わたしの隣の魔法使い
第6章 妖精王
【その2】
今日一日は真昼と私を入れて4人の女子で明日の合コンについて盛り上がっていた。いや、私はそんなでもないから3人か。コンパの相手が超優秀高の青南高校ということで、みんなのテンションはかなり上がっているみたい。私は何もかもが初めての経験で、とりあえずみんなを真似る様にテンションが高いフリをしている。
でも正直、まったく知らない異性と出会うとかそういうのは今あまり考えることが出来なかった。前はすぐに引っ越しちゃうから恋はしたくないとか思っていたけど、今は身の回りがゴタゴタしていてて、他の人と出会うとかたぶん無理なんだと思う。それに……。
なんで合コンの話をカイトに聞かれちゃったんだろうと私は後悔する。別に聞かれて何があるわけでもないのに、できればカイトには聞かれたくなかった。
でも真昼は嬉しそうに私を誘ってくる。だから私はそれを断ることが出来なかった。
その日の放課後、学校をカイトと一緒に出た私は、周りに人がいないのを確認してカイトの魔法で瞬間移動をする。前はノクトに掴まって遠いところまで運ばれたけれど、今回は一瞬でどこの場所なのかわからない森についた。
「ねぇ、ここって一体どこなの?」
周りはどこを見ても大きな木だけで、ここが日本なのか海外なのかもさっぱりわからなかった。
「ここはね、世界の果てだよ」
「世界の果て?」
カイトはそんな変なことを簡単に言う。地球は丸いんだから果てなんてあるはずないのに。
「きちんと説明してって言われるとなかなか難しいかも、ここは」
「そうなんだ……。私一人じゃやっぱり来れない?」
カイトは少し考える素振りを見せる。
「うーん。どうだろうな。それはユーリ次第かも」
私次第?一体ここはどんな所なんですか。
「まあ、今度ゆっくり教えてあげるよ」
「う、うん」
もしかして世界地図にも載ってない場所なのかな。でもそれのほうがらしいのかもしれない。守水市の隣に妖精の国がありまーす!なんて言われると夢が崩れちゃう気がするし。それなら世界の果てなんて言ってもらった方がなんだか嬉しいかも。
「でもさ、瞬間移動って便利だよね。私はこの魔法だけは使ってみたいよ」
一度覚えたらもう足で歩くことなんてしなくなるんだろうけど。
「ユーリがこれを使えるようになったら、色々となまけるんだろうなぁ」
「あ、ひどーい」
まあ、合ってるけどね。
「さ、体を小さくするね」
「う、うん」
きた。体を小さくする魔法。私はカイトの唱える魔法の中で一番これが嫌いだった。だってかけられると頭はフラフラするし、気持ち悪くなるし。私はそれを少しでも抑える為に目をつぶった。
『汝の体を流れる尊き魂よ しばしその力を抑え 我が意に従え』
カイトが流れるように魔法を唱える。すると私の体が上から下に落ちたような感覚に襲われた。声には出さなかったけれど、心の中で『ヒー』と叫ぶ。そして次に目を開けた時には体はとても小さくなっていた。これでティル・ナ・ノーグに入る為の準備は完了。あとは入り口を探すだけ。
前もそうだったけれど、私には深い森の中でどこがティル・ナ・ノーグの入り口だかさっぱりわからない。どこを見ても変わった所はなく、ただの森が続いていた。でもカイトは迷うことなく前に進んでいく。私はそれにはぐれないように着いていった。
そしてしばらく同じ風景の中を歩いていると、周りの風景がガラっと変わった。黄金の草原のティル・ナ・ノーグに入ったようだった。
「おっす。ようこそー」
妖精の国に入るとすぐにノクトが立っていた。今はまだ私達よりかなり大きい。でもカイトはすぐに体の大きさを元に戻す魔法をかけてくれた。
「まずは二人ともこれを体に振り掛けておくれ」
ノクトは私に小さな小瓶を渡してくれた。その中には真っ白い砂のようなものが入っている。
「これはなーに?」
「これは時の砂って言って、外の世界とこことの時間を一定にする砂なんだ」
「時間を一定に?」
私は瓶の中の砂をよく見てみる。目を凝らして見ないとわからないけど、砂の一粒は小さな小さな人のような形をしていた。
「外の世界は時がたつのがはやいから、何もせずにここにいると大変なことになるんだ。それを防ぐのがこの時の砂なんだ」
「へぇ。そんな便利なものがあるのね」
つまり、これを振り掛けないと私は向こうで長い時間行方不明者になってしまうというわけね。
「効果はティル・ナ・ノーグ時間で半日で、一度使うとしばらく使えないっていう制限付きだけどな」
「なるほど」
便利なものはその効果を一生続けることは出来ないってわけね。ここへ来た時にいつもこれを使えばいいじゃんなんて一瞬思ったけど、その考えは空しく終わった。
「どうしてその砂がそういう効果を生むのかは俺には知らないけど、まあそれは気にしないでくれ」
そう言われると気になっちゃうけどきっと難しいことなんだろうなぁなんて私は思った。
「さ、さ、早く早く。こうしている間にも時間は過ぎていくよ」
「う、うん」
私は瓶の蓋を開けてさっそく粉を体に振り掛けた。小さな瓶の少ない量の砂なのに、体にかけると体全体が光り出す。
『時よ時よ 止まれよ止まれ』
私の耳にそんな声のようなものが聞こえてきた。その声はとても小さく、色々な所から聞こえてくる。まるで合唱のように。
「うわっ。何これ」
「ユーリ、それは時間を司る妖精達だよ。しばらくそのままで」
カイトが隣で同じように体を光らせている。カイトにもこの声が聞こえているようだった。私は言われた通りにその場で体を止める。声は次々に聞こえてきていた。
時間の妖精達の歌声は耳に心地よく聞こえてくる。何かを組み立てるかのように一生懸命歌う妖精達。私は彼らを応援したい気持ちでいっぱいになってきた。
しばらくすると声はピタッと止まる。それは前触れもなくいきなり突然。しかし体の光はそのままで、黄緑色の淡い光をずっと放っている。綺麗な色の光だったけれど、自分の体が発光しているってなんだか不思議な気分だった。これで私の時間が止まっているってこと?
「不思議だよね。自分じゃまったく実感がないのに時間が止まっているって」
カイトはもう動いていたので、私も体をそっと動かす。あの声の主達は一体どこへ行ってしまったんだろう。
「さて、いくか。少し歩くけど頑張れよ」
そして私とカイトはノクトに連れられて黄金の草原の中を歩き出した。
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