わたしの隣の魔法使い
第9章 真実
【その3】
大きな門をくぐりラタトスク城に入るとすぐに一人の女性がこちらに走ってきた。
「王、お帰りなさい」
「モルガン、変わりはないか?」
前に会った時より大人の女性に成長したモルガンは、長い黒髪と胸の開いた清楚な服がよく似合っていた。しかしジハナムの女王のモルガンほど妖艶ではない。
「はい。ただ少し北のアスガルで不穏が動きがあります」
「またアスガルか。しょうがない、今度アスガルの長老に会いに行こう。予定を組んでおいてくれ」
ロビンが急に王の顔になる。私の見たことのない彼の表情。
「はい、了解しました」
モルガンは優しい表情でロビンに小さくお辞儀をした。
見た事のある城のエントランスホールを私はロビンの首元から見ていた。真っ白な城壁に計算された様に並べられた彫像、鏡のように輝いている大理石の床。どこを見ても美しい眺めだった。そして立派な鎧を着た守衛があちらこちらに立っている。
でも私が知っているこの場所はこんなに美しくない。すべてが朽ちてしまった城の末路。だから私はこんなに綺麗なラタトスク城を見るのは少し複雑な気分だった。
「にいさまーーー!」
ロビンとモルガンが妖精界のことをエントランスを歩きながら話していると、遠くから可愛らしい声が聞こえてきた。そしてその声の主がパタパタと小さな音を立てながらこちらに走ってくる。それは小さな女の子だった。
「ティターニア!」
ロビンはその声に気がつくと、走って駆け寄りその女の子を抱き上げた。
「こっちに戻っているとは知らなかったぞ。言ってくれれば迎えにいったのに」
女の子はフワフワな白に近い金色の髪の毛に、白い花のたくさんついたヒラヒラのドレスを着ている。緑の大きな瞳は本当に可愛かった。これがあの美しいティターニア様の幼い時の姿。
(ティターニア様はロビンの妹だったんだ……)
私はその事実に驚いた。でも今の王がティターニア様でその前の王がロビンならありえないことではない。
「兄様を驚かそうと思って、エアリエルに内緒にしてもらうように頼んだの」
「すみません、王。どうしてもと言われまして……」
幼いティターニア様が走ってきた方からもう一人こちらに急いで走ってくる。
(あれがエアリエル?)
エアリエルといったら無表情で冷たくて感情がない美しい風の妖精だけれど、今、私が目にしているのは王を前に少しはにかんだ表情の可愛らしい男の子だった。透けるような緑の髪の毛は肩につかないくらい短い。
「いいよ。こういうのも楽しいものだ。エアリエル、ティターニアは全過程を終わらせてきたのか?」
「はい。王立学院の院長のお墨付きを頂いて参りました。大変覚えがはやいとか」
ロビンを見るエアリエルの顔はとても嬉しそうだった。その可愛い表情にロビンは優しく微笑む。
「私は兄様と一緒に立派な王になるんだもの。一生懸命勉強したわ」
誇らしい顔が可愛いティターニア姫。私はロビンに抱き上げられている彼女に見つからないように首の丁度後ろから隠れて見ていた。
「そうか、それは頼もしいな。頼むぞ、ティターニア」
姫の頭を優しく撫でるロビン。ティターニア姫は嬉しそうに顔を赤らめた。
「任せて、兄様!」
明るい笑い声がラタトスク城のエントランスホールに響く。これはティル・ナ・ノーグにもジハナムにもなかった和やかな空間。私は会話には参加していないし、周りの人はロビン以外私に気が付いていないけど、とても居心地が良かった。
「ティターニア様、お戻りでしたか」
ロビン達が楽しそうにティターニア姫の学院での話を聞きながら歩いていると、長い廊下の先に5人の人物が立っていた。それは皆、背が高くて耳が長く整った顔をしていた。そして、複雑な模様の刺繍が施されている白いチュニックを着ている。
「うむ。さっき戻ったらしい。お前たちは知っていたか?」
「いいえ。知りませんでした。私達を欺くとはさすがオベロン王の妹君」
5人の中の一人が答える。
「当たり前じゃない!私の作戦は見事成功ね!」
意地悪な顔をするティターニアをエアリエルはハラハラした顔で見ていた。
「困った姫だ。まあ、後の事はお前たちに任せる。ティターニアに王の仕事を教えてやってくれ」
ロビンが6人の前でティターニアを降ろす。
「はっ、かしこまりました」
5人は王に深くお辞儀をする。私はその5人を見ながらあることを考えていた。
(この人たち、もしかして女王の側近の……)
あれは忘れもしない。はじめてティル・ナ・ノーグに行った時に私の体の中の力を見た6人。私は彼らの冷たい声がとても怖かった。でもこの5人は黒いフードも被ってないし、冷たい声を発してもいない。
(違うか……)
ただ5人という数が同じなだけで女王の側近だと断定するのはいけないと私は思った。
そして5人はティターニア姫を連れてどこかへ向かっていった。それをエアリエルも追う。この場にはロビンとモルガンが残された。
「また城の中が賑やかになりますね」
モルガンは笑顔でティターニア姫が歩いていった方を見ている。
「そうだな。あれは皆を明るくする力を持っている。今のイグドラシルには必要な力だ」
ロビンが真剣な声になったので、私は彼の顔を覗き込んだ。するとロビンは深刻な顔をしていて私の胸は苦しくなった。
(この世界はやっぱり何かあるんだ……)
今すぐにそれを聞きたかったけど、姿を出すのはまずいと私はまた襟元に隠れる。
「モルガン、夕食は何時からだ?」
ロビンの声がまた普通に戻っていた。
「はい、9の刻からです。今日はティターニア様が帰ってきたということで、少し豪華な夕食が用意されるとのことです」
「わかった。そのころに大広間に行く。それまで休ませてくれ」
「了解しました」
王の言葉にモルガンは軽く頭を下げて今歩いてきた廊下を戻っていった。そしてロビンは少し歩いて、他より装飾が豪華な扉の前に立つ。そしてその扉を開けて中に入っていった。
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