わたしの隣の魔法使い
第5章 わたしの新たなる力
【その8】
「また、わたしのせいで〜なんて思ったりしてる?」
私はまだボロボロ泣いていた。カイトはそんな私をみて優しく微笑む。
「ユーリってそんなに泣き虫だったんだね。第一印象と全然違うなぁ」
「私だって初めて知ったよ。自分が泣き虫だって」
私はずっと自分を強い人間だと思っていた。どんなに住む場所が変わったって、どんなに友達が変わったって私は泣かなかった。悲しかったけど泣くことだけはしなかった。でも私はカイトに会って何度も泣いている。自分がこんなに泣き虫だったと自分自身が一番驚いているのかもしれない。
「オーガの攻撃からユーリを助けた時にはじめに思ったことは、またユーリが泣くなぁってことだったよ。そしたら案の定泣いている。僕の考えは正しかったね」
カイトは楽しそうに笑っている。私のことで笑うカイトを見てなんだか少し嬉しかった。
「あ、ひどい。だって勝手に涙が出ちゃうんだもん」
カイトと話していて涙がだんだんと弱くなっていく。
「言っただろ、ユーリを守るのは僕の仕事だって。だからあの時助けたのはあたりまえの行動なんだ。まあ、君がなんかすごい攻撃をしてきた時は驚いたけど」
それは私も驚いたけど。
「……ほんと、ごめんね」
「いいよいいよ。こうやって無事なんだし」
そしてカイトがベッドから立ち上がる。その時少しカイトがふら付いたので私が急いでカイトを支えた。
「だ、大丈夫?」
「ごめん、寝すぎたかな。って、あれ?何でユーリが僕の制服着ているの?」
「あ……」
私にはかなり大きいカイトの制服。そういえば着たままだった。私も忘れていたけど、カイトも今更気がついたのが少しおかしかった。
「ごめん。部屋が寒かったんだけどこれしか見当たらなくて……あぁ、私の涙がっ!」
私は泣き始めてからかなりの量涙を下に流したみたいで、制服が少し濡れていた。人様の制服を涙で濡らすなんてすんごく恥ずかしい……。
「あはは。別にいいよ。こっちこそごめん、この部屋にはエアコンもストーブもないんだよね」
「そうそう、はじめびっくりしちゃったよ。大きな部屋なのになんにもないんだもん」
「まあ、ここは寝るだけの為の部屋だしね。僕は家全体が部屋みたいなもんだし」
私はそうかと納得する。私みたいに一部屋で過ごしているわけじゃないんだよね。カイトは。だったら寝室がベッドだけの部屋でもおかしくないのかも。
「リビング行こうか。あそこならエアコンあるし。何か温かい飲み物入れるよ」
「うん、ありがとう」
そして私はカイトと一緒にリビングに向かった。制服は洗って返すといったけど、それだと明日学校に行けなくなるからと言われた。それはそうかもしれない。少し申し訳ないけど、私はカイトの制服を元の場所にかけておいた。
時計の針は9時をまわっていた。さすがにやばいと電話を借りて家に電話をかけた。でも思ったほどママは怒っていなくて少しホッした。
「お母さん、怒ってなかった?大丈夫?」
「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて」
ママにはあと1時間ほどで帰ると伝えた。迎えに行こうかと言われたけれどカイトの家に来てもらうのはよくないだろうと私はそれを断った。でも高校1年生の女子が夜の10時に外を出歩くのはさすがにまずいかな。
「大丈夫、僕が送ってあげるから」
はじめはカイトのその申し出も断っていたんだけれど、あまりにも心配するからしぶしぶ受けることにした。
「瞬間移動だから何も危ないことはないよ」
そういうけど、あなた病み上がりなんですよ。でもカイトに送られるのは嫌いじゃないし、逆にやっぱり嬉しいから私はそれを言うのはやめておいた。瞬間移動なら時間ギリギリまで話すことが出来るし。これって恋する乙女のわがままなのかな。って、また変な考えをする。結李ってば。
「ユーリ」
「ん?」
私はリビングのソファに座りながら、カイトが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。少し冷えた体に温かい飲み物がとても美味しい。色々なことがありすぎてお腹は減っていないのだけれど、きっと寝る前に空くんだろうなぁなんて私は思った。
「仮定の話していい?」
「仮定?」
「ユーリが口にすることが出来ない話のこと」
それはロビンのことだとすぐにわかった。
