わたしの隣の魔法使い


第7章 カイトの秘密
【その2】


 私達4人は守水駅の前である人たちを待っていた。
「ねぇ、髪乱れてない?」
 同じクラスの有子が手鏡を見ながら必死に髪の毛をいじっている。
「新しいマスカラ買ったのよ。どうどう?付けまつげみたいでしょ」
 同じくクラスメイトの香奈も手鏡で自分の顔をしっかりチェックしていた。私はそんな二人の様子をみながら、女の子だなぁなんて思ってみる。私なんて髪の毛も気にしないし化粧もしようとはしない。いや、さすがにボサボサだとかクマがくっきりーとかだったら気にするけど、まあ普通に見れるよね。
「はいはい、かわいいよーかわいいよー」
 真昼の適当な返事。彼女は携帯を片手に周りをキョロキョロとしていた。駅には夕方ということで行き交う人がたくさんいてごった返していた。
「あ、来た来た。新條ー、こっちこっちー!」
 真昼の大きな声に気がついて、金髪に近い茶髪がとても目立つ長身の男性がこちらに向かって歩いてくる。それは文化祭であった真昼の中学時代の友達の新條君だった。その後ろからは同じ学ランを着た男子学生3人も歩いてくる。私の隣で立っている有子と香奈が急いで手鏡を鞄にしまっていた。
「おう、待たせてすまないな」
 相変わらず人相の悪い不良顔の新條君。後の3人は私は見たことない人ばかりだったので、この間一緒にいた阿良川君は来ていないようだった。私は文化祭の夜、彼の誘いを断ってしまったんだった。なんだか少し申し訳ない気がしてくる。
「じゃ、そこのカラオケ予約しといたから行こ行こ」
 真昼が駅前の大きなカラオケ店を指す。カラオケなんて何ヶ月ぶりだろう。もしかして1年以上も行っていないかも。
「おう、俺の美声に惚れるなよー」
「なによ、音痴なくせして」
 そんな真昼と新條君のやり取りにみんなして笑っていた。
 カラオケの店っていったら、タバコ臭くて少し暗くてなんてイメージが私にはある。それなのに今来ているカラオケ店は最近出来たばっかりのせいもあるけれど、ビル全体に部屋があって最新機種が入っていて、食事のメニューがレストラン以上というなんともすごいカラオケ店だった。真昼に聞いてみると、今はどこもこんなものだよーなんて言っていたので私は時代に取り残されているななんて思った。
「じゃ、とりあえず自己紹介ね。私は小宮山真昼。で、奥から東有子、天城香奈、河原結李よ。みんな私のクラスメイトなの」
 少し大きな部屋に通された私達。大きなソファーが机をはさんで2つ置いてある。私達は男女別々にソファーに座った。
「俺は新條明。で、そっちから小林、喜多、西角だ」
 みんなこういう場が慣れているのか、別にギクシャクすることなく挨拶をしている。私は本当にはじめての経験でどうしていいかわからなかった。
「じゃ、とりあえず俺から歌うぞ、お前らもどんどん入れろよな」
 人数分運ばれてくるソフトドリンク。それに大きな籠に入ったポテトチップスや何人で食べるんですかっていうようなでっかいパフェ、その他色々な食べ物が一気に運ばれてくる。それを見ているだけでもなんだか私は楽しかった。それにみんな歌がとても上手い。私も歌ってみたけど、みんなの歌の上手さに聞くだけでもいいかもなんて思っていた。
「そういえば、飛鳥高校に僕の中学の時の友達が行っているんだよね」
 いつのまにか席替えがされていて、私の隣に座った西角君が思い出したように私に話しかけてきた。彼は背が低くて目のクリクリとした可愛らしい男の子で、なんだか母性本能をくすぐるような少年。
「へぇ。私が知っている人かな」
 私は真昼と新條君の歌を聞きながらオレンジジュース片手に西角君の話に耳を傾ける。
「たぶん知ってると思うよ。超目立つ奴だからね」
「超目立つ奴?」
 うちの学校で一番目立っている人といえば、一人しか知らない。私はカイトの顔を思い出した。
「うん。滝沢王子だけど、知ってるよね?」
 滝沢王子。私はそれに笑いそうになった。
