか少し熱い気がした。
そしてロビンは聖剣を腰に装備し、そのまま部屋から出て行った。
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