わたしの隣の魔法使い


第4章 ロミオとジュリエット
【その2】


 教室の廊下側の窓の向こうにはカイトの『はとこ』の芽衣が立っていた。周りの人とは違う金髪の髪の毛が太陽の光でキラキラと光っている。なんて目立つ子なんだろう。その横にはカイトが立っていた。
「なによね、あの絵になる二人は。人間離れしすぎてるわ」
 真昼が言った様に、二人が並ぶとテレビの中の芸能人を見ているような感覚になる。なんて絵になる二人なんだろうか。私はあの二人の中に昨日いたんだ。そう考えるとすごく後悔をしてしまう。
「芽衣ってこの学校の生徒だったんだね」
 可愛い制服がさらに可愛く見える芽衣。カイトと楽しそうに話していた。また胸が痛む。
「うんうん。隣のクラスの子で『噂の美少女』ってみんな呼んでいるわ」
「なによ、その噂の美少女って」
 その変な呼び方に私は笑う。でも美少女という点は正解だと思った。あれは誰が見ても美少女。
「入学式で滝沢君と一緒に騒がれたんだよね、彼女。1年C組に超美少女がいるって。まあ、あれだけ可愛ければ騒がれるのもわかるけど」
「ふーん。だから『噂』なのね」
 そんな二人がロミオとジュリエットを演じる。それはすごいことなんだと思う。そりゃチケット取れなくなるか。
「滝沢家の血って一体どんだけ美形を作るんだろうねぇ。まったく羨ましいよ」
 真昼のそんな嘆きに私は笑った。でもたしかにすんごい羨ましい。神様はなんで平等に人間を作ってくれないんだか。

「ロミオやるんだってねー」
 数学の授業がはじまり、私の隣の席にはカイトが座っていた。私は小声でカイトに話をする。
「うお、もうユーリの耳にまで入っているんだ」
 カイトも小声で話を返してきた。
「うんうん。でも意外だったな、カイトって演劇やるんだね」
「やらないよ。今回は特別なんだ」
 数学の先生はそんなに厳しくなく、教室からは小声の会話が所々から聞こえてきている。本当はいけないことなんだけど、ついついやってしまうのが授業なのかもしれない。私も適当に先生の話を聞きながら、カイトに話しかけていた。
「特別?何かあったの?」
「……うーん、まあ、あったというかなんというか」
 カイトは少し困った顔をする。芽衣との間で何かあったんだろうか。
 私はそんな困った顔のカイトを見ながら、真昼が言っていたことを思い出していた。そういえば真昼は『この配役は昨日いきなり決まったんだって』って言っていた。昨日……って。
「もしかして……、昨日のあの妖精が襲ってきたのと関係ある?」
「……」
 カイトの顔を見てすぐにわかった。カイトがロミオをやるのは昨日のあの出来事と関係ある。そうだ、昨日は芽衣を怒らせて眠らせて……じゃあもしかしてカイトがロミオをやるのって。
「ユーリの思っている通りだよ。昨日のあれの責任はロミオで許すって言われてね。だから引き受けたんだ」
「そうだったんだ……」
 あ、これってまた私のせい、だよね。
「ごめん、また私のせいで」
「いやいや、ユーリは悪くないよ。それにこれ位のことで芽衣の機嫌が直るなら喜んでやるしね」
 カイトは優しい笑顔で笑っていた。やっぱり芽衣はカイトの婚約者なんだと私はその笑顔を見て思う。
「ユーリはちょっと自分のことを責めすぎかな。僕は君にそうやって苦しんでほしくないんだけど」
 私だって苦しみたくない。でも実際に私はカイトの生活を乱してしまっている。
「そこ、静かにしなさい」
 その時、先生が私達を見ていた。そしてたぶん怒っている。
「すみません」
 すぐにカイトがそう先生に謝る。すると先生は授業に戻っていった。私はカイトのほうに向けていた顔を黒板へと戻す。

 なんだかこんなのばかりだった。私は絶対にカイトにとって邪魔な存在。カイトを苦しめカイトを困らせる。それなのに自分では何も出来ない。せめて自分の身は自分で守れたらいいのに、それは出来ない。
 これからずっとこんな気持ちが続くかと思うととても辛かった。

「僕はこれから舞台の練習をしてくるね。1週間でどこまで出来るんだかだけど」
 放課後、帰り支度をしているとそうカイトが話しかけてきた。
「でも何かあったらすぐにかけつけるからね。ユーリもシルフィから僕を呼んで」
 カイトの手には台本らしきものが握られていた。所々に付箋がしてある。
「うん、わかった」
「じゃ、行ってくるね。また明日」
「また明日」
 教室から出て行くカイトを私は眺めていた。その綺麗な姿にため息が出る。
「結李、一緒に帰らない?」
 カイトを視線で見送っていると、鞄を持って帰る支度を終えた真昼が私の席の横に立っていた。
「うん、喜んで!」
 私の心はとても暗かったけど、このままではあまりに辛いので真昼に癒してもらおうと思った。もちろん原因なんかは一切話せないんだけど、それでも真昼と一緒にいると辛いことを忘れるくらい楽しくなる。
 そして私と真昼は学校を出るべく教室を出て行った。



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