わたしの隣の魔法使い
第4章 ロミオとジュリエット
【その10】
私はまだカイトに抱きついていた。ジハナムの妖精に捕まるのが怖かったからではない。カイトにもう一度会いたかったから。
「なんでお前は勝手に動くんだ。お前がやったことがどんだけ重大なことかわかっているのか!?」
いつも優しいカイトが声を荒げる。
「……ごめん、カイト」
私にはそれしか言えなかった。わかっている、自分がしてはいけないことをしたということが。でもあの時はああするしか考えられなかった。
だって私にあの場を壊す権利はないもの。あんなにみんなカイトに夢中で、あんなに素敵な舞台に仕上がって、それを私一人の為に壊してしまうなんて絶対に許されないこと。それに芽衣だって、これ以上彼女から何かを奪うことなんて絶対にしてはいけないんだ。
でも私はカイトが助けに来てくれたとき、ただカイトを抱きしめたかった。私を助けにきてくれる人のぬくもりをもう一度感じたかった。
「それになんでシルフィを連れていなかったんだ。ユーリがどこにいるかわからなくて……」
怒った顔のカイトが急に悲しい顔になる。私はその顔を見つめていた。
「ごめん。あの時は私も必死で」
「本当に焦った。シルフィは校舎の中に置き去りにされてるし、ユーリの気配を拾おうと思っても、学校内に人が多すぎてわからない。もうダメかと思ったんだ」
私ももうダメかと思った。でも何故か私は助かったのだ。
「本当にごめん。謝ってすむ問題じゃないと思うけど、私にはごめんしかいえなくて……」
「わかってる。ユーリは僕の為に時間を稼いでくれたんだよな」
その時はじめてカイトは私の背中に手をまわしてくれた。
「良かった、間に合って。良かった、君が無事でいてくれて」
私を抱きしめてくれるカイト。私もカイトを抱きしめる。私は幸せだった。またカイトに会えた。またあなたと言葉を交わすことが出来た。それだけで私は本当に嬉しかった。でも、あなたが安心しているのは、私が捕まってジハナムの結界が壊されることを防げたから?それとも……。
「でも僕は色々な状況を一応は想定しているんだ。だからユーリが一人で逃げることはないんだよ」
「そう……なの?」
カイトの口調がだんだんいつものように柔らかくなっていく。心地よいカイトの声。
「今日だって僕が何も準備をせずに舞台に上がっていると思っているの?」
そこで私はカイトがロミオの姿をしていたことを思い出した。私はハッと思い出すようにカイトから離れる。まだ魔法の効果があるのか薄い色の髪の毛がロミオの格好にとても似合っていた。黒髪よりも美しく見える。私はそんなロミオを抱きしめていたのだ。
「そうだ!舞台は?!もう終わったの?」
そうだった。まだ『ロミオとジュリエット』の途中だということを。でもカイトがここにいるとうことは、もう終わったということなのかもしれない。
「そろそろ終わるんじゃないかな」
「えええ?じゃあ途中で抜け出してきたってこと?」
「うーん、まあ、今頃はもう一人の僕がきちんと舞台を終わらせてると思うよ」
「もう一人のカイト?」
「それが僕の用意した今日の為の準備だよ」
カイトはいつもの笑顔になる。でもよくわからなかった。カイトがもう一人いるというのはどういうことなのだろう。
「じゃ、戻ろうか、おいでユーリ」
「え?」
「僕をこのままの姿で校舎を歩かせるというのか?ユーリは」
ロミオの姿でみんなの注目の的になるカイトの姿を想像した私は少し笑った。でも似合いすぎてて違った意味で注目されそうだけど。
そして私はまたカイトに抱きつく。それが瞬間移動の魔法の為でも私はカイトの温もりを再び感じた。そしてカイトは呪文を唱える。それと同時に右目が赤く光った。
次の瞬間、私とカイトは体育館の裏側に立っていた。そこは普段から人があまり通らなく、私達が一瞬で移動してきたことは誰にも見つかってない。
「ここから舞台の裏側に入れるんだ。ユーリはどうする?」
「私は真昼を探すわ。きっと今頃心配してる」
いきなり席から消えた私。真昼が変なことを思っていないといいんだけど。
「わかった」
「あ、そうだカイト」
私はカイトに大事なことを言ってないことに気がつく。
「私ね、なんか魔法をはね返しちゃったんだけど」
「え?どういうこと?」
あの時、まだカイトはいなかった。だからきっと私が行った行動をカイトは見ていないはず。
「自分でも良く分からないの。敵が放った魔法を無我夢中ではね返して」
「……そうか」
カイトは私の言葉に難しい顔をする。私は魔法を体に持っているけど、使えないと言われた。だからあんなことは普通出来ないはずなのに。でもきっとピンチだったからあんな力が出せたのだと私は簡単に考えていた。
「わかった。その件についてはまた後で話そう。とりあえずこっちを片付けてくる」
「うん」
私は頷いてカイトと別れた。気がつくと近くでシルフィの飛ぶ小さな音が聞こえていたから、またシルフィが私のもとに戻ってきたみたいだった。
「あ、結李いたぁ!どこに行ったのかと思ったよ。気がついたらいないんだもん」
私が体育館の入り口で真昼を探していると、後ろから真昼が私を見つけてくれた。
「ごめんごめん、途中でお腹痛くなっちゃってさ」
「え?大丈夫なの?」
そんな嘘をつく。幸い、彼女はそれを信じてくれたようだった。
「最後の滝沢君、本当にかっこよかったよ。死んだと思ってしまったジュリエットを想って毒を飲んだ所で私泣いちゃったし」
少し目が赤い真昼。けっこう号泣したのかもしれない。しかし、真昼の話だとやっぱり最後までカイトは舞台にいたようだった。でもカイトは私と一緒にいた。これは一体どうなっているんだろう。
「席に戻れなかったけど、私も後ろで見ていたよ。ほんとすごかったよね」
「ねー!」
ここは話を合わせた方がいいと私は真昼にまた嘘をつく。ここで嘘をついておかないと、都合の良い言い訳なんて私には思いつかなかったから。ごめんね、真昼。
その時、真昼の携帯が鳴る。
「お、新條からだ」
そういえば後夜祭の約束をしていたんだった。時計を見ると3時半をまわったところだった。
「さ、結李、校庭行こうよ。キャンプファイヤーよ!花火よー!」
そして私は真昼に手をひかれ、そのまま校庭に直行するのだった。
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