わたしの隣の魔法使い
第3章 婚約者と黒き夢
【その6】
私はまた真っ暗な闇の中にいた。
「またこの夢……」
1度目は完全な闇の世界。2回目は薄暗い世界。3度目は真っ青な草原の世界。そして今回はまた真っ暗な世界。どれも違った場所のようだけど、私には何故かすべてが同じ世界に思えてしかたがなかった。それが何故なのかはわからない。でも私にはそう思えたのだった。だから私はもう焦ったり怖がったりしない。
「どこへ向かえばいいんだろう。ただ歩いていればいい?」
誰かにそう問いかけるように私は歩き始めた。
「あれ?誰かが走ってくる」
歩き出してどれくらいの時間がたっただろう。私は当てもなくただただ歩いていただけだけど、いつの間にか周りは真っ暗な闇から少し周りが見える薄暗い世界に変わっていた。周りには前と同じく白い道が続いている。そして少し向こうに明るい光が見えていた。
「またあそこまで言ったら朝になるってこと?この夢は私に何を伝えたいの」
そんなことを思っていた時、どこからか大きな足音が私の耳に聞こえてきた。それはとても早く走っていると思われる足音。
「あれは……」
少し距離はあったけれど、私の丁度横に誰かが走っているのが見えた。気がつかなかったけれど、向こうにも道が続いていた。そして世界は薄暗いのに何故だかそれが誰だか私にはわかってしまった。
「ロビン!」
そして私は大きく叫ぶ。何もない世界に私の声が響いた。
「結季!逃げろ!」
「え?!」
私の声に気づいたのか、ロビンが私の方に走ってくる。それは確かにロビンだったのだけれど、前と何かが違う。そしてロビンは私の手を取って走り出した。
「ちょ、ちょっと!ロビン!どうしたっていうの?!」
私もそれに合わせて走る。ロビンの足の速さに躓きそうになった。
「後ろの奴見えないのか?」
「え?」
私はロビンの言葉に走りながら後ろを振り返る。さっきまで何も見えなかったのに、後ろから何かがやってきているのが見えた。
「何、あれ……」
それは黒くて大きな『何か』。何なのかわからないけど、とてつもなく大きな何かがロビンを追いかけていた。今は私も追いかけられる形になっている。
「とにかくあそこまで走る。結季、転ぶなよ」
ロビンは前を指指す。そこにはただ薄暗い世界が続いていて他には何もなかった。
「あそこってどこ?!全部一緒に見えるわ」
「何でもいい。とにかく走れ!」
もうよくわからなかったけど、後ろから恐ろしいものが追いかけてくるという事実に私はとにかく走った。ロビンと手を離したらもう終わりだと私は強く手を握る。
気がつくと白い道は周りのどこにも見えていなかった。そこはただの薄暗い闇。地面はあったけれど、そこに草が生えているのか、ただの地面なのか、何もないツルツルの床なのかそれさえまったくわかなかった。そんな場所を私とロビンは走る。
「見えてきた!」
ロビンはそう叫び、私は必死に前を見る。そこには不思議な光景が広がっていた。
何もない薄暗い空間に大きな裂け目が浮かんでいる。まるで脱皮をする昆虫のように空間が少しはがされていた。普通ではありえないことだけど、本当に私の目にはそう見えていたのだ。
そして、その裂け目からは明るい光が洩れている。
「あの中に入るんだ!」
返事は出来なかったけれど、あそこに行けば助かると私はとにかく走った。こんなに走ったことはないというくらい足を動かす。
「飛び込め!」
そのロビンの大きな声と同時に私は裂け目の中に飛び込んだ。あまりに明るい光の中に飛び込んだ為、その後に後ろの大きな何かがどうなったのかは一切わからなった。
「結季、やっと見つけた」
助かった私は今、なんだかよくわからない状況になっていた。
真っ暗な空間でロビンと一緒に何者かにおいかけられて、裂け目に飛び込んだ。そしてそこはあの青空が広がる草原だったんだけど、私は今、後ろからロビンに抱きしめられる形で立っていた。これは一体どういうこと?
「ロ、ロビン?!」
私はよくわからなすぎてロビンから離れようと思ったけれど、ロビンの力が強すぎてそれが出来なかった。そしてそこで気がつく。私の知っているロビンはこんなに大きくないし、男の子か女の子かわからないくらいに可愛かった。これは本当にロビン?
「あなた本当にロビン?」
私より少し高い背。揃った前髪に背中に伸びた綺麗な黒い髪。幼さが残るけど通った高い鼻に大きな金色の瞳。ロビンに似ているようだけど、違うといったら違うかもしれない。でも暗闇で彼を見た時、私は何故かロビンだと思ったのだ。
「ずっと探していた。あの時いなくなってからずっと探していたんだ、結季」
これはただ夢。普通じゃないことも、世界がずっと続いていることも私もわかっていた。だったら夢の中でロビンが成長しているってことなのだろうか。もしそうならこれはたしかにロビンなのかもしれない。よくわからないけど、これは私の直感。
ジリリリ。
遠くからそんな音が聞こえてきた。聞きなれた大きな音。それが何なのか私はすぐに理解する。
「ロビン、また私行かなきゃいけないみたい」
今度は前のように突然いなくなるようなことはしない。だからきちんとロビンにそう言った。
ロビンが一体何者なのか、何故こんなに大きくなったのか、そしてあの闇の中の大きな何かが何なのか全然わからないけれど、私は起きなければならなかった。これを阻止することは出来ない。
「せっかく会えたのにまたいなくなってしまうのか」
「ごめん、ロビン」
抱きしめてくれているロビンの腕を私は抱きしめる。
「次はいつ会えるかわからないな」
「うん……」
次夢を見てまたこの夢だという保証はどこにもない。ロビンに会えるとは限らない。
「なら、結李にコレをやる」
「え……」
そこからだんだん意識が遠くなってきた。だからロビンが後ろから私の首筋にキスをしてくれたのも私は何も反応が出来なかった。でもそれはとても優しくて温かいキス。
私はロビンともう少し一緒にいたかった。そのキスにもきちんと反応したかった。でもそれは私には出来なかった。ロビン、あなたは一体誰なの?
そして私は現実世界へと戻っていった。
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