わたしの隣の魔法使い
第7章 カイトの秘密
【その9】
「ユーリ大丈夫?」
私は1つ目のアトラクションを乗り終えた所で、何故か青い顔をしていた。
「う、うん。ごめん、久しぶりにああいうのに乗って目が回ったのかも」
トロッコアドベンチャーが想像以上に急降下が沢山あって、私は軽く酔ってしまった。足がまだ少しフラフラする。だから次のアトラクションにすぐ乗らず、園内を少し見て周ることにした。
「でも、よく出来ているよね。見ているだけで楽しいもの」
アトラクションももちろん楽しいんだけど、園内の飾りやお店などもその雰囲気を徹底していて、ゴミ箱が宝箱だったり係員が冒険者や秘境の民族のような格好をしていたり、こうやって歩くだけでも十分楽しかった。
「あれ?あっちにお城が見えるよ」
今私達がいるアドベンチャーエリアと呼ばれる遺跡のような風景の向こうに、それに似合わないような城が見えている。カイトが地図を広げて見てくれた。
「あそこは……、キャッスルエリアって言うのかな。こことは違うエリアみたい」
「へー、なんか面白そう。行ってみよう」
そして私達はお城がある方向に歩いていく。すると急に地面の色が土色から灰色に変わる。そして周りの街並みもお伽の国のように変わっていった。
「わー、全然違うんだね」
私はまるでお姫様が住む世界に入ってきてしまったような錯覚に陥る。これは女の子が好きそうなエリアだった。まわりにカップルがたくさんいるような気がする。
「ユーリ、あの城もアトラクションの一つみたいだよ。行ってみる?」
カイトが地図を見ながら私の後ろを歩いている。
「ん?どれどれ?」
私はカイトの傍に行き、マップを覗き込んだ。
「えっと、なになに……突如闇に襲われた古城。あなたはその原因を目撃する……馬車に乗って進むホラーキャッスル……って!これお化け屋敷じゃない!」
お化け屋敷と想像した瞬間、せっかく治ってきた気分がまた戻ってきそうになる。
「むりむり!絶対無理!」
「あはは。想像通りの反応、ありがとう」
カイトが意地悪な顔を私に見せた。
「もー!カイト!」
このカイトの意地悪も私はとても好きだった。もちろんお化け屋敷にはいかないけど、こうしていじられるのは嫌いじゃない。
「あ!やっと見つけた!」
「ん?何を?」
お姫様か貴族になったような気にさせてくれるキャッスルエリアを歩いていて、私はあるワゴンを見つけた。そこには数人の人が並んでいる。
「アイスのワゴン!」
「アイス?」
カイトは首を傾げる。私はにんまりと笑った。
「実はね、さっき食べている人がいて、美味しそうだなぁなんて思っていたんだよね」
「食べたいの?」
「うん!」
あまりにも私が元気良く返事をするものだから、カイトは少し呆れた顔をした。でも嫌な呆れた顔じゃなくて、まるで大喜びする子供を見るような優しい顔。
「はいはい、買っておいで」
「わーい!」
真昼がエルドラドランドの中のスイーツはどれも美味しいらしいと言っていた。だから私はアイスを食べている人を見かけてから、こっそり売っている所を探していたのだ。それが見つかってワクワクする。
「じゃ、そこで待っててね。買ってくるから」
そして私は走ってワゴンに向かった。今はまだ開園から二時間もたっていなく、みんなアトラクションに夢中なのか、こういう小さなワゴンやお店なんかは空いていた。だからこのワゴンにも数人のお客さんしか並んでいない。私もその最後尾に並ぶ。
(どの味にしようかな)
アイスは袋に入った棒付きのものだったけれど、何種類かの味のアイスの周りにチョコがコーティングされていてすごく美味しそう。私はその中でストロベリーとバニラを選ぶ。パッケージには近くに見えている『お化け屋敷』のお城のイラストが綺麗に描かれていた。なんでこれがお化け屋敷なのよーなんて私は不満をもらした。
「あれ……?」
