わたしの隣の魔法使い


第6章 妖精王
【その4】


 不自然な地面の岩の出っ張りを踏むと、それが小さくカチっと音を鳴らした。私は何が起きるのかドキドキして周りを見回して見たけど、特に変わった所はなかった。
「あれ?」
 私は、要塞から橋でも出てくるんじゃないかとか、押すとワープでもするんじゃないかとか、色々なことを想像したのに、実際は何も起こっていない。私はガッカリとその場に座り込んだ。
「ユーリ、そんな目に見えて落ち込まなくても。面白いなぁ」
 カイトが私を見て笑っている。でもテレビゲームの仕掛けのように、ボタンを押したら何かが発生するのを期待していたから、私はひどく落ち込んだ。これは落ち込むって、ほんと。
「まあ、まあ。でも期待は裏切らないと思うんだけどな。ほら、来たぞ、ユーリ」
 ノクトが要塞のほうを指差している。私は落ち込みつつ、指された方に顔を向ける。
「ん?何だろ?何が飛んできているんだろ?」
 私ははじめ、要塞から何が飛んできているのかわからなかった。でもそれが時間が立つにつれ、姿がはっきりとしてくる。
「ヒポグリフじゃないか!僕も本物ははじめてだ」
 カイトが飛んできたそれに興奮して声を上げる。
「そー。こいつがあそこまでの交通手段ってわけだ」
「うわぁ……すごい!」
 私は飛んできたもののすごさにカイトと同じく声を上げる。ボタンを押して現れたものがこれで、私は落ち込んだことをすごく後悔した。これは私の想像以上の出来事だった。
 ヒポグリフ。身体の前半身が鷲で、後ろが馬の伝説の動物。名前だけは知っていた。知識だけはあった。でも本物がこの目で見れるなんてとても光栄だった。それが1体、こちらに優雅に飛んできている。
 ヒポグリフは私達がいる足場にゆっくりと降りてきて、そこで羽根を閉じる。そして1回嘶いた。いや、鷲だから鳴いたといった方が正しいのかもしれない。とにかく、ヒポグリフのその姿はとても美しくて気高かった。
 カイトがヒポグリフに近寄って撫でていたので、私も立ち上がって恐る恐るヒポグリフの背中を触る。伝説の動物を前に私は、怖さより好奇心の方が勝っていた。ヒポグリフは少し固い毛にだったけれど、触り心地はとてもいい。
『人間とは珍しい。ノクト殿のお知り合いですか?』
「え……?」
 私は目の前の動物が人の言葉を話すのに驚いて手を止める。
「そうだ。イグドラにこの二人を連れて行ってくれるか?」
『仰せのままに。さあ、お二方とも私の背中に乗ってください』
 私はヒポグリフの言うことに戸惑っていた。もういちいち驚くのはどうかと思うけど、やっぱり驚いてしまう。そんな時、私の背中にカイトが手を当てて押してくれた。
「ありがとうございます。さ、ユーリ、乗ろう」
「う、うん」
 やはりカイトはいつも冷静。私もそれくらいの度胸がほしいななんて思っていた。
 そしてカイトが先にヒポグリフの背中に乗り、その後に私が続いた。
『さぁ、しっかり掴まっていてください。私の飛行は危ないですよ』
「え?」
 私はいきなり飛び上がったヒポグリフの行動に後ろに落ちそうになった。それを後ろからノクトが押す。小さいノクトが押すっていう表現もおかしいけど、彼は私を押してくれた。
「ユーリ、僕にしっかり掴まっていて」
 私はそういわれて、前に跨るカイトの腰に手を回した。そして落ちないように両手で固定する。それをカイトの手がさらに固定してくれた。
「ひー!」
 今やヒポグリフはかなり高い所まで飛んできている。さっきまでいた足場はまったく見えなくなっていた。そして徐々に大きな要塞が近づいてくる。
「うわ、大きい!」
 下を見るのは本当は怖かったけれど、近づいてくる要塞の大きさに私は見ずにはいられなかった。遠くから見るのも綺麗だったけれど、近づくと要塞すべてが真っ白で出来ていてとても美しい。
『イグドラ=シルです。我々はここがあるからこそ、生きていけるのですよ』
 そういい残してヒポグリフは急降下していく。私はそれにはさすがに耐えられなくて、カイトの背中にしっかりと掴まり目をつぶった。もうなんか最近こんなのばっかり。ずっとジェットコースターが怖くて乗れなかったけど、今なら普通に乗れそうな気がしていた。

「とうちゃっくー!おつかれ、ユーリ」
 わたしはまだ目をつぶっていたけど、ノクトの声が聞こえてきたのでゆっくりと目を開ける。
「ユーリ、大丈夫?もう地面があるから大丈夫だよ」
 私はまだカイトにしっかりと掴まっていて、カイトも私もヒポグリフの背中に跨ったままだった。
『こういう反応ははじめてなので、少々嬉しいです』
「みんなして私をからかわないで」
 みんなが私を見ている。私は少し恥ずかしくなってきた。そして私はヒポグリフの背中から降り、カイトもそれに続いた。体がフラっとなる。

「王子ー!」

 私がまだ体のふらつきが取れてなくてカイトに介抱されつつ地面に座っていると、そんな声が聞こえてきた。私はその声の方を見る。
「見つけた!王子!私も一緒に行くって言ったじゃないですか」
 そこには眼鏡をかけた女性が立っていた。長い髪を後ろで三つ網にしている。でも大人の女性というより、私達とあまり変わらない少し幼い感じだった。私の第一印象はちょっとドジな委員長タイプというか。
「お前を連れて行くとうるさそうだから先に行っただけだ」
「あ、ひどい!王子はもう少し私を信頼してください!」
 女性はノクトに向かってあれやこれやと声を張り上げている。
「……って待って。王子って何?ノクト?」
 目の前の眼鏡の人も気になったけど、さっきこの人はたしかノクトの事を「王子」って言った。王子ってあの王子?
「ノクトはね、ティル・ナ・ノーグの王子なんだよ、ユーリ」
 私の隣に座るカイトが私に小さな声でそう言った。私は目を丸くする。
「ノクトが王子!?ほんとに王子!?」
「あー、うるさいうるさい。だから知られたくなかったんだよなぁ」
 私は興奮してきた。ずっとみんなに態度がでかい話しやすい妖精だと思っていたのに、それがこの世界の王子様だっただなんて。これはすごいこと。
「じゃあ、ノクトってティターニア様の息子だったりするの?」
 あの方が女王なら、そうなるはず。
「それは違う。この世界の王は特別なものから生まれたりしてなるんだ。血筋とかではなくな。オレはたまたま特別な花から生まれたから王子になったまで。それだけだ」
「そうなんだぁ」
 それでも私は目の前の友達が王子様という驚くべき事実を知ってなんだかとても嬉しかった。



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