わたしの隣の魔法使い


第6章 妖精王
【その8】


 カリバーンの放った閃光によって発生した大きな衝撃の影響で、辺りには大量のホコリが舞っていた。その為視界は遮られ、今が一体どういう状態になっているのか確認が出来なかった。目を開けていることさえ辛かった為、私はしばらくその場で状況が落ち着くのを待っていた。他の誰もが何も言わなかった為、きっとみんなが同じ状況のようだった。
 そしてしばらくして、だんだん視界が晴れてくる。
「おい、大丈夫か?みんな」
 はじめに声を出したのはノクトだった。
「ゲホゲホ。ここも掃除しなきゃダメですね。デック様」
 ドリアードの高い声。
「誰も来ないような所を掃除してどうするんじゃ」
 とても低いデックの声も聞こえてくる。
「ユーリ、大丈夫?」
 いつのまにか私の隣にはカイトが立っていた。心配そうな顔のカイトに私は少し笑って頷く。しかしまだカリバーンの衝撃によって手が震えていた。剣を落としそうになりそうなところを必死に握る。
「そうだ。本棚は……本棚はどうなった?」
 そして私と同時にみんなが同じところを注目する。それはもちろん妖精王の文献がある棚。
「あ……」
 私はホコリが全て床に落ちてその場がくっきり見えてきてとても驚いてしまった。
 あんなに大きな衝撃の後だというのに、本棚は前と同じ姿で、本一つ床に落ちていない。たしかに私はオーガの時以上の閃光を放ったはず。それなのに本棚には傷一つついてなかった。
 でも前と違っている所がたった一つある。
「結界が消えてる……」
 大きな本棚に覆いかぶさるように施されていた結界が今は綺麗に消えていた。私のカリバーンは本当に妖精王の結界だけを破壊してしまったらしい。やっぱりこれは本物の聖剣カリバーンなんだ。
「本当にそれはカリバーンなのだな」
 デックが私を見ながら少し寂しい笑みを浮かべている。
「よっしゃ。これで読めるな」
 ノクトが嬉しそうに本棚に近づいていく。ドリアードもカイトもそれに続く。私もこれでやっとロビンのことが調べられるとカリバーンを腕輪に戻して本棚に近づいていった。
「……ん?」
 ノクトが結界が消えた本棚の1冊に手をかけた瞬間、どこからともなく風の音が聞こえてきた。
「何?!」
 その風の音ははじめは小さかったけれど、少しずつ大きくなっていったと思ったら、書庫に大きな竜巻が発生する。
「きゃあ!」
 私はその竜巻に飲み込まれそうになり、近くの本棚に掴まる。それでも私は手で掴まるだけで精一杯で、足は宙に浮かんでいた。手を離すとそのまま竜巻に飲まれてしまう。
「ユーリ!」
 それを助けてくれたのはカイトだった。カイトは右手で本棚に掴まり、反対の手で私を捕まえていてくれた。カイトの強い力が私の腰の辺りを締め付ける。近くではドリアードがノクトを抱いて必死に飛ばされないように頑張っていた。
「そこまでしてオレらに知られたくないのか!」
 強い風の中、ノクトが大きな声で叫ぶ。しかし、その声は私までは辛うじて届いていたけれど、大きな風の音に打ち消されていった。書庫に突然現れた大きな竜巻。それは容赦なく貴重な本達を飲み込んでいく。もちろん妖精王の文献もその竜巻に飲み込まれていった。
 そしてその竜巻は書庫にある本を半分ほど飲み込んだのち、何もなかったかのように綺麗に消えていった。私達の前には倒れた本棚や取り残された本が散乱している。
「ひどい……」
 ドリアードがノクトを抱いたまま泣きそうな声を出している。
「くそっ。オレちょっと行ってくる」
「え?ど、何所へですか?」
 ドリアードの手から解放されたノクトが書庫の出口の方へ飛んでいく。
「エアリエルの所だ。あとはリア、まかせたぞ」
「え?え?は、はい!」
 そしてノクトは私達の視界から消えていった。
「大丈夫?ユーリ」
 私はまだカイトに支えられたままの姿で呆然としていた。
「う、うん。すごかったね……」
「そうだね。よっぽど僕らに読まれたくないようだ」
 妖精王の文献があった本棚は見事に倒れ、中はすべてなくなっていた。もう私はここでロビンについて調べることは出来ない。
「誰にだって知られたくない過去くらいはあるのじゃ」
 どこにいたのかわからないドワーフのデックが周りに散らばった本を片付けながらどこかから出てきた。そして軽々と倒れた本棚を元に戻す。
「私達は妖精王について知らない方がいいのでしょうか?」
 私をゆっくり起こしてくれながらカイトはデックにそう話しかける。
「どうじゃろな。その娘が妖精王の剣を持っていることは事実なのじゃ。すべてはもう動き出している。いずれすべてがわかるさ」
 そのすべては一体いつなんだろう。
「デック様は何もご存知ないのですか?」
 デックと一緒に本を集めているドリアードはまだ泣きそうな顔をしていた。
「知っていてもきっと口から出てこないだろうよ。風の王が本だけ持っていくわけない」
 風の王。それはエアリエルのことだろう。彼らは私達に一体何を隠しているんだろう。私は気になったけれど、これ以上知るのがとても怖くなってきた。