私はアイスが入った袋を持ちながらカイトのいる場所に戻ろうとする。するとカイトのいる場所にはカイトの他に二人の女性が立っているのに気がついた。私は「誰だろう?」と思いながらそこに近づいていく。少し近づくとそこから声が聞こえてきた。
「すごいカッコいい人がいると思ったら滝沢君なんだもん。びっくりしちゃったよー」
「ほんとほんと!どこのモデルかと思っちゃった」
「先輩方も来ていたんですね。この中で知り合いに会うのってすごく不思議な感じですよ」
「ねー、ほんとに」
カイトが先輩と呼ぶ二人の女性はカイトを見ながら興奮している感じだった。私は何だかそこに近づけず、少し離れた所から様子を伺う。
「今日は誰と来ているの?友達と?もし良かったら一緒に回らない?私達も二人なんだー」
「うんうん、みんなで楽しもうよ」
先輩の一人がカイトの腕に自分の腕を回す。私はそれを見ながらカイトが先輩の申し出に頷いたらどうしようなんて考えていた。
「ごめんなさい、今日は……」
カイトは辺りを見回している。そして私を目が合うと先輩の腕を優しく放してこちらに向かってきた。私の隣に来ると私の手を取る。
「え?」
私はカイトの行動に驚く。そんな私を見てカイトは優しく微笑んだ。
「こういうことなので、ごめんなさい」
今、私とカイトは手を繋いだ状態で先輩二人に見られている。こういうことって……どういうこと?
「ユーリ、行こう」
「え?ええ?え?」
そして私はカイトに引っ張られる状態で歩き出す。私は今の状態にかなり混乱していた。
「ちょ、ちょっと、カイト」
私達は手を繋いだままキャッスルエリアを一周するほど歩いた。何も話さず無言で。周りの建物のガラスに映る二人はまるで恋人のようで、私はこの状態をどう思っていいのかわからなかった。もちろん私達は恋人同士ではない。そういう関係になることすらないのに。
そして先に沈黙を破ったのは私だった。
「さっきのは誰なの?すごい顔で私達見られていたんだけど……」
あれは確実に女の嫉妬の顔。それは般若のように恐ろしい。
「ごめん、ユーリ」
その台詞と共に私達はその場で止まる。
「あの二人は委員会で一緒の2年生なんだ。普段からあんな感じで、あの場から逃れる為にユーリを使ってしまった」
「そうなんだ。私は別に平気だけど……」
たしかにあの場からうまく逃げられたとは思うけど、あれじゃまるで……。
「ユーリ」
「ん?」
「これって嫌?」
「え?」
カイトは私と繋いでる手を上げる。手を繋いでいることが嫌ってこと?それなら答えは決まっている。
「……嫌じゃないけど」
嫌なわけがない。むしろとても嬉しいくらいだった。でもこれって恋人じゃないと普通はやらないことで……。
「良かった」
私はすごく嬉しかったんだけど、胸が痛んだ。
「そろそろ次のアトラクションに行こうか。もう気分は大丈夫だよね?」
「う、うん。大丈夫……って、あ!アイス!」
私はカイトの手を離して急いで持っている袋の中を確認する。中のアイスは溶けることなく、まだ原形を綺麗に留めていた。
「よかったぁ。カイトも食べるよね?」
「うん、もらおうかな」
私はその一つのバニラをカイトに渡す。
「じゃ食べながらゆっくり向かおうか」
「うん」
するとカイトは自然に私の手を繋いできた。
(あ……)
私はカイトがわからなかった。私達は誰がみてもとても仲の良い男女で、こうして手を繋いでくるということはカイトも私のことを少しは想ってくれているということだと思う。でも、カイトには婚約者がいて、彼の口からは好きな人はつくらないと言っていた。だから余計に私はカイトのことがわからなかった。
(でもこうしているのは嬉しい……)
そう、嬉しかった。この中だけでも私はこうしてカイトにすごく近づけている。これがお伽の世界の中の魔法であったとしてもそれはそれでいいのかもしれない。だから私はカイトが手を繋いできた時少しも抵抗しなかった。
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