わたしの隣の魔法使い
第5章 わたしの新たなる力
【その9】
私は夢の中にいた。
今日は何故かこの夢を絶対に見ると思っていたから、そこがどんな場所でも少しも驚かなかった。
「ロビン、どこにいる?」
黄金に輝く草原の中に私は立っていた。私はここを知っている。
「結李」
ロビンは私の声に答えるようにそこに現れる。そよぐ風が草原とロビンの髪を踊らせていた。
「ロビン、今日はあなたに聞きたいことがあるの」
「いいよ。でもその前にいい所に連れて行ってやる」
「いい所?」
ロビンは私の手を取る。そして重力を無視するように浮き上がった。私もロビンに引っ張られて浮かび上がる。
「え?え?え?」
今、私の足は完全に地面から離れている。
「大丈夫、体を風に乗せるんだ」
私はロビンに手で支えられるだけで浮いている。この手を離したら私は地面に落ちるって言うことですか?
「無理!無理無理無理!こわいこわい!」
もう体は地面を離れてだいぶ上まで来ていて、まるでスーパーマンのように体を横にして飛んでいる。でもその高さに私は体中から冷や汗をかきまくり、思考も止まりそうだった。
「まったく、しょうがないな。結李は怖がりすぎだ。こんなに綺麗な風景なのに」
確かに下は輝くほどに綺麗な草原が続いている。でもそんなこと言っても怖いものは怖い。これが夢であることも忘れ、私は自分のおかれた立場に焦る。
「じゃ、これなら怖くないだろ」
ロビンはスッと体を止めて、私を掬い上げる。それは一般的に言うお姫様抱っこというやつだろう。それでも怖い私はロビンの首のあたりを抱きしめる。そのままロビンはどこかへ飛んでいく。私は下を絶対見ないように上だけを見ていた。
「……どこへいくの?」
怖かったけれど、吹き抜けていく風がとても気持ちいい。それに空はどこまでも澄んだ青をしていて綺麗だった。私は一体どこへ連れて行かれるのかとロビンに聞く。
「思い出したんだ。俺がすごく気に入っていた場所のことを」
「気に入っていた場所?」
「もうちょっとで着くから、もう少し我慢してろよな」
そしてロビンは風にのるスピードを上げた。私はその速さにさらにロビンに掴まる。
私の考えが間違っていなければ、ここはたぶん妖精の国ティル・ナ・ノーグ。彼の故郷なんだと思う。
「さ、ここだ。結李」
あまりに急に急降下したから私は目を開けていられなかった。それに飛んでいる間ずっと上を見ていたからはじめにいた場所からどうやって来たかもわからない。私はある場所で降ろされた。
「うわっ、何ここ……」
私の目には信じられない光景が広がっていた。
「ここは水晶の庭園(クリスタル・ガーデン)だ。俺はここがすごく好きだった」
水晶の地面に水晶の岩、そこを流れる碧水の滝に碧水の川。川の中には水晶の魚が日の光に輝きながら泳いでいた。そして透明の実をつけている木々達。何もかもが夢のような場所だった。
「まるで夢のような所ね。私は物語の中に入ってきてしまったのかしら」
これはほんとうに夢の中なんだけど、この場所はきっとあそこにも存在するはず。
「で、話ってなんだ?結李」
ロビンは川に素足を浸ける形で座っている。私も素足になり足を川の中に入れた。その水はとても冷たくて一瞬足を戻して、もう一度ゆっくり入れる。そしてロビンの横に座った。
「うん、あのね、私ずっと考えていたの。ロビンが一体何者なんだって」
カイトの仮説はこの場所へ来て、更に確信へと繋がってきた。
「ねぇロビン。あなたって妖精王なの?」
私より幼いロビン。でも彼が王様だっておかしくはない。
「誰がそんなこと言ったんだ?」
「カイトよ。でも彼が言ったのはただの仮説」
「……」
「カイトにその話を聞いて、私もロビンのこと妖精王じゃないかって思ったわ。私が手に入れたカリバーンも魔法を跳ね返す力も、あなたが妖精王なら説明がつくの。ねぇ、ロビン、そうなの?」
ロビンはしばらく黙っていた。あなたが違うって言っても、私はロビンをもう妖精王だって信じてはじめている。
「結李はほんとに、カイト、カイトだな」
「え?」
ロビンが眉をひそめて私を見ている。
「結李は俺が誰かわからなくてはいけないのか?俺は俺ではダメなのか?」
私とロビンの顔の距離はすごく近くて、私は彼の強い目線に耐えられず顔を川の方に向けた。
「そんなことはないけど……。でも私の急な力にみんなは不審がっているの。それにロビンのこと誰にも話すことが出来ないし」
あなたはもう夢の中だけの存在じゃなくなっている。それなのに正体がわからなくてもいいというわけにはきっといかない。
「俺は結李に強くなって欲しいだけだ。自分の身は自分で守ってもらいたいだけだ。それだけの理由じゃいけないのか?俺の正体が必要なのか?」
ロビンの声が少し怒ったように聞こえてくる。私はいけないことを聞いてしまったのだろうか。
「ロビンはロビンよ。あなたの正体が誰であってもあなたはロビンだもの。でも……」
でもこれは私だけの問題じゃない。私が勝手に強くなってもダメなの。
「私にも教えてくれないの?ねぇ、ロビン。あなたは私の体の中に流れているフェアリードロップの力なんでしょう?」
それは妖精王の力。私の体にこの力が流れてからあなたは夢に出るようになった。
その時、ロビンは私を急に抱きしめる。その体は何故か震えていた。
「ロ、ロビン?」
ロビンの急な行動に私は驚く。ロビンは急に抱きしめたり急にキスをしてきたりいつも急だったけれど、震えるあなたははじめてだった。
「お願いだ、結李。これ以上は知らないでくれ。俺のことを調べないでくれ」
「え?ど、どうして……」
ロビンは私を強く抱きしめる。あまりに強い力の為、私の体は痛くなった。
「痛い、痛いよ、ロビン」
「結李、君の涙をこれ以上見たくないんだ……」
それからロビンは私が夢から覚めるまで離してはくれなかった。何を聞いても答えてくれなかった。私は途中で諦めて、ロビンに抱きしめられたまま夢から現実へと戻っていった。
わからなかった。何故ロビンはここまで自分の正体を知られたくないのか。妖精王とは一体どんな人物なのか。私はこれ以上踏み入れてはいけない気がしていたけれど、それでもロビンの正体はとても知りたかった。それに私は知る必要があると思っていた。
(ごめん、ロビン……)
この先に何が待っているんだろう。私はその現実に目を逸らさず見ることが出来るんだろうか。
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