わたしの隣の魔法使い
第6章 妖精王
【その6】
下へ下へと降りていく石の床。ティル・ナ・ノーグに入ってからずいぶん下まで降りてきて、また下へ行こうとしている。一体どれくらい地上からの距離があるのだろうか。私はそうを思いながら上を見上げた。ついさっき入った扉がだいぶ遠くに見えていた。
そしてしばらくして床の動きが止まった。ノクトとドリアードが床を降りて歩き出したので私もそれについていく。カイトも私の後ろから付いてきていた。
人が一人通るだけで精一杯の細く天井の低い廊下を、私達4人は無言で歩く。ずいぶんと入り口から遠い書庫。それだけ貴重なものがあるのだろう。私は緊張してきた。そして廊下は終わりを向かえ、大きな広間が見えてきた。
「やっと到着だ。ここまで来るので一苦労だなぁ」
「普段、ここには誰も来ないですからね。だからこんな地下深くに位置していても問題がないのです」
土の壁の大きなドーム型の広間に、たくさんの背の高い本棚が置いてある。本棚にはびっしり本が敷き詰めてあって、目的のものをここから探すのは大変そうだなっと私は思った。広間は誰もいないようで、私達の足音が響いている。
「んで、妖精王について調べたいんだっけ?カイト」
「そう。詳しくわかるかな」
「リア、妖精王についての本はどこにある?」
「妖精王ですね、ちょっと待ってください」
ドリアードはノクトに言われて、広間の中央にある図書館のカウンターのような机に向かう。本棚はそのカウンターを中央にして、放射状に並んでいた。
「妖精王の文献はあっちの方ですね」
ドリアードがある方向を指差す。ノクトが頷いてドリアードが指した方向に向かって飛んでいった。カイトと私もノクトが進んだ方に歩いていく。
古い本の匂い。私はこの匂いがとても好きだった。この匂いを求めて、古い古い古本屋を巡っていったっけ。でもここにある本はきっとそんな本屋にあるような出版された本ではなく、本当の歴史の本達なんだろう。時間に限りがなければそれらにじっくり出会ってみたい。
「あれ……?リア?!リア?!ドリアード?!」
先に目的地に着いたと思われるノクトのドリアードを呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。その大きな声が広間に響いた。
「はーーい!ちょっと待ってください」
ドリアードが早足になって私達を越したので、私とカイトも早足になる。そしてノクトが止まっている場所に急いだ。
「あ……」
私はその本棚の状況を見て声を出す。
「これって」
その後にカイトも小さく声を出した。
「そんな……!こんなの見たことありません」
ドリアードもそれを見て驚きの声を出す。
私達の前には本棚があり、そこにはとても古そうな本が沢山並んでいた。これが妖精王の文献だというのだろうか。しかしその本棚の本に私達は触れることが出来なかった。なぜなら、その本棚にだけ光の結界が張られていたのだ。
「この結界、見たことがあるな……」
ノクトはそう言って少し考える仕草を見せた。そしてすぐにその答えが出る。
「そうだ、ユーリだ。ユーリの首筋の紋章だ。カイト、これと一緒じゃないか?」
「そうか。僕もどこかで見たことあると思っていたんだ」
大きな樹の周りに2つの翼を大きく広げたような形の印。私は鏡で見ただけだったから自分の首筋にあるものがこれを同じものなのかいまいちピンっと来なかったけれど、カイトとノクトが言うのだからそうなのだろう。
「それは妖精王の紋章じゃ。一体それに何の用事がある」
「デック様。ここにいらっしゃいましたか」
ドリアードが声の主の方に駆け寄る。そこには顔中がヒゲでモジャモジャな背の低い人物が立っていた。きっと彼がドワーフのデックという人だろう。
「これが妖精王の紋章?なんでここだけ見れないようになっているんだ?」
ノクトもデックのほうに飛んでいく。
「そこはティターニア殿の許しがないと閲覧出来ないようになっておる。なんだ?お前らは妖精王について調べているのか?」
デックはヒゲを触りながら、こちらに歩いてくる。
「そうだ。爺、ここのを読むことは出来ないのか?」
「いくら王子の頼みでもそれは無理だな。んで、その二人が人間だな」
私はなんだか怖くてカイトの後ろに少し隠れる。背が小さくてもドワーフというのはとても迫力がある。
「私はカイトと申します。そしてこちらはユーリです」
「お主か、妖精王の石を持つ少年というのは。石は大切に持っているのだろうな?」
「はい。ここに」
カイトは制服の下からフェアリードロップを出してデックに見せた。石は淡く光っていた。
「うむ、よい光を出しておる。で、そちらの娘は?」
「わ、私は……」
私はデックの強い視線に声を詰まらせる。
「ユーリはフェアリードロップの力を体に受けてしまったんだ。それに不思議な力を持っている」
私の変わりにノクトがデックに伝えてくれた。私はホッと胸を撫で下ろす。
「体に力をか。それはまた珍しい。で、なんで妖精王のことが知りたいんだ?」
「はい。ユーリの不思議な力なのですが、どうやら妖精王から受けたものみたいなんです。でも彼女は沈黙の魔法が掛かっているようでそれを皆に伝えることが出来ません」
まだデックを怖がっている私に代わってカイトが話をはじめる。
「その妖精王が何故彼女に力を渡したのか、そして、妖精王とは一体どういう人物なのか。それを私達は知りたいんです」
カイトは詰まることなくデックにそう話した。
「……なるほどな。言いたいことはわかった。でもワシでもこの結界は解くことが出来ないんじゃよ。残念ながら」
「え?そうなのですか?デック様はここの長なのに」
ドリアードが話に入ってくる。
「他はなんとでもなるんだが、この結界だけは無理なんじゃよ」
やっぱりロビンは自分のことを知られたくないんだ、と私は思った。でも私はロビンのことが知りたかった。そうじゃないとこの力を何故私なんかにくれたのかわからない。
しかしその時、私は左手が妙に熱くなっている事に気がつく。
「ん……?」
みんなが深刻そうな顔をしている時、私は自分の熱くなった手を見る。するとそこにあった銀色の腕輪が赤く光っていた。
「……カリバーンが呼んでる」
「え?」
私の声にカイトが気づいて私が見ている腕輪を見る。それに続いてノクトも私に近づいてきた。
「なんだ、これは」
ロビンは私に自分のことを調べないでくれといった。でも彼のカリバーンが何故か私を呼んでいる気がした。
そして私は唱える。
『姿を現せ 聖剣カリバーン』
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