「うんうん。もちろん知ってるよ」
 たぶんカイトとああいう出会い方をしなくても私は彼を知っていたはず。
「僕、けっこう王子と仲が良かったんだよね。てっきり青南高校に行くと思っていたから残念だったなぁ」
 西角君の残念そうな顔。まるで子犬のようなその顔に、あぁこれを可愛い男の子っていうんだなんて私は思った。
「やっぱりカイト……滝沢君は中学の時から人気だったの?」
「そうだよぉ。美形だし頭はいいし運動神経抜群だし、ほんと超人だよね、彼は。その上みんなに優しいからなぁ」
 私はそれを聞きながら昔からカイトは変わっていないんだなんて思ってみる。
「そういえば王子はいまだに誰とも付き合ってないの?」
「え?」
 いや、そりゃ付き合ってないけど、彼には芽衣がいるし。
「学校一の美少女に告られた時も王子は断ったんだよね。今じゃあの子、すごい有名なモデルやってるんだよー。ほんと、もったいなかったって」
「そう、なんだ」
 有子と香奈のしっとりとしたバラードが聞こえてくる。でも私は西角君が話してくれるカイトのことの方に興味がいっていた。
「でね、僕聞いてみたんだよ。そんな美人なら試しに付き合ってみればいいんじゃないかってね」
「うんうん」
 なんだか西角君も話にのってきたようで、私にスラスラと話してくれる。人の過去の事をそんなに簡単に話すのもどうかと思うけど、私は続きが聞きたかった。
「そしたら王子、こんなことを僕に言ったんだ」
 西角君が少し間を置いた。
「『僕は誰のことも好きにはならない』ってね」
「え?」
 私はそれを聞いて一瞬意味がわからなかった。でもすぐに芽衣の顔が浮かぶ。婚約者がいるならそういうことを言ってもおかしくはないはず。
「滝沢君にはもう決まった人がいるから、そんなこといってたんじゃない?」
「決まった人?うーん、そういう感じではなかったんだけど」
 西角君は少し考えてから、また話をはじめる。
「うん。やっぱり僕は3年間一緒のクラスだったけど、彼に特定の人がいるなんてなかったと思うよ」
「そう……なんだ」
「それにね、こんなことも言っていたんだ。僕にはそれの意味がよくわからなくて何度も聞き返したけど、それ以上は教えてくれなかったんだよね」
「え?なんて言ってたの?」
 西角君が少し真剣な顔になる。
「『僕と一緒にいても不幸になるだけだから』ってね」
「え……?」
 それは……どういうこと?一緒にいても不幸になるだけ?
「王子って不思議な人だよね。いつも優しくてみんなの人気者なのに、なんだか大きなものを常に背負っている感じがしていたんだ」
 大きなもの。それはきっと妖精達のことなんだろう。でもそれは誰にも言えない秘密のこと。誰はいつも一人で戦っていた。
「結李ちゃん、彼に会っても僕がこんなこと言ったって秘密だよ。あ、それ僕が入れた歌ー!」
 その時、丁度西角君の歌う番がまわってきてこの話はここで終わった。彼はみんなが盛り上がる中、はやりの歌手の歌を熱唱しはじめた。
 私はその歌が耳に入らないくらい自分の世界に入っていた。カイトのことを考えていた。西角君が話してくれたカイトの言葉。
 『僕は誰のことも好きにはならない』
 これは芽衣がいるからこんなことを言ったんじゃないの?
 『僕と一緒にいても不幸になるだけだから』
 不幸?それは一体どういうことなの?将来決まった相手がいるのに、なんでそんなことを言うの?私は胸がつまりそうだった。意味がわからなかった。

 ただはじめての合コンに参加するというだけだった。それなのに私はそこでカイトの過去の話を手に入れてしまった。今すぐカイトに聞いてみたい。でもどうやって聞いていいかわからなかった。
 カイト、あなたの胸の中には誰がいるの?私はカイトと一緒にいても少しも不幸にならないよ……。



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