 私がまだ書庫で竜巻の衝撃で呆然としている頃、ノクトはイグドラ=シルの中心の水晶の塔に向かっていた。床も天井もすべてが水晶で出来た空間。それはとても幻想的で不思議な空気が流れていた。
「エアリエル!エアリエルはどこにいる!」
 これまでにないくらい怒りを見せているノクト。そのノクトの行く手を遮るように6人の黒尽くめの人物達が立ちはだかった。それは女王の側近達。
「王子、これ以上は通すことは出来ません」
 機械的な側近の冷たい声。ノクトはこの声がとても嫌いだった。
「お前達に用はない。エアリエルと長老に話がある」
 ノクトは小さくてどこへでも飛んでいけるピクシー。でも側近6人に囲まれてうまく飛ぶことが出来なかった。きっと魔力が効いている。
「長老!どこにいる!なんで王子であるオレが真実を知ることが出来ないんだ!」
 鏡張りのような空間にノクトの声が響き渡る。それを聞いても側近達の表情は少しも変わらない。
「くそっ。一体何なんだよ。妖精王って何者なんだよ」
 その時、ノクトを囲んでいた黒い側近達が一斉に跪く。
「もういいわ、あなた達、下がりなさい」
 ノクトの視線の先にはこの世のものとは思えないほどの美しい女王が立っていた。その後ろには女王以上に神秘的なエアリエルも立っている。
「そうね、あなたには知る権利はあるわよね」
 悲しい表情のティターニア女王様。
「でも、本当に真実を知りたいの?知る覚悟はあるの?」
 ノクトには彼女が言っている意味が分からなかった。わかるはずもなかった。

「さ、ここからはお二人だけで帰れますね」
 私とカイトとドリアードはティル・ナ・ノーグの入り口まで来ていた。
「はい、ありがとうございます」
 私とカイトは同時に緑の少女にお礼を言う。私達はもうここに長い時間はいられない。
 はじめに時の砂の効果が切れそうになっているのに気がついたのはデックだった。そして私達三人は急いでここまでやってきた。ずっと体を包んでくれていた光がもう今ではなくなっている。
「あとでノクトに連絡するように言って下さい」
 カイトがドリアードに向かって話す。ドリアードが優しく笑った。
「了解しました。必ず伝えます」
 そして私はドリアードに手を振ってカイトと共に妖精の国を後にした。ノクトが真実を手に入れようとしていることなんて少しも知らないまま。



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