わたしの隣の魔法使い
第5章 わたしの新たなる力
【その3】
私はカイトの家の前まで来ていた。でもなかなか入れないでいる。その原因はやっぱり昨日のあの出来事をだった。
気がついてしまった私の本当の気持ち。カイトは優しくて強くて素敵で私を守ってくれる王子様。そうだとしても彼には結婚を約束しているお姫様がいる。庶民の私がそこに割り込むことは出来ない。だから私は自分の想いを胸の奥深くに押し込む。何もそこまでとか言われそうだったけれど、恋愛の経験がたぶんない私には、ここで我慢しなければどこまで気持ちがいってしまうかわからない。だから私はグッと体に力を入れた。
私は左手首の腕輪を確認して、門の右横にある呼び出しベルを1回押す。ビーっというなんとも古い時代の呼び出し音が辺りに響いた。そして門がギギっと開く。
普通に門からはカイトが出てくると思っていた。ここにはカイトしか住んでいないし他の人が出てくることはありえない。だから私は気持ち以外は何も警戒をしていなかった。
「ユーリー!!」
門が開いたと同時に誰かが私に飛びついてきた。私は想像以上の出迎えにびっくりしてうろたえる。
「え?え?だ、誰?」
「やっと会えた!やっと会えた!」
私は自分に抱きついている誰かを一生懸命確認する。その人があまりにきつく抱きしめるものだから顔はなかなか確認出来ないけれど、それは背の高い黒い髪の毛の人物で、私はその人をよく知っていた。
「え?カイト?」
私がそう名前を呼ぶと、その人は一旦抱きしめるのをやめて私に顔を見せる。
それは紛れもなくカイトだったんだけど、でもどこかカイトと違っていた。だってこんなテンションが高くて私に積極的に抱きついてくるのがカイトな訳ないし。
「え?何なの?一体誰なの?」
どこか違っていてもそれはカイトの顔をしていて、私は心臓が破裂しそうになる。そんなに顔を近づけないで。せっかくカリバーンのおかげで少しずつ忘れかけていたカイトへの想いが戻ってきそうになる。
「ご主人様にずっと頼んでいたのに、なかなかユーリに会わせてくれないんだもん。シルフィなんてずっと前からユーリに仕えているのに」
「え……?ご主人様?」
その言葉を聞いて、彼が言っていることがなんかだんだんわかってきた。これはカイトじゃない。そしてこれはきっと。
「こら、ノーム、勝手に何をやっているんだ」
門の奥からもう一人出てくる。それはもちろん本物のカイト。私はドキッする。
「ごめん、ユーリ。ノーム、姿を戻すんだ」
「ぶー。はーい」
そこで私に張り付いていたノームが私から離れる。本物と並ぶ偽物のカイト。二人ともまったく一緒で私は何て豪華なものを見たんだろうと思った。そして偽カイトの姿がゆっくりと縮んでいく。
どんどん縮んでいったノームはシルフィほどの大きさになった。ノームの姿はとんがり帽子を頭にかぶった可愛い男の子で、宙をフワフワ浮いている。
「ユーリ、はじめまして。ボクはノーム。ご主人様を守る精霊の一人だよ」
そしてノームは私の頬にちょこんっとキスをする。
「ノームは変身が出来るのね。ということはもしかして……」
そういえば私は疑問に思っていたことがあったんだった。昨日のあの心の混乱ですっかり忘れていた。
「そうだよ。授業中や劇中に僕の代わりをつめたのがこのノーム。わかってもらえたかな?」
ノームは照れくさそうに頭をかいた。
「なるほど。だからカイトはあの時に『もう一人のカイト』なんて言ったのね。納得しちゃった」
「えへへ。ボクは立派にご主人様になりきれるんだよぉ」
ノームはなんだかとてもかわいい男の子。私は彼の小さな頭を指で撫でる。
「偉いのね、ノームは」
しかしさっきは本当にびっくりした。本当のカイトじゃなかったけれど容姿はそのままで、そんなカイトが私に思いっきり抱きついてきた。たぶんあれは熱烈な抱きつかれ方。中身は違うけれど、カイトに抱きつかれている私を想像して変な汗が出る。
(心臓に悪いわ。これ)
もう二度とこんなことがないことを私は祈った。だって、こんなことが何度もあったら、私の固い決意が崩れ去ってしまう。
「さ、ユーリ、中へ入って。もうノクト達来ているよ」
急にカイトに呼ばれて私はまた心臓が飛び出そうになる。あぁ、こんなんじゃ心臓がいくつあっても足りないかも。固い決意はどうした、ユーリ。
そして私は平然を装いながら答える。
「うん」
カイトは私を門の中に入れてくれて、私達は家の中へ入っていった。
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