「うん、いいよ」
私は話すことは出来ない。でも聞くことならいくらでも出来る。
「ユーリの首の紋章、聖なる剣、魔法を跳ね返す力。それすべてを考えて僕はある仮説を立てたんだ」
それはすべてロビンから貰ったもの。私が自分で身を守る為の大切な力。
「それらをユーリが誰から貰ったのかわからない。でもすべてフェアリードロップの力を体に受けてからの話だと思うんだ」
私は頷く。私の運命はあの日から変わったのだから。
「それならそれがフェアリードロップの力のせいとは考えられないかな?」
「フェアリードロップの?」
でもあれはロビンにもらったもので、フェアリードロップなんて……。
「フェアリードロップを作り出したのは妖精王だ。ならこの石の中に妖精王の意識なり記憶なり、そういうものが入っていてもおかしくないと僕は考えたんだ」
カイトは服の下にいつも大事に隠している綺麗な石を取り出す。
「その意識がユーリの体の中に直接流れ込んだとしても何もおかしいことじゃない」
「妖精王の意識……」
じゃあロビンは……。私はカイトが持っている石を見ながらロビンのことを思い出していた。
「君が魔力を持った誰かにどこで会っているのかはわからない。でもそれはきっと現実の中でではないんだろう?」
たしかにそう、私は彼に夢の中で会う。私はカイトを見て頷く。カイトもそれに答えるように微笑んだ。
「そうか、君は妖精王から直接力を貰っているんだ。それならなんとなく納得がいく。ジハナムの妖精の力を跳ね返したり、聖なる剣をユーリが持っていることの」
ロビンが妖精王?私より少し幼く見える彼が妖精の王様?でもそれならロビンが私に色々と良くしてくれるのも、あのオーガを簡単に倒してしまうのも頷けるのかもしれない。
ロビンは人間とどこか違っていて、ティターニア女王様やエアリエルのような普通ではない感じがしていた。だから私はロビンのことを妖精だと思っていた。だったら彼がフェアリードロップを作り出した妖精王だとしても不思議はないのかもしれない。むしろそれなら色々説明がつく。
「これはただの仮説だ。でもそれが本当ならユーリは大きな力に守られている事になるよね」
「うん。そうかもしれない」
そうなのかもしれない。私は自分がとてもすごい人に守られているような気がしてきた。カイトに守られ、妖精王に守られている。私は体の中に温かいものを感じるような気がした。
「ねぇ、妖精王って一体どんな人なの?」
ロビンが妖精王だとしても、それはフェアリードロップの中の話で、本当の妖精王のことが私は知りたかった。
「僕もあまり教えてもらっていないんだ。明日、学校帰りにティル・ナ・ノーグに行って教えてもらおうか」
「うん!行く。行きたい」
「この仮説についてもきちんと調べないといけないしね」
カイトの仮説は私の中ではもう真実となりつつあった。今までまったく謎だったロビンのことが少しずつわかってきている。それはとても嬉しいこと。
「じゃ、そろそろ送るよ。この続きはまた明日に」
「そうだね」
時間は丁度10時を回るところだった。
そして私はカイトに掴まり、カイトの魔法によって家まで送ってもらった。
「カイト、ありがとう」
私はカイトにマンションの前まで連れてきてもらっていた。もう夜の10時過ぎで、マンション前に人は一人もいない。でもエントランスは明るかった。
「うん……っと」
「あ、カイト」
その時カイトの足が少しふらついた。私はまたカイトを急いで支える。
「ごめん、今日はちょっと魔法を使いすぎたかも」
そういえばカイトの髪の毛の色がまだ黒く戻っていなかった。今日はずっと魔法使いっぱなしだったし、やっぱり一人で帰ってくれば良かったと後悔する。
「だ、大丈夫?」
「平気平気。帰って寝ればまた復活するよ」
カイトの笑顔。私はこの優しい顔が好き。
「そっか。無理はしないでね」
「ありがとう。じゃ、また明日ね」
「うん」
そしてカイトはまた一瞬で家に帰っていった。
やはり魔法というのはとても便利で、暗い夜道もまったく心配することなく帰ることが出来る。私も瞬間移動だけでも使える様になれればいいなーなんて思ったけど、まだカリバーンも使いこなせてないのにと、今は魔法を羨ましがるだけでやめておこうと思っていた。
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