わたしの隣の魔法使い
第9章 真実
【その5】
理想の書庫。今、私の前にそれが広がっていて私は目を思いっきり輝かせている。
その部屋は円柱の形をしていて天井がとても高い。壁は高い天井の上まですべてが本棚になっていて、そこにはびっしり本が詰まっていた。あの一番上の本を取るにはどうするんだろうとか思っていたら、所々にはしごを見つける。そして細い階段や手すりもあったりするので、上の方の本が読みたい場合はそれを利用するんだと思った。
「王、何かお調べ物ですか?」
書庫に入るとすぐに一人の男性がこちらに近づいてきた。真面目そうな背の高い人。
「うむ。ちょっと知りたいことがあってな。あいつはいるか?」
「はい、でもどこにいるんだか。おーい、デックー!」
私はまた聞いた事のある名前が聞こえてきて驚く。デックと言えば要塞都市イグドラ=シルの書庫にいたあのドワーフ?
「あいあいー!今行きますー!」
でも聞こえてきたのはとても若い声だった。そしてしばらくすると、鉄の階段をカンカンと降りてくる音が聞こえてくる。
「これはオベロン王。何か御用ですか?」
声の主がロビンの前で息を切らしている。それは私の知っているデックとは違うけれど、背が小さく体がずんぐりしていて彼の面影はあった。この人を少し老けさせてヒゲを生やしたらあのデックになるかもしれない。
「ちょっと聞きたい事があってな」
「はいはい、なんでしょう?」
軽快なデックの声。
「人間が魔法を使うにはどうしたらいいんだ?」
ロビンの言葉にデックの愛嬌のある顔が驚いた表情を見せる。
「人間が魔法?一体何があったんです?」
デックのとても驚いた顔にロビンは焦りながらすぐに言葉を付け加えた。
「い、いやいや、ちょっと知識として知っておきたいと思ってな。教えてくれないか?」
「はぁ、よくわかんねぇけど了解しました。じゃこちらに来てください」
まだ納得していないデックの表情。でも彼はは軽い足取りで書庫の中を歩き始めた。よく見ると彼は靴を履いていなくて、裸足で歩いている。そして階段を2回上がりどこも一緒に見える本棚の前で止まった。ロビンもそれに付いていく。
「たしかここらへんに、っと、これだこれだ」
背の小さなデックでもはしごを使えば高い本棚の上の本も取る事が出来る。彼は沢山の本の中から躊躇することなく1冊取り出してロビンに渡した。
「これの中にそういう記述があったと思います。みんなあんまり知りたがらねぇが、さすが妖精王ですね」
デックの言葉はたまに方言のようなしゃべり方をするのでなんだかおかしかった。きっと王に敬語を使っているけど、自分の言葉も出てしまうに違いない。
「ありがとう。少し読んでみるよ」
ロビンは本を受け取り地上に降りる。そして書庫にある椅子に座って本を机に置いた。これは図書館の個人スペースのような一人分の机と椅子で、まるで図書館に来ているようで懐かしかった。机の上には鈴蘭のような下に垂れ下がった形の花が置いてあり、ロビンが椅子に座ると優しく光りだした。
「うわ、不思議ね」
私は書庫の人たちに見つからないように出てきてその花を覗き込む。すると花の中には光の玉がフワフワ浮いていた。
「これも魔法?」
「あぁ、そうだよ。ライトの魔法を応用して作っている」
「へぇ、そうなんだ」
ライトという魔法も、その原理なんかは私には全然わからなかったけれど、とにかくとても綺麗な光で、ほんのり温かかった。
私が花の照明に気を取られている時にロビンは分厚い本のページを次々にめくりはじめた。それがあまりにはやいめくり方だったので、私は本の前に座ってロビンを見つめた。
「ねぇ、そんなに早くめくったら何が書いてあるかわからないよ」
こんな探し方じゃ目的の項目が見つかるとは思えないと私はロビンを止める。でもロビンはそのままページをめくりながら私の問いに答えた。
「大丈夫。これで十分頭に入っているから」
「え?これ全部?」
「そうだよ。これが俺の読み方だ」
私はとてもビックリする。なんて便利な読み方なんだろう。私はちょっと羨ましかった。私もこんな風に読めるならいくつもの図書館を制覇するのに。
そしてロビンは最後のページまで到達したようで、本を閉じた。私はその様子を呆然と見ているしかなかった。
「そうか、そういうことなのか」
ロビンは内容を理解したようで、本を持って立ち上がる。
「デック、ありがとう。本を返す」
いつの間にかデックは上から下に降りてきていて、地上の本を読んでいた。ロビンはそこに歩いていき、デックに本を渡す。
「お役に立てました?」
「ああ、よくわかった」
知りたかった事を知ることが出来たのにロビンの言葉はあまり明るくなかった。
でも私はその理由がわかっていた。人間が魔法を使えるようにするには人間に妖精王の涙を渡す事。そしてそれは人間の寿命を縮めてしまうということ。それは決して楽しい事じゃない。
「そうだ、デック。ティターニアが戻ってきたんだ。また彼女に色々本を読んでやってくれ」
「おぉ、姫君がお戻りでしたか。了解です。また今日から忙しくなるぞぉ」
デックは嬉しそうに本を戻す為に階段を登っていった。ロビンはそれを見届けることなく、書庫から王の部屋がある方へ戻って行った。私はその間ロビンに話しかけず袋の中で静かにしていた。今は何故か彼に話しかけてはいけないと思っていたから。
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