わたしの隣の魔法使い
第5章 わたしの新たなる力
【その5】
「何が来るんだ。すげーでかい気配を感じる」
ジハナムの妖精の気配を感じたのは、私が聖剣カリバーンを出してからすぐのことだった。
とてつもなく大きなものがこちらに向かっている。私にもそんな気配を感じることが出来た。ずっと頭が痛い。今までで一番恐怖を感じる気配だった。私達はすぐにカイトの家の庭に出る。
「とりあえずその剣のことは後だ。まずはこちらへ来るものの始末をする」
エアリエルはそう言うと後ろから私の腰に手を回す。
「え?え?何?!」
「カイト、後は任せる」
カイトはエアリエルに頷いて、右手を前に出す。
『魔剣グラムよ 妖精王の命に従い 我が力となれ』
カイトがそう魔法を唱えると彼の右手に光が集まる。そして光は実体となりその手には金色の剣が握られていた。私のカリバーンとは対照的な光り輝く魔剣。
「ちょっと待って!私も戦える。私に戦わせて」
しかしそれを聞いてくれるエアリエルではなかった。エアリエルの強い力は私を離さない。しばらくバタバタとしてみたけど、ムダだと思った私は抵抗するのをやめた。その間、エアリエルは一切私のことを見ていなかった。
「くる!あっちだ」
ノクトはカイトの肩の上に立ち、ある方向を指していた。
「オーガか。あんなものまで外に出るとは」
エアリエルがノクトが指す方向を見てそう答える。私にはまだそこは綺麗に手入れされた庭にしか見えていない。しかし、時間がたつにつれてそこに何かが立っているのが私にも分かった。私は目を凝らす。
「え……!何これ……」
大きな怪物は前に見たことがある。ドラゴンのような蛇も私は遭遇した。しかしこれはそれ以上に大きくて恐ろしい怪物だった。
トロールより体は大きく均等の取れた筋骨隆々の体。頭からは大きな角が何本も生えていて鬼のような顔をし、まるで獣と人間が合わさったような怪物の姿に私は震え上がる。しかしカイトはそれに動じることもなく前に出る。
『ほほお。いい匂いはしいていたが、こんなにもたくさんの美味そうな妖精がいるとはな』
オーガは普通に人の言葉を話す。その声が辺りに響いた。私はその大きな声を聞いてさらに体の震え上がった。エアリエルに掴まれたことはむかついていたけど、今となってはこうやって支えてもらっていて良かったと思っていた。
「何でお前みたいなのが外へ出てこれるんだ。結界は消えたのか?」
『ははん。生憎だが消えていないな。だが我が主の力が日に日に強くなっているんだ。その日も近い』
大きな体のオーガの手には人間では絶対に持つことの出来ないような大きな斧が握られている。こんな斧で攻撃されたら私の体は一瞬でつぶされてしまうだろう。私は想像するのも嫌になってきた。
「ではその前にお前を始末する。だから先のことは考えなくてもいい」
『はっ!オレ様を始末するだと?お前のような小さき者が生意気いうもんじゃない』
オーガは斧を自分の肩の上に乗せた。自分に自信があるかのようなオーガの仕草。
「それはどうかな?」
カイトも小さく何かを呟いて剣を前に構えた。剣からは真紅の炎が燃え上がる。次の瞬間、カイトがオーガに斬りかかった。
『面白い!やれるものならやってみろ!』
そしてカイトとオーガは互いの武器をぶつけ合った。
それは不思議な光景だった。自分の体より遥かに大きな斧の攻撃を小さな剣で受け止めるカイト。少しもひるむ事もなくカイトは次々にオーガに攻撃をしていった。剣と斧がぶつかり合う度に大きな波動が私の体をすり抜ける。私は怖くて見ているのが辛くなってきた。
『はっは!面白いぞ人間。よくオレ様の力に耐えている。じゃあこれはどうだ?』
オーガは大きな手でカイトの体を掴み投げ飛ばす。カイトは上手く着地をした。
『爆炎波』
あまりに短い言葉だったから、私にはそれが魔法だということがすぐにはわからなかった。しかしその言葉を唱えた瞬間、オーガの手から大きな炎が飛び出す。
「カイト!」
私はオーガが放った炎があまりに大きかった為、カイトが危ないと思い大きく叫ぶ。しかし、カイトはこちらを見ることなくその炎を簡単に避ける。私はホッと胸を撫で下ろした。
『まあ、こんなものか。じゃあこれならどうだ?』
私の安心も束の間、オーガはまた大きな炎をカイトに放った。でも今度は1発ではなく何発も何発も。あまりにたくさんの炎が放たれた為、私の周りは煙で覆われる。私はカイトの姿を確認できなくなっていた。
「エアリエル!カイトが!カイトが!」
しかしエアリエルは冷静だった。というよりも表情が少しも変わっていない。
「大丈夫だユーリ。カイトはこんなことではやられないよ」
エアリエルの変わりに答えたのはいつのまに私の横で飛んでいたノクトだった。それでも私は前の見えない状況にヒヤヒヤしながら何か私にも出来ないか考えていた。
『生命の源の聖なる水よ 我が手に集い すべてを清めよ』
煙の中からそんなカイトの声が聞こえてくる。私は必死にその声のする方向を探す。そしてその声に答えるように空から雨が降ってきた。
「え?雨?」
しかし空は雲ひとつない青空。雲がないのに空から水が降ってくるその状況に私は驚く。魔法にいちいちビックリするのも大変だけど、何もない所から水が降ってくるなんて本当に不思議。
『炎に水に、あとは土に風かい?さすが噂の魔法使いさんだねぇ』
空から降ってきた雨のおかげであんなに視界を隠していた煙は晴れて、カイトとオーガの姿を確認できるようになっていた。どちらも傷一つなく、息も乱れていない。
『でもなぁ。お前がいると主が非常に困るんだよ。だからお前には消えてもらわないとな』
オーガはまた大きな斧を構える。その斧でまたカイトを攻撃するんだと私は思っていた。
『ならこれならどうだい?これはお前の大事なものなんだろう?』
そしてオーガは私の方に斧を向けて大きな体を揺らしながらこちらに走ってきた。
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