わたしの隣の魔法使い
第4章 ロミオとジュリエット
【その7】
「シェイクスピア原作ロミオとジュリエット、ここに開演致します。最後までごゆっくりご鑑賞下さい」
体育館に響くその声は私がとてもよく知る人物の声だった。辺りからキャーっと黄色い声援が聞こえてくる。そして幕は上がっていった。
学園祭当日。飛鳥学園の生徒だけでもたくさんいるのに、学校内は他校の生徒や一般のお客さんでどこもごった返していた。私はそんな中、真昼と一緒に学校をうろつく。特に目的はないけれど、2年生の教室や3年生の教室なんかを見て周った。
「お、小宮山じゃーん」
3年B組がやっている喫茶店を覗いた時のことだった。真昼が後ろから誰かに声をかけられた。そして私と真昼が後ろを振り返る。するとそこには二人の男性が立っていた。
「うわ、新條に阿良川!すんごい久しぶり!」
真昼がそう呼ぶ二人は、飛鳥学園の制服とは別の制服を着ていた。どうやら他校の生徒らしい。
「結李、この二人は新條と阿良川っていって、私の中学の時の友達だよ。この子は河原結李。最近転校してきて友達になったの」
私は二人に向かって軽く会釈する。
真昼が新條君と阿良川君と呼ぶこの二人は対照的な姿が印象的な二人だった。新條君は茶髪で少し不良っぽくて、阿良川君は真面目そうな眼鏡少年。なんだか二人が一緒に歩いているととてもチグハグな感じだった。
「へぇ、可愛い子だね」
そう笑顔で私に話しかけるのは阿良川君。
「お前、この学校でもよろしくやってんのか?」
そう怖そうな顔で真昼に話しかけるのは新條君。
「相変わらず性格が合わないそうな二人だねぇ。二人こそ元気でやってるの?」
「当たり前じゃん。まあ、毎日勉強は大変だけどなー」
二人は背が高く、たくさんの人ごみの中でもとても目立つ。
「こいつ、こんな顔してても、守水市の中でもトップクラスの進学校に行っているんだよ」
そう言って真昼は新條君の背中をドンッと叩く。それを見て阿良川君がクスクスと笑った。二人は同じ制服を着ている為、二人して頭がいいらしい。私はへぇぇっと感心した。
「しっかし、お前の学校は可愛い子いっぱいいるなぁ。今度合コンしようぜ」
新條君は辺りをキョロキョロと見回す。私と同じ制服を着た生徒がこちらをチラチラ見ていた。
そういえば真昼が少し前に言っていた。学園祭は学校生活の中で数少ない他校の異性と知り合うことの出来る出会いの場だってことを。私はそういうのに本当に疎くて今時の女子高生の気持ちは良く分からない。
「いいよー。青南高校の生徒と合コン出来るっていうならいくらでも人集まるし」
「よし、決まりな。メンツ決まったらメールくれや」
そんなどんどんと予定を決めている二人をただ見ていた私。そして私の隣に立っている阿良川君はただニコニコしながら二人の様子を見ていた。
「真昼、元気な子でしょう?」
最初に話しかけてきたのは阿良川君の方からだった。
「うんうん。一緒にいるととても楽しいよ」
端整な顔立ちに縁がない眼鏡がとても良く似合っていた。見るからに優秀な生徒という感じの阿良川君がまた笑顔になる。
「真昼は中学からクラスの中心な子だったんだよね。いつも元気いっぱいで」
「そうだろうなぁ。今でもそんな感じだし」
元々私は人見知りはしなかったけど、相手もはじめての私に気兼ねなく話しかけてくれてなんだか良い気分だった。
「そうだ、二人とも放課後までいる?」
「あ?何かあんの?」
たぶん新條君は普通でもこの態度なんだろう。進学校の中でかなり浮いた存在なんじゃないかと私は思った。
「後夜祭が4時からあるんだよね。花火も上がるみたいだから一緒に見ようよ」
「へぇ、花火。ずいぶんとお金かけているんだねぇ。飛鳥の学園祭は」
