わたしの隣の魔法使い
第5章 わたしの新たなる力
【その1】
私はうずくまっていた。あのいつもの知らない場所で。夢の中で。
「私はなんてことに気がついてしまったんだろう。どうしたらいいんだろう」
私の胸の中には自分の想いが詰まっていた。今まで気づこうとしなかった想い。カイトへの想い。でも彼には婚約者がいて、それでも彼は私を守ってくれる。
「好きにならない方がおかしいのよね。だって相手はカイトよ」
周りは雲一つない青空の草原。どこまでも続く緑がとても綺麗だったけれど、一面の草原ってなんだかすごく寂しくて少し怖い。いつものようにそこには私しかいなかった。
「真昼だってカイトのことを王子様みたいだって言う。王子様に守られればどんな姫だって恋に落ちるのよ」
それは私が私に対する言い訳だった。恋を認識してしまった私は、そんな言い訳を言いながら色々なことをごまかす。
「あー!もう!次からどんな顔して会えばいいっていうのよ」
もちろん、この想いを偽りと思って忘れてしまえばいい。それが出来たら苦労しない。それか、芽衣からカイトを奪ってしまってハッピーエンドになればいい。でもそんなこと私には出来ない。
「でもカイトが私を選んでくれたら……」
そんなことを考えてみる。でも私はカイトと芽衣の並んだ姿を思い出していた。私があの美しい二人の中に入り込む自信なんてどこにもないんだ。私は平凡な女子高生。芽衣みたいに綺麗な部分はどこにもない。
「だったら、もうカイトに守られなければいいんだ。守られるからどんどん好きになっちゃう」
おとぎ話のお姫様だって王子様に守られるから恋に落ちる。恋に落ちたくなければ、自分で戦えばいい。
「でも、私には戦う術がないし……」
前の戦いで何故か魔法を跳ね返すことが出来た。でもそれは偶然だと思うし、私は魔法を使うことが出来ない。どうやって戦えばいいというのだろう。
「俺がやろうか?お前に戦う術を」
「え?」
気がつくと、うずくまる私の後ろにロビンが立っていた。太陽の光で黒い髪が光っている。相変わらず綺麗な長髪。そして綺麗な金色の大きな瞳。
「やろうって……ロビン、あなたは何者なの?」
私はよいっしょっと立ち上がる。そしてロビンと目線の高さがほぼ同じくらいになった。
「俺は……うーん。なんだろうな」
「何よ、それ」
そうだった。この間カイトにロビンのことを話そうと思ったとき、口から言葉が出なかったんだ。ロビンは本当に一体何者なんだろう。
「それより、戦う術が欲しいんだろう?」
「欲しいけど……私自身は何も出来ないの」
体には魔法の力が流れているのに。
「それなら結李の体を使わないことをすればいいんだ。簡単なことさ」
「え?どういうこと?」
「武器を持てということだよ」
武器?でも私は力も強くないし、何か訓練を受けたわけでもない。あんな凶暴そうな妖精に勝てるなんて思えなかった。しかしロビンは両手を前に出し、そのまま手のひらを天に向ける。
「え……?」
私はロビンを普通とは違うとはわかっていた。でもこれは夢。それでもこの夢に魔法や妖精は出てこないし、ただの夢の中の人だと思っていた。でもそれは違っていたのだ。
『すべてに仕えし尊き精霊達よ 永遠なる忠誠に従いここに集え すべては結李の為に 我が身と共に黒き刃となれ』
それは明らかに魔法だった。ロビンが今、私の目の前で魔法を唱えている。カイトのように容姿は変わっていないけれど、ロビンの体が光る。
「ロビン……」
これは夢。夢なんだ。夢なら何でもありでもいいじゃない。
「さあ、結李。お前にこの力をやる」
魔法の詠唱を終えたロビンの手には何かが握られていた。それは光に覆われていて何なのかわからない。
「あなた……、魔法使いなの?」
この世界で魔法が使えるのは私が知る限り魔法使いか妖精しかいない。それなら私の目の前にいるのは一体誰なの?
