わたしの隣の魔法使い
第8章 闇の国ジハナム
【その7】
世界樹イグドラシルから城の中に入った私は、長い廊下を歩いている。大樹の周りを囲むように建っている城の為、廊下も少し湾曲に曲がっていた。太陽が出ていないので大きな窓からは光が注がれていない。だから廊下はひっそりと暗かった。そしてやはりここにもツタや根に張り巡らされていて、廃墟のような所だった。
長い廊下には沢山の扉があったけど、そこには目もくれず私達は先に進む。この扉の数だけ部屋があると思うと、ここはどれだけ広い城なんだろうと思った。でもどの扉も木の根が深く絡み合って、長い間誰も触れていない感じがしていた。
そしてムガーが廊下のつきあたりで止まったので私とノクトも立ち止まる。そこには他のとはまったく違う装飾が見事な大きな扉があった。ここだけは他の扉とは違い、木の根が絡まっていない。
「ここだ。この中にモルガン様がいる」
「う、うん」
モルガン。私は彼女に何度も会った事がある。彼女は小さなネコの妖精だった。
そして小さな体のムガーが扉を重そうに押す。すると鈍い音を立ててゆっくりと大きな扉が開いていき、その先には大きな広間が広がっていた。
「うわ、広い!」
学校の体育館のように天井が高くてとても広い空間に私はとても驚いた。私が大きな声を上げると広間に声が響く。でもやはりここも木の根に占領されていて、古いホコリの匂いが鼻についた。それにだだっ広い空間には椅子や机などは何もなく、ただ何もない空間が広がっていた。きっとここもあまり使われていないんだろう。でもよく見ると広間の壁には色々な装飾が施され、根を全部取り去るときっとすごく立派で美しい広間が現れるのだろうと思えた。
「よく来たな。お嬢ちゃん」
広間の奥の方から声が響いてきたので私はその方向に進む。そこには玉座のようなものが2つ並んでいて、その一つに誰かが座っている。
「あなたが……モルガン?」
そこに座っていたのは小さな猫ではなかったけれど、私は直感でそれがモルガンだと思った。
「この姿で会うのははじめてだったな。で、隣は誰だ?」
長い艶やかな黒い髪に胸の開いた服を着た妖艶なモルガンがこちらを見ている。モルガンは貴金属はあまりつけていないのに、その美しい姿だけでとても煌びやかに見える女性だった。
「私はティル・ナ・ノーグ第一王子のノクトです」
ノクトがいつもと違う風に話をするので私は彼を見る。すると表情もいつもと違っていた。やはり彼の体の中には妖精界の王の血が流れているようだった。
「なるほど。ティターニアの次の王というわけか」
「あなたはモルガン・ル・フェ、闇の国ジハナムの女王ですね」
モルガンはノクトにそうだというように微笑む。私はそれを見てドキッとしてしまった。なんて心を捕らえてしまう美しい顔なんだろう。ティターニア様とはまったく違った美しさ。
そしてノクトを見ていた彼女の視線が私の方に向く。
「お前、名前を聞いていなかったな。名前はなんという?」
「は、はい。私は結李です。河原結李」
声が緊張する。でも不思議と怖くはなかった。
「ではユーリ、今日はこんな所に何をしに来た?」
モルガンは頬杖をついてこちらをジッと見つめている。
「はい、え、えっと」
緊張で上手く声が出てこない。ノクトに助けを求める事も出来たけれど、私は自分で言わなければと思って体にギュっと力を入れる。
「教えて欲しいんです。妖精王のことを」
カイトを助ける方法を知るにはまず妖精王のことを知らなくてはならない。知りたくても知る事の出来なかった彼のこと。
「それならティル・ナ・ノーグで調べればいいだろう」
「それはもちろん考えました。でも向こうは私達に知られたくないようで……」
だから私はこんな危険な行動を取った。カイトが知ったらきっと怒るかもしれない。
「ふむ、そうか」
モルガンは私の問いに少し考えていた。
「わかった。ではその前に私の質問に答えてはくれないか?ユーリ」
「え?質問?」
向こうから質問されるとは意外で、私は少し戸惑う。
「そうだ。お前がジハナムに来てどう思ったか知りたいんだ」
モルガンの顔はとても真剣だった。
「率直な意見でいい。教えてはくれないだろうか」
私は闇の国にいきなり飛び込んでしまって、これが罠かもしれないともずっと考えていた。そのまま掴まってジハナムの封印を解かれてしまうかもしれないとも思っていた。それなのに、ジハナムの女王を目の前にこの空間ではまったく戦う意志は感じられない。それに敵の王であるモルガンからはとても穏やかな声が聞こえてくる。だから私は彼女の質問もきちんと考えようと思った。
「そうですね……」
私はこの闇の国に入ってからずっと違和感を感じていた。たしかにここは恐ろしい場所なんだけど、なんだか想像していたのとまったく違っていた。
「なんだか違っていたんです。私の考えていたジハナムとは」
「うむ。話してくれ」
そして私は自分の思っている事を話し始めた。
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