わたしの隣の魔法使い
第7章 カイトの秘密
【その7】
私の胸のモヤモヤは結局晴れなかったけれど、あっという間に週末はやってくる。私は朝早くから今日の支度を一生懸命していた。
「なになに?なんかやけに気合い入っているじゃない」
ママが支度をしている私にそんな茶々を入れてくる。
「そう?普通だよー」
そんな風にごまかしてみたけど、実際はママの言うとおりいつもより気合いをいれていた。デート!という言葉は頭に浮かべないようにはしていたけど、相手がカイトだから変な格好は出来ない。だから私はいつもより早めに起きて今日の支度をしている。
化粧はしないつもりだったけれど、軽くファンデーションをのせてマスカラで目をパッチリとさせるといつもと違う自分が鏡に映っていた。化粧ってある意味魔法と一緒だなぁなんて思ってみる。そしていつもより長めにドライヤーをかけ髪をまっすぐにした。
顔と髪が完了したら次は服。お店で一目ぼれした黒のワンピースにカラータイツを合わせる。
「うん、これなら大丈夫だよね」
それに丈の短いかわいめの白のジャケットを羽織った。これに細身のブーツを合わせれば、うん、完璧……だといいんだけど。いまいち私は自分のファッションセンスに自信がなかった。鏡を何度も見直してチェックする。
「じゃ、行ってくるねー」
まだ待ち合わせの時間まで少し時間があったけれど、ギリギリに行くよりかはいいだろうと私は出発することにした。バッグの中のチケットを再確認して私は玄関のドアを開ける。
「はーい、楽しんでいらっしゃいねー」
ママのいつもの軽い声。誰と行くか追求されると思ったけど、あの茶々以外はママは何も聞いてこなかった。
今日の朝の天気予報では一日晴れで、外に出ると11月とは思えない強めの日差しが私の顔を照らす。それでも冬だけあって風は少し冷たい。いいテーマパーク日和だななんて思いながら私は駅に向かっていった。
土曜日の朝。駅前にはスーツを着た人たち、家族連れ、カップルなどたくさんな人達が忙しそうに行き交っていた。私はその人の多さに待ち合わせを『駅前』という曖昧な表現で決めてしまったことに後悔する。この中で一人だけを探すというのはかなり困難な気がする。でもまだ9時になってないし、きっとカイトは来ていないだろうと改札に行く為の階段の下の柱に寄りかかった。
(うぅ、なんでこんなに緊張するんだろう)
カイトとはいつも会ってるし、一緒に出かけたこともあるのに、今日は驚くほど心臓がはやく鼓動している。まるで私の胸から飛び出そうとしているように。たしかにこんなに正装してカイトと会うのははじめてだったし、電車でどこかへ行くというのももちろんはじめて。でもこんなにもドキドキしなくても、なんて私は思っていた。
(やっぱりこれってデートなのかな)
女の子がオシャレをして男の子を待っている。これがデート以外のなんだというのだろう。私はいつもより支度に時間をかけたことに今更になって後悔してきた。そして顔が熱くなってくる。
(あーもう!変なこと考えないでよ)
私は冷静を取り戻そうと必死に今日以外のことを考えようと努力する。しかしそれは無理なことだった。
(ユーリ、どこにいる?)
