わたしの隣の魔法使い


第7章 カイトの秘密
【その10】


 楽しいカイトとのデート。いくつものアトラクションを周っていくつものお店を見てたくさんお話をして。とても満たされた1日で、これ以上楽しい日はないと思えるくらい私は楽しかった。それにカイトとの距離もとても縮んだ気がする。
 それなのに、私はずっと喉につかえた骨が気になるようにふと気が緩むと思い出すことがある。
(今、私の隣にいるカイトの心の中には何があるのだろう)
 楽しく笑うカイト。楽しく話をするカイト。私に微笑みかけてくれるカイト。私はそんなカイトしか知らない。あなたの本心は本当は何も知らなかった。だからずっと喉の骨が取れない。
「ねぇ、カイト」
 もう日が落ちそうな時間。エルドラドランドには色とりどりのイルミネーションが輝いている。どこを見てもとても鮮やかで綺麗。これから夜のパレードがあるのか、そこら中の道に場所取りをしている人たちが目に付く。私とカイトは園内のレストランで少し早い夕食をとっていた。
「ん?」
 美味しそうな肉料理とサラダとスープ。そんな定番な組み合わせでも普通のお店とは違うセットのようなお店の中でより美味しく感じられた。私とカイトは同じものを食べている。
「聞きたいことがあるんだけど」
「なんだろ?」
 ほんとうは聞きたくなかった。私の口から出したくなかった。でもこのままでは私の喉の骨は刺さったままで、ずっと痛いままだった。だから私は決心する。それにカイトはすんなりそれの説明をしてくれるのではと思っていた。それだけ私はカイトとの距離が縮んだと思い込んでいた。
「この間ね、カイトの中学の時の友達に会ったんだ」
「へー、誰?」
「西角君って人。カイト、覚えている?」
「おー、西角か。覚えているよ。まだ小さかった?」
「うんうん。カイトのこと、『滝沢王子』って呼んでいたよ」
 それを聞いてカイトがいやーな顔をする。
「まだその名で呼ぶか。その件に関しては何度も怒ったんだけどね」
「あはは。またカイトに会いたいって言っていたよ」
「そっか。じゃあ、久しぶりに連絡してみようかな」
 私はこんなことを話したいわけじゃない。膝に置いた手に力を入れて握る。
「でね、その西角君が言っていたんだけど……」
 私はカイトから目線を外した。
「カイトって、誰も好きにならないって本当?」
「え?」
 私はカイトの顔を見ず、食事が並んでいるテーブルの上を見ていたからカイトの表情はわからなかった。
「私はそれを聞いた時、芽衣がいるからそういうことを言っているんだなーなんて思っていたんだよね」
 一度出てしまった言葉は止まらない。
「でもこんなことも聞いたの。僕と一緒にいても不幸になるだけだからって。ねぇ、それってどういうことなの?」
 私はここではじめてカイトの表情を見る。カイトはどんな表情もせず私を見ていた。
「私ねカイトといてとっても楽しいの。ずっと寂しかったから余計なのかもしれないけど、毎日すごく充実している気がする。それでもカイトは一緒にいても不幸になるっていうの?」
 カイトは私の問いには答えてくれない。
「私はあなたに出会えて良かったと思っている。こんなに刺激のある毎日は他には絶対ないもの。でも時々私はカイトがわからなくなるの」
「……」
「ごめんね。私、話し出すと止まらないみたい。でも私はあなたの気持ちが知りたいの。あなたの心を知ってみたいの」
 レストランにはたくさんの人が食事をしている。だから私はなるべく感情的にならないように気をつけた。
「何かあるんだったら、私に教えて」
 教えてほしい。私はあなたのことが知りたかったから。もっと近くにいたかったから。
「……ユーリには関係ない」
「え?」
 カイトの意外な言葉に私は止まる。ずっと私を見ていたカイトの目線が私から離れた。
「何で教えなきゃいけない?君に僕の心なんて知って欲しくない」
「カイト?」
「西角から何を聞いたのか知らないけど、それ以上言わないでくれ」
 カイトの声がだんだんと冷たくなっていく。私はこれ以上何も言えなくなってしまった。

