わたしの隣の魔法使い
第9章 真実
【その2】
私はロビンの手のひらに乗るくらい体が小さくなっていた。何度かカイトに体を小さくしてもらったことがあるからこの魔法をかけられても特別驚きはしなかった。
「お前やっぱただの人間じゃないな。魔法を使っても驚かない人間ははじめてだ」
「そう?まあ、色々あってね」
魔法に驚く芝居は出来るけど、今更偽ってもしょうがないと私はまた適当にごまかすことにした。
「色々か。ほんと、結李は不思議な奴だな」
彼は私の誤魔化しを軽く流してくれる。それはとてもありがたかった。そしてロビンは私を手に持ったまま何かを小さく唱えた始めた。
「うわっ」
するとロビンの背中から大きな真っ黒い羽根が出現する。それはまるで黒アゲハ蝶の羽根のように大きくて艶やかで美しかった。
「よし、城に戻るぞ。結李、俺の襟元でしっかり掴まっていろ」
「うん」
私はロビンのコートの立てた襟の中に入ってしっかりと掴まる。これならきっと外からは見えないはず。ロビンの首元はティターニア様のようにすごくいい匂いがして、私はすごくいい気分になった。
そしてロビンはふわっと浮かび上がると共に、空を飛び始めた。背中の羽根の羽ばたく音が私の耳元に響く。はじめは一気に上に飛び上がったようで、体にすごい圧が掛かったけれど、しばらくしたら楽になったので私はロビンの襟元からゆっくりと顔を出す。
「うわぁ!」
「綺麗だろ。俺はこの風景がすごい好きなんだ」
私は周りに広がる風景に感動をする。空が暗くなりはじめているので細部まではわからなかったけれど、地平線まで広がる果てしない草原に迷路のように流れる大きな川やたくさんの森、そして所々に小さな集落のような場所があり、その淡い光がなんとも綺麗だった。昼間に見たらさらにいい風景に違いない。でも青紫の夜空に浮かぶ真っ白な月も幻想的で美しかった。
「あ、あれは……」
そして広がる草原の向こうの方にとても大きな1本の樹があることに気がつく。それは遠くからでもとても大きく見え、近くに寄ると信じられないほどの大きさに違いないと思わせた。
「世界樹イグドラシルね……」
「結李、よく知っているな。まああれくらいなら知ってるやつも多いか」
「そう、なんだ?」
私達は風を感じながらイグドラシルの方向にまっすぐに進んでいる。たまに空を飛ぶ何かとすれ違ったけれど、私にはそれが何かはわからなかった。「空を飛んでいるのは俺らだけじゃないからな」とロビンが簡単に言うので、きっと他の妖精が飛んでいるに違いない。
「人間はあまり好んでここには入ってこないけれど、イグドラシルの存在は良く知られている。妖精達の命の樹だってな」
「命の樹?」
「あぁ、俺ら妖精は人間のように体から生まれてくるわけじゃない。色々な物から生まれ出でる。その源が世界樹なんだ」
「へぇ。じゃああれはあなた達のお母さんってこと?」
私の答えにロビンは大きく笑う。
「あはは。そうだな。そういうことになる。世界樹があるからこの妖精界のすべての生き物は暮らしていける。それは花や木々水なども例外ではない。だから俺たちは世界樹を、母を守らなければならないんだ」
私はそう話すロビンの顔を見る。彼はとても真剣な表情で私に話してくれていた。
そして気がつくと私達は世界樹のすぐそこまで近づいてきていた。その世界樹を取り巻くように大きな街が作られているのが上から見える。それはまるで、要塞都市イグドラ=シルのように美しい街並み。ロビンはそれを飛び越えてさらに世界樹に近づいていった。すると樹の根の辺りに大きな建物が見えてくる。
「ここはもしかして……」
私はここを見た事があった。白いレンガ造りの世界樹を取り囲む巨大な城壁。大きくて真っ白でとても荘厳な雰囲気を出している大きな城。でも私が知っているのは同じ形でもこんなに美しくはない。木の根がびっしりと張り巡らされていて廃墟のような城だった。
「ラタトスク城だ。俺ら王族はあそこに住んで妖精界を守っている」
「そうなんだ」
「じゃ、中に入るぞ。周りの奴らに見つかると面倒だから、人がいる時はそこから出るなよ」
「う、うん」
私は頷きながら他の事を考えていた。だからロビンが城に一気に急降下したのに気がつかず、そのまま振り落とされそうになったのを必死に襟元を掴んで堪えた。
私にはここがどこなのかもうとっくにわかっていた。クリスタル・ガーデンに世界樹イグドラシル、そして世界樹の周りを取り囲む城。
(ここは昔の闇の国ジハナムなんだ……)
まるで私の世界にあるティル・ナ・ノーグのように美しい昔の妖精界。こんな美しい所がどうしたらあんな悲しい世界になるのかは今はわからない。でもこのままロビンについていけばきっとそれもわかるに違いない。だから私はそれを恐れずにこのまま彼についていく事にした。それにどんな理由があったとしても。
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