わたしの隣の魔法使い
第8章 闇の国ジハナム
【その9】
わたしは見たことのある場所に立っていた。右も左も黄金の輝く草原。腰まである輝くばかりの草本の中で私は立っていた。空は雲ひとつない真っ青な空。太陽の光がとても眩しい。
「ここは……」
夢の中なのか、あるいはティル・ナ・ノーグなのか私はわからないでいた。でも私は確かにモルガンに魔法をかけられてここに来ている。それならここはいつもの夢ではないはずだ。ここは一体どこなんだろう。
夢の時のように下手に動いてはいけないだろうと私はそこに留まっていた。でもいくら待っても何も起きない。
「モルガンは私に何を見せようというんだろう……」
私はただ立っている事に疲れてその場に座り込む。すると不思議なことに、まわりの草本も同じくゆっくりと倒れていった。そして私の周りに草本の床の小さな広間が出来る。私は疲れてしまってその場に寝転がった。太陽を吸った草本のいい匂いが私の心を落ち着かせてくれる。
「お前、人間か?」
私はもう少しで眠りの世界に入る所だった。でもいきなり聞こえてきた声に目を覚ます。
「誰?」
私は急いで体を起こすと、そこには少年が座って私を見ていた。少年は全身に煌びやかな衣装を身にまとっている。
「ここはたまに愚かな人間が迷い込むんだ。こんな所にいると悪い奴らに食べられるぞ」
私はその少年を見て、誰かのことを思い出していた。
「ロビン?あなたはロビンなの?」
綺麗な黒髪ととても目立つ金色の瞳をした少年を私はすぐにロビンだと気づく。私が少年をロビンと呼ぶと、少年は驚いた表情を見せる。
「お前、なんで俺のその名前を知っているんだ?」
少年は私をすごく不審な目で見ている。そして上から下からジロジロを見ていた。
(そうか、もしかしたら……)
私は頭の中ですぐに理解する。これはきっと『私のことを知らない』ロビンなんだと。もしかしたらここは……。
「え、えっとね、ど、どこかで聞いたの。わ、私は結李、宜しくね」
こんな誤魔化し方じゃ誤魔化しきれてないのはわかっていたけど、私はあたふたしながらとにかく誤魔化そうとした。その私の変な仕草に少年は大きな声で笑う。
「お前、変な奴だな。気に入った。ユーリ、宜しくな」
少年はクシャクシャな顔をしながら太陽のように笑う。それはとても可愛かった。
「――様!どこにいらっしゃるのですかー?!」
すると、遠くからまた違う声が聞こえてきた。ロビンはその声を聞くや、私の後ろに隠れる。
「え?え?な、なんなの?」
「いいから、俺を隠せ。あいつが来てもいないっていうんだ」
でも私の後ろに隠れてもばっちり姿は見えている。これで本当に隠しているといえるのか自信はなかったけれど、ロビンはそれ以上何も言わなかったので私はとにかく焦らないように心を落ち着かせた。しばらくして、人が一人こちらに向かって走ってきた。そして私を見つけ傍に寄ってくる。
「あなた、王様を見なかった?」
その人はメイドのような地味な黒い服を着た女性で、とても優しそうな容姿に小鳥が鳴くような綺麗な声をしていた。大人の女性というより、私と同じくらいの歳かもしれない。
「王様?」
「あら、あなたは人間?どうしてこんな所に?」
「いや、私は、別に」
さすがに魔法でここにきているなんて言えるわけもなく適当にごまかした。後ろに隠れているロビンは私には見えていたけれど、この女性にはどうやら見えていないようだった。
「そろそろ闇が世界を覆う時間よ。オーガの餌になりたくなかったらその前にここから抜け出すといいわ」
「は、はい」
オ、オーガの餌?それはかなり勘弁です。
「帰り道は……こっちの方向ね。進めば自然と村に出ると思うの。わかったかしら?」
彼女は私に優しく微笑んでくれる。私も自然と笑顔になっていた。
「は、はい。ありがとうございました」
でもこんな人の良さそうな人に嘘を付くのはとても心が痛んだ。だから私の行動もきっと怪しかったに違いない。何度も言葉が詰まる。
「じゃ、途中でオベロン王に会ったら、すぐに帰ってくるように伝えてほしいの」
「わ、わかりました」
明らかに怪しい私。でも目の前の女性は私に必要以上は聞いてこなかった。
「あと見ていない所は……、まったく、毎度毎度困ったお人だわ」
そう軽い愚痴をこぼして女性はまたどこかへ消えていった。後ろのロビンは何度も周りを確認して私の前に出てくる。
「ふいー。うまく撒いたようだな。あいつ、しつこすぎる」
ロビンは汗をふくような仕草をする。
「ねぇ、あなたロビンよね?」
さっき女性は『オベロン王』を探していると言っていた。でも私の目の前にいるのはロビンのはず。
「あー、それは俺の幼名なんだ。今の名前はオベロンだ」
「幼名?」
私の目の前の彼も十分に若いけど、もっと小さい時の名前ってことなのだろうか。
「ロビンという名は一部の王族しか知らない名前のはずなのに、お前が知っているのが不思議だな」
だって私はあなたに教えてもらったんですもの。でもさすがにそれは言えなかった。
「あー!こうしている間にもモルガンが戻ってきてしまう。俺はもう行くな。ユーリ!しっかり帰るんだぞ」
「え?!」
私はロビンから出るある名前にとても驚く。それは『モルガン』という名前。
「あれがモルガンなの?」
私が知っているモルガンは黒猫でもあり、妖艶で美しいジハナムの王。でもたった今見ていたモルガンはまったく違った容姿をしていた。
しかし、それを聞きたくても、もうロビンは見当たらなかった。気がつくと私は広い草原にまた一人で立っていた。
私の考えが正しければここは夢の中でもティル・ナ・ノーグでもない。
「ここは昔の世界なのね」
なんとなくはまっていくパズルのパーツ。私は本当にモルガンによって真実を見せられている。まだ何も分かっていないけれど、やはりロビンが妖精王でオベロンという名前だということ。ロビンとモルガンは顔見知りだったことがわかった。この先には何が待っているのだろう。
そして私の視界がだんだんと霧がかかるかのように白くなっていった。
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