「魔法使いか、まあそうかもしれないな」
ロビンは笑う。でも私には納得がいかなかった。
「ロビンはもしかして妖精なの?」
私のその問いにロビンは何も答えず微笑むだけだった。
私の夢に頻繁に出てくるロビン。その時点で普通ではないんだけど、彼からはなんだかティターニア女王やエアリエルのような不思議な感じがしているのに私は気がついていた。もちろん人間ではない。だったら彼は妖精なのだろうか。私の夢の中に出てくる妖精。ロビンは一体何者なんだろう。
「お前がカイトの力を借りたくないというならば、これを使うといい」
「え?カイトを知っているの?」
ロビンの口からカイトの名前が出てきてびっくりしたけれど、ロビンは首を横に振る。
「結李がさっき名前を言っていたから覚えただけだ。結李は彼に守られたくないんだろ?」
そうだ。私はずっとカイトカイトと言っていた。ロビンにそこまで聞かれていたと知って顔が熱くなる。
「そうだけど……」
ロビンの手に握られていた光を纏っていたそれがだんだんと姿を現す。
「あ……これって……」
私は姿を現したそれにとても驚いた。
ロビンの手に握られてる物は覆っていた光が完全に消え、姿を完全に私に見せていた。それはそれは1本の剣。黒い柄に黒い刃。柄には大きな紫色の宝石が数個と、刃の中央には金色の装飾がなされていた。
「これは……」
私はロビンに近づき、剣に触る。すると剣が赤黒く光った。
「これは俺の分身だ。この剣がこれからお前を守ってくれる。だからもう何も心配はいらない」
そしてロビンは私に剣を差し出した。私は恐る恐る剣を受け取る。大きなその剣は、見るからに重そうなのに、びっくりするくらい軽かった。
「うわ、なんて軽いの」
「その剣は今、お前の一部になったんだ。だから重さは感じないはず」
「そうなんだ」
両手に握る剣。でも握っていないかのように軽かった。私は大きな剣を何度かその場で振る。これなら私にも扱えそうだった。
「ねえ、これは夢じゃないの?」
剣は貰った。でもこれが夢だと意味がない。いや、夢が現実になるなんてありえないこと。私は剣を貰って喜んだ半面、これはただの幻なんじゃないかと思っていた。
「それはお前が決めることだ」
「私が……?」
「結李が本当に力を求めるのであればこれは現実となる。夢のままでいいならば夢のままだ。お前はどっちがいい?」
私は……。
「力が欲しい。私は力が欲しいの」
カイトへの気持ちもそうだったけど、私はこのまま何もしないで守られるだけなのは嫌だった。力が持てるならカイトの助けにだってなれるかもしれない。
「そうか。ならそろそろ戻るといい。これからは自分自身で身を守るんだ」
「うん。私やってみる」
ロビンが誰だかわからない。でも私はずっと自分の力を手に入れたかった。
「ありがとう、ロビン」
夢から覚めてそれは夢でしたという結末もありえるけど、何故だか私はこれは現実に続いているような気がしていた。ロビンは私の為に力をくれたのだと。
「いつもお前を見ている。必要ならば俺を呼べ」
そして私は夢の世界から現実に戻る。
私は目を覚ました。
「まだ、夜か……」
周りが真っ暗だったから、私は近くの目覚まし時計を見る。時計は2時をさしていた。
「夢……だったのかな?」
まだ頭はボーっとしていた。そしてぼんやりロビンの言っていたことを思い出す。そんなことを思いながら私は寝返りをうった。
その時、何かがが床に落ちる大きな音がした。その音は金属の音。私はその音の主が何なのか知っている。
「……ロビン、あなたの話は本当だったのね」
私は体を起こし、床に落ちたものを確かめる。周りは暗くても落ちたものが淡く光っていて何なのかすぐにわかってしまった。
それはロビンにもらったあの黒い剣だった。
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