わたしの隣の魔法使い
第4章 ロミオとジュリエット
【その6】
学園祭が近づくにつれて、学校の中はだんだん慌しくなってきた。私のクラスは学園祭の準備はもう必要なかったけど、周りが騒がしくなるとこっちまでなんだか忙しい気分になる。
風邪を1日で治した私は、次の日から普通に学校に通うことが出来た。不思議なことに、病み上がりなのにいつもより気分が良かったのに私はとても驚いた。ママが買ってきてくれた栄養剤や薬が思った以上に効いたのかもしれない。
「なんだろ。隣のクラスが騒がしいよ」
帰る準備を終えて真昼を待っていた私は、隣のクラスから大きな声が聞こえてくるのに気がつく。たくさんの拍手なんかも聞こえてくるから何だかすごく気になった。
「行ってみよっか」
私は頷いて真昼と一緒に隣のクラスを見に行った。するとそこには私達と同じような野次馬がたくさん教室の前で固まっていた。
私と真昼はその野次馬の後ろから一体何があるのか背伸びをして教室の中を見る。野次馬は女子だけでなく男子もいた為なかなか奥が見えない。それでも私は一生懸命背伸びをしてみる。
「あ……」
人の頭と頭の間の隙間からやっとのことでこの騒ぎの原因が見えてくる。
「うわ、これはすごい」
隣の真昼もどうやら見えたみたいだった。すごく驚いた顔をしている。それは真昼だけではない、他の野次馬も私もみんな驚いた顔をする。
「芽衣……」
私達の目線の先にいたのは芽衣だった。その芽衣が綺麗な衣装を着て教室の中で何かをしている。きっとあれはジュリエットの衣装。
ジュリエットの衣装はお姫様のようにヒラヒラでキラキラなものではないけど、うすいピンクのすっきりとしたドレスがとても綺麗だった。飾りは一切ついていない。でもそれが芽衣の美しい顔を一層引き立てた。まるで天使のような彼女の姿に誰もが息を呑む。
「綺麗……」
私はついそんなことを声に出してしまう。彼女は本当に綺麗だった。あの高飛車で嫌味な芽衣はどこにもいない。今、私の目の前にいるのは紛れもなくジュリエットそのものだった。
芽衣の周りには他の出演者もいて、同じように舞台での衣装を着ている。衣装合わせなのだろうか、みんなそれぞれとても似合っていた。それでもやはり芽衣には敵わなかった。本当に絵本の中から飛び出してきたような芽衣。
「あら、結李じゃない」
私はかなり後ろにいた。ただの野次馬の一人だった。でもそんなたくさんの中で芽衣は私を見つけたらしい。沢山の人が一斉に私の方を向く。隣の真昼も私を見ていた。そして人ごみをかきわけ、芽衣がこちらに歩いてくる。周りからはヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
「どう?綺麗でしょ?演劇部の人が作ってくれたんだけど、予想以上に良くって喜んでいるの」
私はどう反応していいかわからなかった。今や私と芽衣はたくさんの人の注目の的。噂の美少女となんて並びたくないのに。絶対みんなの目に私は超地味な女子高生に見えているはず。
「良かったね。すごく綺麗だよ」
とりあえずそんなことしか言えなかった。学校では芽衣に声をかけられたことがないのに、なんでこんな時だけ声をかけてくるんだろう。
「でしょでしょ?海斗もさっき綺麗って言ってくれたんだよね」
やっぱり私はこの子とは一生仲良くなれない気がしてきた。前と同じくこれは明らかに敵意。私は面倒な事に巻き込まれたくないのに。それに敵意を向けられる意味がわからない。あなたはカイトの婚約者で、私はだたの邪魔者。
「良かったね」
さっきと同じ返答。
「結李も着てみる?きっと気に入るわよ」
また嫌味。私はため息をつく。
「いいよ。私はジュリエットじゃないし。それに私にはその衣装は似合わないわ」
その時の芽衣の勝ち誇った顔。私はすぐにでもこの場から立ち去りたかった。でも自分からそれをするのは負けた気がしてすることが出来なかった。私の目に涙がうっすらとたまる。
「あ、結李、今日駅前に一緒に行ってくれる約束だったよね。お店閉まっちゃうよ。いこいこ」
この辛い場から私を救ってくれたのは真昼だった。真昼は私の手を握る。
「じゃ滝沢さん、話の途中ごめんなさいね。結李もらっていきますー」
そして真昼が私の手をひっぱって人ごみの中から連れ出す。私はそれに無言でついていくしか出来なかった。その後に芽衣が私と真昼を睨んでいても、私達はそれに気づくことはなかった。
「なにあれ。なんて嫌なやつなの」
私と真昼は学校の近くの少し大きな公園に来ていた。公園といっても子供向けの遊具は少なく、たくさんの木々と野鳥が泳ぐ池が特徴の落ち着いた場所だった。マラソンをする人やデートをするカップルなどとすれ違う。
「なんかね、敵視されているんだよね」
私達は池の周りにあるベンチに座っていた。手には温かい肉まん。近くのコンビニで真昼が買ってきてくれた。肉まんの皮ってなんでこんなに美味しいんだろう。
「やっぱ滝沢君と仲がいいからとか?」
「うーん、たぶん」
たぶんじゃない。絶対。でも真昼には理由が言えないからとても辛い。私を助けてくれたのに。
「そっかー。しかし、あの二人は親戚同士なのになんであんなに嫌なこと言ってくるんだろうね」
それは芽衣がカイトの婚約者だから。
「あれかな、妹が兄の恋人に嫉妬するみたいなもんかな」
たしかにあれは嫉妬だと思うんだけど……。
「大丈夫?結李」
「うん、大丈夫。助けてくれてありがとうね、真昼」
私と真昼は同時に肉まんを頬張る。中華風のお肉の味が口の中に広がってとても美味しかった。
私は芽衣にきちんと言わなければならないのかもしれない。私はカイトに守られているけど、あなたの邪魔はしないって。でもあんなに直接に嫌味なことを言われて私は素直に芽衣に言えるかどうか少し心配だった。
でも芽衣はなんであそこまで私に意地悪をしてくるのだろう。ただカイトを好きというだけならわかるんだけど、彼女には婚約者というしっかりとした約束がある。それは何よりも強いはず。それなのに明らかにはじめから彼女は私に敵意を向けている。
「はぁ、なんか面倒なことに巻き込まれちゃったなぁ」
「ん?どうしたの?」
「ううん、なんでもないなんでもない」
しかし、芽衣は私を本当に憎んでいた。その理由は今の私には到底分かることではなかった。
<< 前へ
戻る
次へ >>