わたしの隣の魔法使い
第7章 カイトの秘密
【その12】
私とカイトはとてもよく知る場所に立っていた。
「戻ってきたんだ……」
それはカイトの家の庭で、エルドラドランドのお化け屋敷から一気にここまで瞬間移動してきた。私はカイトに掴まっている手を離す。
「ユーリ、ごめん」
わたしはカイトの顔を見れないでいた。ホラーキャッスルに入っていて忘れようとしていたことが雪崩のように頭の中に押し寄せる。
「いいの。全部忘れて。私になんて心の中を知られたくないよね」
私はカイトを見ずに話す。顔を見ると泣いてしまいそうだったから。
「カイトはカイトだもんね。うん、それでいい。それでいいよ」
これはきっとカイトに言っているんじゃなくて、自分の心に言っていたのかもしれない。こうやって誤魔化さないともうカイトの顔を見ることが出来ないと思ったから。
「違うんだ、ユーリ。違うんだよ」
「違う?何が違うっていうの?」
「……」
私はカイトのほうをゆっくり振り返る。まだ魔力が残っているのか輝く白い髪の毛をなびかせていた。夜の闇の中で輝くカイトの姿。それは妖精よりも神秘的だった。
「……知られたくないんじゃない。知られるのが怖いんだ」
「え……?」
「ごめん、ユーリ。自分の気持ちに蓋をするのにもう疲れた……」
「カ、カイト?!」
カイトが急に倒れこみそうになったので、私は急いでカイトの体を支える。カイトはもうすでに意識がなく、昨日と同じように苦しそうな表情をしていた。
デュラハンの戦いからずっとカイトは息が上がっていた。いつもならそんなことはないのに今日は少し違っていた。私はそこでカイトの異変に気がつけばよかったのかもしれない。しかし私は自分のことでいっぱいいっぱいだった。
「カイト?カイト?大丈夫?!」
しかし何度呼んでもカイトは起きなかった。私はどうしたらいいのかわからずうろたえる。
「オレがベッドまで運ぼう」
私は知っている声が聞こえてきたのでホッっと安心する。それはいつも私を助けてくれる小さな妖精ノクトの声。
「良かった、ノク……ト?」
私はそこに小さくてフワフワ飛んでいるノクトがいると思っていた。しかし、私の目の前には知らない私達と同じサイズの人が立っている。でもその声になじみがあって私は困惑した。
「誰?誰なの?」
「オレはノクトだよ。って、この姿じゃわからないか」
「ノクト……?」
たしかにノクトと同じ褐色の肌に瞳の色をしているけど、私の知っているノクトは小さくて可愛くて。でもこの人は可愛いというよりとても素敵な男性だった。高貴な人が着るような衣装を身にまとっている。
「さ、カイトを運ぼう」
「う、うん」
ノクトの劇的に変わってしまった姿に困惑をしていたけど、今はそれよりカイトだった。苦しそうなカイトの表情に私はとても心配になる。でも昨日も少ししたら回復をしていた。だから今日もそうだと思っていた。
カイトの部屋で私はずっとカイトを見ていた。カイトの表情はなかなか落ち着かず、ずっと苦しそうな表情のままだった。私は心配でたまらずとても不安になる。
「海斗!」
だから私は芽衣が部屋の中に入ってきた時、そちらを見ることが出来なかった。
「何度電話しても出ないと思ったら……なんなの?!これは一体何なの?!」
「芽衣……」
「結李!海斗に何をしたの?!何をさせたの?!」
私は何も言えず下を向く。芽衣はそんな私の頬を強くはたく。私はその勢いに床に倒れてしまった。
「ユーリ!」
ノクトが倒れる私の元に駆け寄る。芽衣はノクトを見てさらに眉を上げる。
「あんたたち妖精のせいで海斗は!海斗は!!」
芽衣の怒りは最大を振り切り、その目からは涙が流れ出していた。私はそれに驚く。
「芽衣、ごめん。ごめん」
私は謝るしか出来なかった。またカイトをこんな目に合わせてしまった。
「ごめん?そう思うならもう海斗に近づかないでよ!海斗に魔法を使わせないでよ!何も知らないと思って……何も知らないと思ってぇ!」
芽衣はカイトが眠るベットに手をついて大きく泣き出す。
「え?何なの?何を言っているの?」
私は体を起こし、芽衣に近づく。
「ユーリ、やめろ」
それをノクトが止めたけれど、私は芽衣の言っている事が知りたかった。
「芽衣、何なの?私が何を知らないというの?」
それを聞いた芽衣がキッと怒った表情をして、私を睨んだ。
「じゃあ教えてあげるわ」
芽衣が立ち上がって私と同じ目線になる。
「海斗はね、魔法を使うたびに寿命が削られていくのよ。あんたは何も知らないで海斗に頼っているかもしれないけどね、海斗はその度に死が近づいていっているのよ」
それは私の想像を超えた秘密だった。私は倒れそうになる。
「これを知って海斗に近づくほどあなたは無神経な人間かしら?」
私は少し間を置いて首を横に振る。
「じゃあ今すぐここから出て行って!もう私達の前に姿を現さないで!」
私は自分の部屋に戻っていた。もう誰とも話したくなくて、ママに声をかけられたけどそのまま部屋に閉じこもった。そして私は大きな声で泣く。
