わたしの隣の魔法使い


第4章 ロミオとジュリエット
【その4】


 その夜、お風呂から上がった私は自分の部屋のベッドの上でシルフィがまた楽しそうに遊んでいるのに気がつく。シルフィは用がないと出てこない。だからシルフィが出てきている時は何かある時だった。それがたとえ彼女が遊んでいるとしても。
「どうしたの?カイトから連絡?」
 私は濡れた髪の毛をタオルで拭きつつ、ベッドに座る。その拍子にシルフィは宙を舞った。
「どけて どけて これどけて」
 シルフィは私の頭に乗っているタオルを引っ張る。でもシルフィの小さな力ではタオルさえ動かなくてその必死な姿がとても可愛かった。
「はいはい、これでいい?」
 まだ髪の毛は半乾きだったけど、頭のタオルを下に下ろす。そしてシルフィは私の頭の上にちょこんっと座った。
「ご主人様 ご主人様 連絡 連絡」
 上からそんな可愛い声が聞こえてくる。でも何でカイトの連絡を告げるのに頭の上に乗るのかがわからなかった。前みたいに普通に教えてくれるのでいいのに。
「で?カイトは何だって?」
「静かにして シルフィ 集中するの」
 何だかシルフィは少し怒っているみたいだった。意味がわからないけど私はシルフィが何か言うまで黙っていることにした。私の頭の上ではシルフィが何かを呟いている。その言葉は私には理解出来ない言葉だった。

 頭の上にはシルフィが乗っていて動くことは出来ない。お風呂に入った後で体はポカポカしている。私はだんだん眠くなってきた。これは何か本でも読まないとやっていられないかもしれない。私は手が届く所に本がないか探してみた。
『ユーリ?聞こえる?』
 それはいきなりわたしの頭の中に響いてきた。
「え?!」
 私はそのいきなりの出来事にびっくりして立ち上がった。頭の上のシルフィが落ちそうになる。
「あぶない あぶない ユーリ」
「え?え?カイト?カイトなの?」
 頭に響いたその声はカイトの声だった。何度も聞いているこの声を聞き間違えるわけがない。
『そうだよ。これもシルフィの魔法の一つなんだ』
 頭に声が響く。それはとても表現しにくいものだけど、本当に声が響いてくるのだ。耳から聞こえるというより声を感じるというか。音楽をヘッドフォンを使って聴いているみたいな感じだろうか。うーん、表現しずらい。
『ユーリも頭の中で考えてくれれば僕に声が届くよ』
 そんなことを言われてもどうやってやればいいかわからなかった。もしかして考えていることが全部向こうに聞こえてしまうということ?
『たぶん今、考えていることが僕に全部聞かれるのかとか考えているんじゃないかと思うけど、それはないから安心して。僕に伝えたいことだけを考えればそれが僕に届くよ』
「う……うん」
 そんな簡単に言われても私には一体どうやったらいいかわからなかった。でも普通に声を出していても聞こえるみたい。
『今日はそのまま声に出してもらってもいいかな。お家の人に聞かれないように気をつけてね』
「う、うん」
 そういえばそうだった。携帯も持っていない私が部屋の中で独り言を言っていては絶対に怪しまれる。私は出来るだけ小さな声を出すようにした。
「で、どうしたの?また妖精達が出てきたとか?」
『ううん。今日は大丈夫だよ。でも一応お姫様の安全確認をしようと思ってね』
「お姫様?!」
 お姫様というキーワードに私はつい大きな声を出してしまう。急いで口を手で押さえた。
『そんなに驚かなくてもいいじゃないか。実際、君は僕が守らなければいけない人には変わりないんだし』
 たしかにこれがメルヘンの世界だったら私はお姫様の立場なのかもしれない。でもいきなりそんなことを言われるとびっくりしてしまう。
「もー、いきなりだとびっくりするよぉ」
『あはは、ごめんごめん。で、今日は何もなかった?』
「うんうん。何事もなく一日終わったかな」
『それは良かった良かった。毎日は出来ないけど、たまにこうやって何もない日も確認しようと思ってね』
 カイトは優しい。それがこういう行動からすごくわかる。
「そっか、ありがとう。そうだ、カイトは今日の舞台の練習頑張った?」
 携帯を持っているといつもこんな楽しいのかななんて思ってみる。これなら私も携帯を持ちたいかも。真昼とも電話でお話してみたいし。でもこんな変わった会話の仕方も私にはとても新鮮でドキドキするものだった。カイトと頭の中が繋がっていると思うととても不思議。
『セリフはすぐに頭に入ったんだけど、演技となると難しいねー』
「うわ、もうセリフ全部頭に入ったの?たしか昨日決まったんじゃなかったっけ?」
『僕をなめてもらっちゃ困るなー。だてに魔法を全部覚えている頭じゃないよ』
 さすが学級委員長さんで魔法使いさん。やはりカイトはただものではない。
「私もチケットもらったから、当日は見に行くからね」
『え?ユーリ見に来るの?』
 カイトの焦った声が聞こえてきた。私はフフンっと鼻をならす。
「もちろん行くよー。カイトのロミオ姿じっくり見ちゃうんだから」
『えー、こなくていいよー』
 ちょっとすねた声のカイト。可愛くすねるカイトの姿が頭に浮かぶ。
 綺麗なカイトのロミオ。どんな衣装なのかわからないけど、きっと何でも似合っちゃうんだろうな、なんて思う。そして芽衣も。彼女のジュリエットは想像以上に可愛いんだと思う。二人が並んだ姿を私はきちんと見ることが出来るのかは少し心配だった。
「そうそう、駅前に美味しいアイスクリームショップがあるの教えてもらったんだよね。今度一緒に行こうよ」
『ほー、行くよ行くよ。しかしあの駅前はどんどん色々な店が出来てびっくりするよ。ユーリは今引っ越してきてラッキーだったかもしれないね』
「私もそれ思ったよー。駅前に行くたびにお店増えててびっくりするし」

 私とカイトのそんな話は続く。この連絡の本来の目的を終えても私達は話していた。

「何度も読んだけど、やっぱり呪文は覚えられないよー」
『もしかして、魔法出す練習とかもした?』
「当たり前じゃない。手を前に出して何度も唱えたよぉ」
 カイトに笑い声。私のすねる姿。それだけで楽しかった。カイトと話をするとなんでだか安心する。

『んじゃそろそろ寝ないとね。もう1時だ』
「うわ、もうこんな時間なんだ。ごめん、長く話しすぎたね」
 私は時計の針を見てビックリする。何時から話をしていたっけ。
『楽しかったからいいよ。じゃまた明日ね』
「うん。また学校で」
 繋がった頭の中での会話。これを終えてしまうのは少し寂しかった。もっとカイトとお話していたかった。
「ねえ、カイト、また連絡してくれる?」
『もちろん。君の安否確認は今の僕の最大の課題だからね』
 私と話をするのがたとえ義務でも私はカイトと繋がっているのは嬉しかった。
『じゃ』
「うん」
 そして今まで頭の中で響いていた声が聞こえなくなる。それと同時に頭に乗っていたシルフィも消えていった。

クシュン

 私は軽くくしゃみをする。すると体がゾクゾクっと寒くなってきた。
「あれ……風邪ひいたかな」
 濡れた髪の毛のまま長時間話をしていた私。そしてお風呂上り。風邪をひく条件は揃っていた。
「いけないけない。このまま寝ちゃおう」
 私は明日の準備は起きてからにしようとこのままベッドの中に潜り込んで眠ることにした。



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