わたしの隣の魔法使い
第4章 ロミオとジュリエット
【その1】
「飛鳥祭?」
今は昼休みの時間で、私は真昼と一緒に学食に来ていた。今日の昼食はカレー。学校のカレーって野菜が溶けていないサラサラな所が私はとても好きだった。それになんといっても安い。いくら親に昼食代を出してもらっているからって安いにことしたことはないと思う。
「うん。我が飛鳥学園の学園祭のことでね、来週の土曜日に開催されるんだよ」
「へぇ。学園祭かー」
そういえばもうそんな時期だった。中学でも似たようなイベントはあったけれど、高校ではさらに楽しくなると聞く。私は『学園祭』という響きに少しワクワクした。
「結李は学園祭のこと何も聞いてない?」
二人してカレーを少しずつ口に運ぶ。甘いカレーの味が口の中に広がって幸せな気分になった。その幸せを感じながら真昼と会話をする。
「うんうん。何も聞いてないよ。クラスで何かしたりするの?」
昨日の今日だけど、私は真昼とだいぶ仲良くなっていた。席が前と後ろというせいもあるけど、真昼と話をするのはとても楽しい。彼女はとても会話が上手くて、私の話題にもすごくのってくれるし、真昼も自分のことを色々教えてくれる。私は真昼と一緒にいるのがとても楽しかった。
「えっとね、うちのクラスは変な物の展示をやるんだよ」
「変な物の展示?なんじゃそりゃ」
真昼は口の横に少しだけカレーをつけながら笑う。
「あはは、意味わかんないよね。えっとね、うちのクラスは学園祭を楽しむべく、当日なにかやることを放棄したんだー。1年生はけっこうそういうクラス多いみたいでね」
なるほど、と私は納得する。たしかにはじめての学園祭、先輩がやるものを見たほうが勉強になるかもしれない。でもちょっとだけ寂しかった。私には来年もここにいる保障はないから。
「だから当日は一緒に色々回ろうよ。目玉のイベントのチケットも裏ルートで取ったしね」
「目玉イベント?」
二人のカレー皿は空になって、食器を返して私と真昼は学食を出た。同じように教室へ向かう学生達で渡り廊下は賑やかだった。昼食を食べると午後も頑張ろう!って気になる。
「演劇部の出し物がなかなか見ものっぽくてねー。倍率高かったけどコネを使ってチケット取っちゃった」
「コネ?」
真昼が勝ち誇った顔をしている。私はその顔がおかしくって大きな声で笑いそうな所を必死に止めた。
「私のお姉ちゃんが学園祭実行委員長をしているんだよね。だからそんな裏ルート」
こんな元気な真昼のお姉ちゃんだからきっと同じように元気いっぱいなんだろうなと私は想像する。それはそれで……ちょっと元気すぎるかも。
「真昼、この学校にお姉さんいるんだねー」
私は一人っ子だから、姉妹がいる真昼が羨ましい。
「うんうん。制服も可愛いし、お姉ちゃんの学校の評判もいいし、他の学校に行こうとは思わなかったかな」
「制服、可愛いよねー。私もそれで選んだんだけどね」
女の子は考えることがみんな一緒なのかもしれないななんて思ってみる。
「で、演劇部が何かすごい舞台でもやるの?」
わたしが首を傾げていると、真昼はブレザーのポケットから何かを取り出した。それは厚めのカラー紙で出来たチケットが2枚だった。そこには『ロミオとジュリエット』と書かれている。
「ロミジュリ?なんだ普通じゃない。これがなんで特別なの?」
私がそう言うと真昼はまた勝ち誇った顔をする。そしてチケットを私の目の前に持ってきた。
「ここをよく見て。ここよここ」
真昼は一生懸命チケットを指している。私は一体何があるんだとチケットをじっと見る。
「あ……」
真昼の指している部分を良く見て、やっと真昼が言いたいことが分かった。そこにはある人の名前が書いてある。
『ロミオ:滝沢海斗』
「学園一の美形の彼がロミオをやるっていうので、女子がすごい騒いでいるんだよー。彼、人気あるからね」
渡り廊下を歩き終わって校舎に入る。コンクリート造りの校舎だったけど、あちこちに小さなヒビが入っている。そのうち校舎も直すという話だから、何年か後には学校全体が綺麗になるのだろうか。
真昼は持っていた2枚のチケットを大事そうにまた制服のポケットに入れる。
「カイトって演劇部だったんだね。なんだか意外」
自分の教室に帰ってきた私達は自分の席に着く。次は確か数学の時間だったかな。私は机の中の数学の教科書を探す。
「ううん。滝沢君は演劇部じゃないよ。有志じゃなかったかな」
真昼も次の授業の準備をしていた。
カイトの知らない部分。それが私の心をチクリと刺した。まだ知り合って間もないから知らない所があって当たり前なのに私の胸は痛かった。思えば私はカイトの日常を全然知らない。魔法使いという秘密を知っているだけで他は何も知らなかった。
「それもこの配役は昨日いきなり決まったんだって。昨日の夜、お姉ちゃんがすごい騒いでいたんだよね」
「へぇ。カイトがロミオを演じるのってそんなにすごいことなんだね」
真昼が数学の準備をし終えて私の方に体を向ける。
「まあ、彼は他校にもファンがいるみたいだから、お客を呼ぶいいネタらしいんだって」
「あ、なるほど。それは学園祭実行委員長としては騒ぐかも」
真昼の話だけではまだピンっとこないけれど、カイトは相当モテる人というのが少しずつわかってきた。まだそういう現場をみたことないから完全にわかっていないけど。
「それでね、ジュリエット役がまたすごい人でねー」
「ロミオが美形ときたら、ジュリエットはすんごい可愛い子とか?」
カイトの相手。そんなに人気があるカイトだったら相手役も相当すごい人じゃないとダメなんじゃないかと思った。可愛くてお姫様みたいで。
あれ?私、そんな子知ってるかもしれない。
「そうそう。それも1年で主役取っちゃったすごい子なんだよね。まあ、見た目からして私達じゃ敵わない子だけど」
「ねぇ、それって……」
たぶん私の予想は当たっていると思う。カイトの相手が出来て可愛くて、それは……。
「あ、あの子あの子。ほら、結李、あの子だよ」
真昼が指差す先には、金色の輝く髪をなびかせた芽衣が立っていた。
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