 前を歩くカイト。あれから私達は会話をしていない。近くでパレードをしていてもカイトはそれに目もくれずに出口の方向に歩き出してしまった。私も無言でカイトの後ろを着いていく。
 やっぱり言わなければ良かった。言ってしまえばこうなってしまうことくらい分かっていたのに。それでも私はずっと苦しかった。切なかった。あなたの心を教えてくれないなら、何で私の手を握ってくれたんだろう。なんで優しくしてくれたんだろう。カイトの言っていることがさっぱりわからない。優しいカイトと冷たいカイト、本当のあなたはどっちなの?
 そう思い始めると止まらなくなる。私の胸が剣は刺さったように痛くなり、目からは大粒の涙が流れる。それは声にならない悲しみ。愛しい人は目の前にいるのに、それに手を触れることは出来ない。私は足を止めて遠くに行くカイトを見ていた。
(私はこんなにもカイトが好きだったのね……)
 突き放されてしまったのに私の心はあなたで一杯だった。関係ないなんていわれても私はあなたが大好きだった。いくら冷たくされても、訳の分からないことを言われても、私はあなたを愛してしまっていた。
 そして私の足は自然と出口と反対の方向に走っていた。夜の闇と大きなパレードの音楽が私の涙と声を消してくれる。だから私はたくさん涙を流した。流せば悲しみも消えると思っていたから。
「お一人様ですか?」
 私はあるアトラクションの中に来ていた。パレードの時間だけあって、すごく空いている。私は待ち時間なしにアトラクションの乗り物に一人で乗り込んだ。まだ涙は止まっていなく、きっとスタッフの人に変に思われたに違いない。でもそんなことを気にしているほど私の心は冷静ではなかった。
「もう、何でもいいや」
 馬車の形をした動く乗り物に乗った私は、はじめから目をつぶり耳を手で覆った。それでも大きなアトラクションの音は耳まで届く。それは静かだけど恐ろしい音楽。
 ここはエルドラドランドのお化け屋敷であるホラーキャッスルだった。
「この気持ちを忘れられるなら、怖いほうがいい……」
 過ぎてしまったことは決して戻ることが出来ない。だったらこれからのことなんて考えたくなかった私は、大嫌いなお化け屋敷に一人で来ていた。空を飛び回るお化け達や墓の下から蘇るゾンビ達、そして私の横を通り過ぎる馬に乗った首のない騎士。
「怖くない。作り物だから。怖くない」
 私は呪文のようにそんなことを繰り返す。恐怖が悲しみを取り去ってくれるなら何度でもお化け屋敷に入る。真っ暗な世界は怖かったけれど、私はその時だけ自分の心の中を恐怖で満たせると思った。
 しかし、私はしばらくして自分の今の状況がおかしいことに気がついた。
「あれ?」
 何故か私が乗っている乗り物が止まっている。それに周りのお化けも前を走るアトラクションの乗り物もみんな少しも動かなかった。
「何これ、みんな止まっているじゃない」
 自分以外全てが静止した世界。音もまったくない世界。私は馬車を降りて周りを歩く。そしておそるおそるお化けやゾンビに触ってみたけれど、動く気配はしなかった。
「止まっている……」
 私の前の馬車に乗った人たちも静止したままで、声をかけても少しも動かない。
「何?何なの?これって……もしかして」
 でも気配はしなかった。少しも感じなかった。今までカイトと一緒にいたのにまったく気がつかなかった。
 しかし私は気がつく。音のない世界の中で遠くから何かが聞こえてくることに。それは馬の蹄が地面を蹴るような音。その音は私の後ろから聞こえてくる。
『姿を現せ 聖剣カリバーン』
 私はカリバーンを呼び出し構えた。真っ暗な世界の中で遠くで何かがボオッと光る。そしてそれが徐々にこちらにやってきていた。それはとてもゆっくりとしたスピードで、その形を認識するまで時間がかかってしまった。
「あ……」
 私の近くまでやってきたそれは、私がさっきお化けだと思っていたもので、その時は馬車に乗っていたから大きさまで気にしなかったけれど、驚くほど大きな姿だった。
 真っ白い大きな馬に跨る首のない騎士。その騎士が持つ剣が私に向けられていた。



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