私が必死に違うことを考えようとしている時に、頭の中にカイトの声が響いてきた。私は焦って自分の考えていることがカイトに聞こえないように頭の中を切り替える。そうか、こんなに人がいて見つからなくても私達にはこの通信手段があった。
(階段の下の柱の前にいるよー)
そして私は人ごみの中から探す。たくさんの人がいる中で探すのは困難かと思っていたけれど、それはあっさりと解決した。
「カイト……」
カイトが少し向こうから私を見つけたらしく、こちらに向かって歩いてくる。私はその姿にさらに鼓動を早くした。
白いシャツに薄い色のトレンチコート、黒のズボンに革靴と、一見シンプルに見えるカイトの格好は整った顔にとても似合っていて、まるで雑誌のモデルを見ているようだった。
(これのどこが高一なのよ)
カイトはどこから見ても高校生には見えない。でも子供が無理に大人の服を着ているわけではなく、カイトの姿はとても素敵だった。まだ眼鏡もかけている。
「おはよう、ユーリ」
「おはよう」
さわやかなカイトの笑顔。私はいつもと違うカイトの姿を見て体の体温が一気に上昇する気がしていた。すれ違う女性がこちらをチラチラっと見てくる。そりゃこんな人が立っていたら誰だって振り返りたくなると思った。
「今日はすごく可愛い格好をしているね」
カイトが私を見ながらそんなことを言う。その姿でその台詞、私を殺す気ですか。
「あ、ありがとう。さ、さ、行こう行こう」
これ以上言われるともう今日はどこにも行けなくなりそうで私は先を急いだ。今更になってなんて人とテーマパークに行こうとしているのか、私は少し後悔していた。
思えばこの街に来てから私は電車に乗るのははじめてかもしれない。大抵のことは街の中で済ましてしまえるので、無理に遠くにいく必要はどこにもなかった。なんて便利な街なんだろう。だから私は久しぶりの切符発券機のボタンに感動する。
「僕も電車に乗るのは久しぶりかも」
「カイトもなんだ?衣食住が一つの街で済ましてしまえるって不思議だねー」
「前はこんなに便利じゃなかったんだけどね。住みやすくなったもんだ」
改札に切符を入れて、私とカイトは駅の構内に入って行った。電車のアナウンスの声もとても懐かしい。前居た所では毎日電車を利用していたのに、今じゃこんなにも懐かしむようになって不思議な気分だった。
「ユーリは前はどんな所に住んでいたの?」
駅で電車を待つ私とカイト。
「うーん、今よりもっと都会な所かな。ビルだらけの中にある高層マンションに住んでいたよ」
「へぇ、そんなすごい所からここに来たんだね」
「うんうん。都会すぎて逆に不便だったけどね。今の方が私は過ごしやすいかも」
そしてここに来たせいで不思議なことに巻き込まれてしまった。でもそれが私の毎日を楽しくさせてくれている。
「僕はこの街から離れたことがないから少しユーリが羨ましいかも。外の世界も見てみたいかな」
「えー、でも私はカイトの方が羨ましいよ。私は出来れば引越しはしたくないし」
「そう?」
「うん。短い期間で引っ越してしまうと、本当の友達!っていえる人が出来ないしね」
それで私は長いこと悩んできた。
「そういうものかなー。でもユーリが明日引っ越しても僕はずっと君の友達だと思うけどね」
私はそれにどういう表情をしていいかわからなかった。これが真昼だったら確実に大好きー!とか言いながら抱きしめていると思うけど相手はカイト。それに、ずっと友達とか言われると少し切ない。
「ありがとう。でも、カイトは今まで出会った人とは少し違うからねー」
でもそれを気にしてもしょうがないと私はすぐに頭を切り替える。
「まあ、そうだよね」
そんな他愛のない話をしていると、目的の電車が構内に入ってきた。私達はそれに乗り込む。満員というわけじゃないけど、けっこう人が乗っている。同じような男女のペアや家族なんかがたくさん乗り込んでいたので、きっと私達と同じ目的なんだろうと私は思った。
「ここから3つ目だっけ」
「うんうん、駅の名前は……」
私は電車の中の路線図を眺める。
「うわ、『黄金郷前』だって。な、なんてネーミングセンス」
私はこの名前に笑っていいのか失笑していいのかわからなくて、微妙な表情をする。
「あはは。エルドラドランドの為に出来た駅だからしょうがないよ。ストレートにエルドラドランド前で良かったとは思うけどね」
「そうだよねぇ。黄金郷前駅ってなんか言うの恥ずかしいなぁ」
「まあ、すぐ慣れるよ。エルドラドランドもはじめはうわーって思ったしね」
「あ、カイトも思ったんだ。私もなんて言いづらい名前なんだろうって思ったよ」
何気ない会話はとても楽しかった。普段もカイトとはよく話していたけど、話は尽きることがない。これがこれからもずっとずっと続けばいいと私は思っていた。
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