阿良川君がすごく感心した顔をしている。
「結李もいいよね?」
「あ、うん」
学園祭だからって私は特に予定はないし、真昼の提案に頷いた。そういえばカイトの舞台は何時からなんだろう。
「じゃ、3時半ごろメールするな」
「おっけー」
そして私達は二人と別れてまた校内を見て周った。
「あいつら、すんごいいい奴らなんだよね」
「そんな感じだったねぇ」
私達はバスケ部のたこ焼き屋で1パック購入して、裏庭のベンチに座って一緒にたこ焼きを頬張っていた。出来立ては熱いけど美味しい。タコが入ってないたこ焼きもあったりなんかして、さすが学生が作ったたこ焼きなんて思ってみる。
「もし結李が気に入ったなら、どっちか紹介するよ?」
「え?」
私は予想以上に熱いたこ焼き、プラス真昼のいきなりの発言に思いっきりむせる。
「だって結李ってば、自分のこと恋愛音痴なんて言うんだもん。友達としてはどうにかしてあげないとと思ってね」
真昼の目がキラキラと輝いている。真昼は本当に恋愛話が好きなようだった。
「えー……でも……」
「でもじゃないじゃない。あいつらは頭もいいし、顔もそこそこいいし、いい物件だと思うんだよね」
「物件って、真昼」
確かにあの二人なら付き合えば他の人に自慢が出来そうな感じ。
「結李になら阿良川が似合いそうかな。さっき楽しそうに話していたしさ」
まあ、それは真昼の話をだけどね。
「ね?ね?どう?どう?」
でも私は自分が誰かを好きになるなんて考え付かなかった。こんな自分を誰かが好きになってくれることさえ考え付かなかったし。でも真昼が私の為にしてくれることはとても嬉しい。
「うーん、少し考えさせてもらってもいい?」
「もちろん。ゆっくり考えてみて。それか今度やる青南との合コンまで待つっていうのでもいいからね」
もう私も参加することになっているみたい。真昼おそるべし。
でも私は心の中で、誰かと付き合い、誰かを好きになる。そんな自分を作るのも悪くないかもしれないと少しずつ思っていた。それが真昼が作ったきっかけでも。
「あ、そろそろ体育館にいかないと」
真昼はチケットを取り出して腕時計を見ていた。
「カイトの舞台、そろそろ?」
「うんうん。あと15分だ」
「うわ、やばいじゃん」
そして私達は体育館に急いだ。
体育館に着いた私と真昼は、入り口付近の人の多さにまずはビックリする。はじめは入場する為に待っている人達かと思っていたら、それはチケットを手に入れることの出来なかった人達と知り私はとても驚いた。飛鳥学園の生徒だけでなく、他校の生徒もたくさんいる。
「はぐれたら最後よ」
「う、うん」
そんなことを言いながら私達は手を繋いで絶対にはぐれないようにした。
『海斗様のロミオ姿みたいよぉ』
『なんでもっと広い場所でやらないのよ』
『こうなれば海斗君の出待ちするしかないのかしら』
そんな声があちこちから聞こえてくる。私は何も苦労せずにこの中に入れることに少し申し訳なく思った。
「カイトってすごいんだねぇ」
体育館の入り口から必死に入って席についた私は、横で同じように疲れた顔をしている真昼に話しかける。
「でしょ?まあ、王子様みたいだからねぇ。滝沢君は」
たしかにカイトは普通の人とは違う。美しい顔立ちに優しい性格、頭も良ければ運動神経も良い。まさにカイトは完璧な人間だった。女の子なら誰でも彼に好意を持つに決まっている。そんな彼が人気が出るのは当たり前だった。
そして、体育館に大きなブザーの音が鳴り響く。それと同時にすべての窓のカーテンが自動で少しずつ閉まり始めた。
それが『ロミオとジュリエット』がはじまる合図だった。
<< 前へ
戻る
次へ >>