「ごめん、ごめん、カイト」
私は知らなかった。知らなかったですまされることではないことを私は知らなかった。
「どうしたらいいの。私はどうしたらいいの」
「どうしようもしなくていいよ」
「え……!」
私はその声ですぐに振り返る。そこにはカイトがたっていた。
「カイト!どうしてここに!」
まだ赤い目で白い髪のままのカイト。ここまでは瞬間移動でしかこれないはず。
「また魔法を使ったの?!」
そしてまた寿命が縮まる。
「ダメだよ!ダメ!ダメよ!カイト!」
私はもうなんていっているのかわからなかった。混乱して取り乱して叫ぶ。そんな私をカイトは強く抱きしめてくれた。
「いいんだ。君の為なら命なんてどうでもいいんだ」
「私はどうでも良くない!私なんかの為に命を使わないで!」
「じゃあ俺はユーリをみすみす敵に奪われろなんていうのか?それなら死んだ方がましだ」
「でも私はカイトを殺したくなんてない!」
私はカイトの胸の中でカイトを叩く。私はこの人が好きで、でも自分の存在がこの人を危険にしてしまうことが許せなかった。
「こんなことなら出会わなければ良かった……」
あそこでぶつからなければカイトは魔法をたくさん使うことがなかった。
「そんなこと言うな、ユーリ」
「でも私がすべて悪いの。私のせいで……」
「じゃあ俺の気持ちは無視なのか?」
「え?」
私はカイトの顔を見る。赤い目が私をまっすぐ見つめている。そして私の唇にカイトの唇が重なった。
「こんなにも可愛くてこんなにも愛しい君に出会ったことを俺は一回も後悔したことなんてない」
カイトとキスをしたことを私は信じられないでいた。
「もともと俺ら魔法使いは寿命が短い。だから俺は誰も好きにならないと決めていた。愛し合っても相手を不幸にするだけだからな」
「あ……」
私は西角君から教えてもらったことの意味をはじめて知る。
「でも俺はユーリに出会い、ずっと自分の気持ちに気がつかないようにしていた。自分を隠していた」
カイトの話し方がいつもと違っていた。これが本当のカイトなのかもしれない。
「君は俺の前で楽しそうに話す。嬉しそうに振舞う。大きな声で泣く。コロコロ変わる君をいつからか愛しいと思うようになってしまったんだ」
「カイト……」
私もそう。私もいつの間にかあなたを好きになっていた。
「今でも自分の立場が嫌になる。俺が君をこんなにも苦しめているのだから。もっと普通に君と出会いたかった」
「違う。私がカイトを苦しめているのよ。私があなたに魔法を使わせてしまっている」
「そんなのどうでもいいんだよ。俺は死ぬのが怖いわけじゃないから。それより俺は君を守ることを選びたかったんだ」
「嫌よ、私はあなたを死なせたくない」
私はカイトを強く抱きしめる。この温もりが消えるなんてそんなの嫌だった。
「ユーリ、ずっと言えなくてごめん。いつか知られるのはわかっていたのに、知られたくなかった」
カイトも私を強く抱きしめてくれた。
「今日君に俺の本心を言われて正直焦った。なんて答えていいかわからなかったんだ」
「ごめんね。私はずっとカイトのことが知りたかったの……」
「わかってる。俺もだんだん自分を隠すことに疲れてきたのかもしれない。だから今日、あんな行動をとってしまったんだ」
それはきっと私の手を繋いだことだと思った。
「ユーリ、俺の体はもうどれくらい生きられるかわからない」
「……え?」
私の頭の中は真っ白になる。
「さすがに強い魔法を連続で使ってしまったのは良くなかった」
私はそれに答えられないでいた。
「今も実はノクトに頼んでここまで運んでもらったんだ。だからもうそろそろ戻らなければならない」
「カイト?」
気がつくとカイトの体が少しずつ薄くなっていっている。
「でもこれだけは知って欲しい。誰がなんと言っても俺の気持ちは一つなんだ」
もう感触がなくなっているカイトの体。そんなカイトが私にもう一度口付けをしてくれた。
「ユーリ、俺は君を愛しているから。君に出会えて本当に良かった」
そしてカイトは完全に消えていった。私はしばらくそこから動けずに、立ちすくんでいた。まだカイトの温もりが腕に残っている。唇にカイトの感触が残っている。
「何よ……何なのよ……」
そして私はまた泣き出す。
「私、何も言っていないじゃない。私にも言わせてよぉ……」
それは悲しいカイトの秘密。私はこれからどうしたらいいんだろう。カイトを助けることは出来ないのだろうか。でもこのまま何もしないでいることは絶対に出来ない。だから私は決めた。
「ロビン、まずはあなたと話をしなきゃ」
私は左の手首の腕輪を見ていた。そして私は強くなりたいと願っていた。私は今までカイトにたくさんたくさん守られてきた。次は私があなたを守る番。
すべては優しくて愛しいあなたを救う為に。これでさよならなんて絶対にさせないから。
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