わたしの隣の魔法使い


第5章 わたしの新たなる力
【その4】


「うおっす、ユーリ。久しぶりだな」
 カイトの家の玄関を入るやいなや、小さい何かがフワフワと私の元に飛んできた。それをすぐにノクトだと気がつく。
「ノクト、久しぶりだね。元気してた?」
「元気元気。ごめんな、もうちょっとこっちにこれれば良かったんだけど、こんなオレでも忙しくてね」
 ノクトは褐色の肌に銀色の髪の毛、青緑の薄い羽根が印象的なピクシーで、私の周りをくるくると周る。
「いいよいいよ。でも久しぶりに会えて嬉しいなぁ」
 私はリビングに行くまでの短い距離をそんな風にノクトと話す。久しぶりに会う彼は相変わらず話しやすい。このままこの時間が続けばよかったのだけれど、すぐにその時間は壊される。
「あ、エアリエル……」
 リビングに入った私は、部屋の中にある人物がいることに気がつく。
 それはティターニア女王の従者で誰よりも美しいエアリエルだった。相変わらず真っ白な顔に真っ白な服装。目が痛くなりそうなほどの無垢な白の彼がそこに座っていた。私はエアリエルの変わらない表情に少し緊張をする。私はこの人が少し苦手だった。そしてエアリエルは立ち上がってこっちに歩いてきた。
「話は聞いている。魔法を跳ね返したそうだな」
「は、はい」
 カイトが私に遅れてリビングに入ってくる。手には4つのティーカップが乗ったおぼんを持っていた。何か温かい飲み物が入っている。
「とりあえずソファーに座りませんか。その話は長くなりそうです」
「うむ。でもその前に、ユーリの体を少し見せてもらおう」
「え?」
 体を見るとか言うからはじめは少しびっくりしたけど、エアリエルは私の至る所に手を当てる。そしてある場所で手が止まった。
「お前、これは一体なんだ?」
「え?な、何?」
 エアリエルの言葉にカイトも私の傍に寄ってくる。もちろんノクトも寄ってきた。
「カイト、お前はこれを知っていたか?」
「……いいえ、知りませんでした」
 エアリエルの声に部屋の空気がだんだん変わっていく。でも私は一体何を言っているかわからず、意味がわからなかった。
「何なの?一体何があるっていうの?」
 一瞬静かになる。そしてカイトの口が開いた。
「君の首筋に紋章が浮かび上がっているんだ。これは一体誰がつけたんだ?」
「紋章?何それ」
 わけがわからなかった。紋章?首筋?
「こんなのオレ、見たことないぞ。これは一体なんなんだ、エアリエル」
「……ふむ」
 ノクトは私の肩に座っている。でもそれどころではなく、私はみんなが何を言っているのか知りたかった。するとカイトが部屋に掛かっている壁掛けの鏡を持ってくる。
「これだよ、ユーリ」
 私はその鏡に自分を写し、ノクトが乗っている方の肩を見る。
「何……これ……」
 鏡を見るのはこれがはじめてじゃない。お風呂にだって鏡はある。たぶん毎日鏡は見ていた。それなのに私はこんなものを今はじめて目にした。確かに私の首筋にはくっきりと黒い紋章が刻まれていたのだった。
「あ……」
 私はあることが頭の中に浮かんでいた。それは確実ではないけど、なんとなく合っているような気がしていた。
「ユーリ、その顔は心当たりがあるということ?」
 カイトが心配そうな顔で私の近くに寄ってくる。私は少し考えて軽く頷いた。
 私の頭に浮かんだこと。それは、この場所は夢の中でロビンがキスをした場所だということだった。

 私達は揃ってソファーに座っていた。私の横にはカイト。そしてテーブルを挟んで反対側にエアリエルが座り、ノクトはテーブルに座っていた。
「やはり、その紋章の原因は言えないのだな?」
 私は頷く。やっぱりロビンに関することは口から出てきてくれない。
「なるほど。沈黙の魔法がかかっているのか」
 エアリエルの美しい顔が眉をひそめる。そして小さく唸った。この口からロビンの事が出てくれば簡単なのにと私は心の中で何度も思う。でも口はそれを許さなかった。
「この紋章は何のものなんでしょう。私はこれは見たことがありません」
 カイトがすごく古そうな本をペラペラめくりながらエアリエルに話しかけている。本の中には色々な紋章や魔方陣などが描かれていた。
「私もないな。ただ、ユーリが魔法を跳ね返したのと関係があることは確かだろう。その紋章からは強い魔力が感じられる」
「強い魔法の力?じゃあ、私は魔法が使えるの?」
 こんな時だけど、それなら私はもしかしたら魔法が使えるのかと期待する。こんなことは普通に話すことが出来た。
「それはどうだろうな。お前の体の中の力は前とは変わっていないようだ」
 私はそれを聞いて少しがっかりする。
「なあ、ユーリ。そいつは妖精なのか?」
 ノクトが私の顔の近くに飛んでくる。私はノクトの問いを少し考えてから、『わからない』と言う様に首を傾げた。
「うーん、わからないのか。じゃあ、そいつはどこにいる?」
 私はもう一度首を傾げた。
「ううううむ。なんともかんとも」
 みんなが困っている。でも私にはどうすることも出来なかった。なんとも歯がゆい。
(ロビン、どうして秘密なの?私はみんなにあなたのことを言いたいのに)
 私はロビンの事を思い出していた。時には寂しそうにして時には頼もしくもなる。そして私の力になってくれて私を守ってくれると言ってくれた。でもなぜ彼は私に自分のことを話させようとしないのだろう。知られるとまずいことでもあるのだろうか。
「とりあえずこの件は保留にしておこう。帰ってティターニア様に報告する」
「はい。わかりました」
 エアリエルが立ち上がるとカイトも続いて立ち上がった。私もその後に立ち上がる。
(そうだ、カリバーンを見せておかないと)
 きっとみんなロビンの事を怪しんでいる。そりゃ私が彼のことを言えないからなんだけど、彼が敵ではないことをみんなに伝えたかった。私に力をくれたロビンのことを教えたかった。でもロビン本人のことは無理でも、カリバーンのことはきっと見せられる。
(でもどうやって出すの)
「じゃオレも帰るな。また近いうちにくるよ」
 ノクトも帰ってしまう。私は焦った。
(お願いロビン、私にカリバーンを使わせて!)
 私は必死にロビンを呼ぶ。
「きた!」
「え?」
 私はあまりの喜びに声を出してしまった。他の3人が一斉に私を見る。今はそれに恥ずかしがっている場合じゃないと、私は頭に浮かんだ言葉を唱える。
『姿を現せ!聖剣カリバーン!』
 その言葉と共に私の左手の腕輪が強く光りだす。そして次の瞬間、私の手には1本の黒い剣が握られていた。
「ねぇ、見て!私にも武器が出来たの。これで私も戦うことが出来るわ、カイト」
 これをはやくカイトに言いたかった。カイトも喜んでくれると思っていた。
 しかし、カイトもエアリエルも、ノクトでさえ、その剣を眉をひそめて見る。少しの間の沈黙。
「お前、なんなんだそれは。なんでお前がそんなものを持っている」
 そして、沈黙をはじめに破ったのはエアリエルだった。



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