わたしの隣の魔法使い


第7章 カイトの秘密
【その3】


「結李、はじめての合コンどうだった?」
 あれから何時間かして合コンは無事お開きになり、私と真昼は夜道を二人で歩いていた。駅から近いだけあって周りを歩く人々は多い。
「あ、うん。楽しかったよ。みんな歌が上手くてびっくりしたけど」
 それは事実なんだけど、私は知ってしまったカイトの秘密にまだ動揺をしていた。真昼は私の返答を聞いて大きくため息をつく。
「そうじゃないでしょー。合コンは出会いの場なのよ?人の歌唱力なんてどうでもいいの」
 これは説教?なんて思いながら私は真昼の話を聞く。
「出会って一日目で誰かを好きになるとかは考えられないよぉ」
 だから有子や香奈が相手のメルアド交換するとか、週末に遊びにいくとかいう話を聞いても信じられなかった。私はそういう風に恋をしたことがない。
「はぁ……、やっぱり結李ならそうなっちゃうよね」
「ごめん」
 実際、今日来た3人を見ても私は少しもときめかなかった。この人ともっと話してみたいなーなんていうのもまったくなかった。だから何度会ってみてもたぶん無理なんだと思う。
「いいよいいよ。結李は合コンとかじゃなくて、ゆっくりと付き合っていく恋愛のほうがいいんだろうね」
「ごめんね、せっかく合コン開いてくれたのに」
「ん、私は役目をきちんと果たしたから大丈夫だよ。他の二人は超喜んでいたしね」
 たしかに有子も香奈も想像以上に楽しそうだった。私も真昼の期待に添えるといいんだけど、こればかりはそうはいかなかった。
「私ももっと簡単に恋愛出来るようにならないとダメかなぁ」
 そうなったらきっと毎日が楽しいんだろう。
「いんや、結李は結李のままでいいと思うよ。ゆっくり相手を見定めて、しっかり恋愛してほしいもの」
「真昼ぅ」
 なんだか真昼が素敵なことを言うから涙が出そうになってきた。
「結李がもし、尻軽な女だったら私は友達になってないしね。結李は恋愛おんち位が可愛いわ」
 そんなことを言って真昼は私の頭を撫でてくれた。涙の次は顔が赤くなりそうだった。なんていい人なんだろう。真昼って。でも私は真昼に言えない事がある。どんなに大切な友達でも、私はカイトのことだけは真昼には言えなかった。言いたくても言ってはいけない。それはとても辛いことだった。
「あれ……」
 真昼と別れる道までもう少しという所で私は体の異変に気がつく。
「ん?どうしたの?」
 私が急に止まったので、真昼も止まって私の方を振り返った。
「ん……うううん。なんでもない。行こ」
 私は小走りして真昼に追いつく。そしてまた同じ道を歩き出した。しかし、私の体には大きな悪寒が走っていた。前だったら立っていられないくらいの寒気。今はなんとか耐えることが出来ていたけど、私はだんだん怖くなってきた。真昼と一緒の時にあいつらが現れたらどうしようも出来ない。
「でね、新條の奴、ひどいんだよー」
 隣の真昼は楽しそうに話を私にしてくれる。私はそれにただ頷くだけしか出来なかった。とにかく寒くて苦しい。でも真昼に秘密がばれる事だけは出来ない。
(ユーリ、大丈夫。そのまま歩いてて)
 気が遠くなって倒れそうになった時、私の頭に声が聞こえてきた。私はその声にかなり遠くに行ってしまった意識をこちらに戻す。
(僕は後ろにいるから安心して小宮山さんと歩いてて)
 後ろにいる?でも周りにカイトの気配はしない。意味がわからなかったけれど、私はそのまま真昼と一緒に歩く。寒気もだんだん落ち着いてきて真昼の話の意味もわかってくる。
「んじゃ、私はこっちだからここで」
 私達の前に大きなT字路が見えてくる。
「うん。今日はありがとうね。楽しかったよ」
 合コンの本来の目的は果たせなかったけれど、楽しかったのは事実。
「またカラオケ行こうね。もっと結李の歌聞きたいし」
「うん!行こう行こう」
 ここで『また合コンしようね』って言わない真昼が私はとても好きだった。彼女は私を気遣ってくれる。私も真昼のような女性になりたい。
「じゃ、また明日!」
「うん、またねー!」
 私と真昼はT字路を別々に歩いていく。しばらくして私は振り返って真昼が見えなくなったのを確認した。
「カイト?カイト?どこにいるの?」
 そして私はカイトを探す。でも周りには会社帰りの会社員やOLしか歩いていない。私の独り言を見て変な目で見てくる。
(そこの路地に入って)
 私はカイトに言われた通りに細い路地に入る。夜の路地ほど怖い所はないけれど、私は今それを考える余裕もなく進んでいった。でもそこにはカイトの姿はなく、私はカイトを必死に探す。
 いつのまにか前も後ろもどこだかわからない所に来てしまった。完全に街の路地裏。ビルとビルの間からは満月が覗いていた。こんな所に女子高生が一人でいるなんて普通ではありえない。
「ここだよ、ユーリ」
 私は声のするほうを振り返る。そこには真っ暗な路地の中で月の光に照らされたカイトが立っていた。綺麗な直毛の金髪が月の光で光っている。
「ずっと後ろにいたの?」
 カイトは少しずつ私に近づいてくる。
「そうだよ。体を消す魔法を使っていたんだ」
「そっか。だからどこにも見えなかったんだね。魔法ってやっぱり便利」
 微笑む彼を見ながら、私は西角君が言ったことを思い出していた。だから自分の声に力が入らなかったのも私はわかっていた。意味もなく泣きそうになる。
「どうした?何かあった?」
 優しいカイトの表情。それを見て私はあのことを聞いていいのかわからなかった。聞いてしまえばこの笑顔が消えてしまうのではないかと私は怖かった。
「うううん。なんにもないよ。少し疲れただけ」
 だから今は私の口からあれを聞くということが出来なかった。
「そっか。じゃあ、今日は僕が始末するね」
「え?……あ」
 そうだった。その為に私達は人のいないこんな所まで来たんだった。私は真昼に秘密がばれないようにすることと、カイトの秘密とで頭が一杯でジハナムの妖精のことをすっかり忘れていた。それが一番重要なことなのに。
 そしてカイトは魔法を唱えて魔剣グラムを召喚する。私もそれを見て急いで聖剣カリバーンを腕輪から元の姿に戻した。
「ユーリ」
「ん?」
 私は両手でカリバーンを構えていた。その一方でカイトは剣を構えず辺りを見回す。
「ちょっと怖い妖精がくるけど、叫ばないようにね」
「……え?」
 怖い妖精?今までの妖精だって十分怖かった。あれ以上に怖い妖精って何?私は色々なことを考えた。そして気がついた時には、私とカイトの周りには骨だけの人間のようなものが何体もこちらに向かって歩いていていた。



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