わたしの隣の魔法使い
第5章 わたしの新たなる力
【その2】
私は部屋の電気も付けずに床に落ちた剣を拾う。淡い赤い光が暗い部屋と私を照らした。その幻想的な光を見ているととても不思議な気分になる。
「ロビン、話は本当だったのね」
私の体とは不釣合いな大きな黒い剣。それを軽々と持ち上げる。
「綺麗だな……」
まだ2時という時間で外も部屋の中も暗い。しかし、私の手元は明るく、剣の姿もよく見えていた。なんという綺麗な剣なんだろう。カイトの剣も金色でとても綺麗だったけど、私のこの剣はあれとは対照的で黒くてなんて立派なんだろう。
「でもこれ、どうやって普段持てばいいんだろう」
そういえばそれは聞いていなかった。こんなのを毎日持っていなければならないのだろうか。でもピンチの時に手元にないと武器の意味がまったくない。それにこんなのが部屋にあってママやパパに見つかったら、どうなることか。私はベッドに座りながら大剣を膝に置きどうするか考えた。でもいい案なんて思いつくわけもなく。
「これは困った」
そんなことを言いながら私は部屋に敵がいることを想定して剣を構える。たぶん自分の武器を手に入れた喜びに酔ってしまったのだと思う。まるで英雄になったかのように私は剣を振り回す。部屋に赤い閃光が走っているようだった。それはとても気持ちが良くて私は自分の行動に酔いしれる。
「でも、これを持ち歩けないとまったく意味がないんだよねぇ。一体どうしたらいいんだろ」
その時だった。何故か私の頭の中にある言葉が走った。それは誰かが私に話しかけるとか、カイトがシルフィを使って伝言を送ってくるようなそういう感じではなく、いきなり頭の中に言葉が浮かんだのだ。
「え……、それを唱えろってこと?」
それを私はロビンからの伝言だと受け止めた。この剣が現実になった時点で、これから起きる事に躊躇はしてはいけないんだと思いながら。だから私は頭の中に浮かんだ言葉を唱える。
『聖剣カリバーンよ 偽りの姿となれ』
それは簡単な言葉だった。だから本当にそれが呪文なのかわからなかったけれど、私の口がそれを唱えると握っていた剣がさらに強い光を放つ。
「え?え?きゃ!」
それはあまりに強い光だったから、私は目をつぶってしまった。だからその時、何が起きていたのかわからなかった。私は恐る恐る目を開ける。
「あれ……」
今まで剣の放つ光で部屋はとても明るかった。でも今は真っ暗に戻っている。明るい光の後に見る闇。目が変になってしまったような感じがしている。
「一体何があったの?あれ?剣はどこ?」
私は握っていたはずの剣がないことに驚き、ベッドの横に置いてある照明器具を急いで付けた。部屋が暖かいオレンジ色の光に包まれる。
そして私は辺りを見回す。しかしどこにも大きな剣は落ちていなかった。でも何故だか私の剣は近くに存在していると感じ、辺りを慎重に探した。するとベッドの上に見慣れない小さな物が落ちていた。
「これって……」
それは銀色の細い腕輪だった。間接照明の光だったから、腕輪の細部まではよくわからなかったけれど、それはたしかに私のものではないし、今まではそこには絶対になかった。
「剣がこれに変化したってこと?」
何も根拠はなかったけれど、その考えには自信があった。だから私はその腕輪を左手の手首にはめる。
「あれ、ブカブカだ」
腕輪は思ったより大きくて、ただはめているだけではすぐ落ちてしまいそうだった。これはどうしたらいいんだろう、なんて考えているうちに、その腕輪がだんだん熱くなっていった。
「え?何?あ、あつっ!」
私の手首にはめられた腕輪は、耐えられないくらいに熱くなってき、私は我慢出来なくなり腕輪を外そうとする。しかし、その時に腕輪の大きさが私の手首のサイズぴったりになっていることに気がついた。そして熱さは急に治まる。
「私のサイズに変化したって……こと?」
今や腕輪は私の手首からはずれることもなく、動かすことも出来ない。痛くもなく、かゆくもない。今はまだ違和感はあったけれど、きっと慣れてしまうとはめていることも忘れてしまいそうな感じだった。
「でもこれで、剣をどこにでも持ち歩けるってことよね」
ここからどうやって剣を出すのかは今はまだわからない。でもきっとまた頭に言葉が浮かぶと私は信じていた。
時計の針は今はもう4時をさしている。武器を手に入れた興奮で眠れそうになかったけれど、私はもう一度布団に潜り込んだ。体は興奮を抑え切れない。
「聖剣カリバーンか。うー、嬉しいなぁ。でも聖剣っていうわりにはなんであんなに真っ黒なんだろ」
私はカリバーンの姿を頭に浮かべる。聖剣っていったら勇者が持つような剣だと思うけれど、あの姿はどう見ても聖剣という感じじゃなかった。
「このことをカイトに言わなきゃいけない。でも前みたいにまた言葉が出なかったりするのかな」
どうしてだかロビンのことは人に言うことが出来ない。でも武器を手に入れたことをカイトに伝えなければならない。これからは私も戦えるのだと。
「運良くジハナムの妖精が出てくれば見せることが出来るのに」
そんな風に私は簡単に考えていた。今は武器を持てたことが嬉しくて、自分が英雄になったような気分だけを味わっていた。
そして気がつくと私はまた再び眠りに落ちていっていた。今度は夢も見ず、そのまま朝になるまで眠っていた。
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