わたしの隣の魔法使い


第3章 婚約者と黒き夢
【その5】


 私はてっきりこの間学校へ来たような醜い妖精がくるものだと思っていた。私とカイトはあれを相手にするのだと。でも私達の前に現れたのは全然違った妖精だった。
「これって……ドラゴン?」
 私達の前に現れたのとても大きな細い怪物だった。その大きさと体の鱗にドラゴンかと思ったけれど、翼はなく、体がとても細い。それに体から粘々した液体が地面に流れ出していた。ドラゴンというより蛇と表現したほうが正しいかもしれない。それが飛んでくるわけでもなく、歩いてくるわけでもなく、カイトの家の庭に姿を表した。どうやってここまできたのだろう。
「ワームだね。ドラゴンと似てるけどちょっと違うかな」
 カイトがそう言って怪物に向けていた体を私の方に向ける。そして剣を握っていない手を前に出した。
『風の子よ その身を鎧とし 我等を守り給え』
 カイトの口から滑らかに呪文が流れ出す。すると私の体が一瞬光り、シルフィが姿を現した。
『仰せのままに』
 そしてシルフィはその小さな体を風に変え、私とカイトの体を風で包む。そしてそのまま消えていった。
「え?な、何?」
 私の体は風で包まれたけれど、特に変わった所は見られなかった。何をされたんだろう。
「ワームは息が猛毒だけど、これでしばらくは耐えれると思う。ユーリはここから動かないでね」
 私はよくわからなかったけど頷く。それにカイトの後ろ以外に私は行く所がない。何があってもここから動かないことを誓った。

「さて、今度はお前の相手だ」
 カイトは体を向き直し、ワームと向かい合わせになる。ワームはカイトを睨みつけながら大きく吼えた。蛇が吼えるなんてすごく不思議だったけれど、それはライオンの咆哮にも似ていた。
 私達の何倍もの大きさがあるワームと剣を持つカイト。その2つが並ぶとなんだかお伽の国のドラゴンと王子様を見ているようだった。そして私がドラゴンに捕まった姫?いやいや、こんな時に何を考えているんだか。
『燃え盛る紅き炎よ 我が刃に力を与えよ』
 カイトが再び違った呪文を唱える。するとカイトの前に真っ赤な炎の玉が現れた。
『仰せのままに』
 私はそう火の玉が答えるのを見て、これが火の玉ではなく真っ赤に燃えたトカゲの姿をしたものだと気がつく。私の考えが正しければ、それはきっと火の精霊サラマンダー。
 そしてカイトの持つ剣が炎に包まれた。
 カイトの剣は今は炎に包まれて真っ赤になっているけれど、黄金の柄に綺麗な宝石が埋め込まれ、銀色の刃には細かくてよくわからなかったけどたくさんの模様が彫り込まれていた。それがカイトの呪文と共に姿を現した時はとても驚いた。魔法は妖精のような生きたものを召喚するだけじゃなく、物を作り出すことが出来るのだろうか。

『魔法使イ 邪魔ダ』
 ワームの口から言葉が発せられる。それは人間の言葉ではなかったかもしれない。吼えた時のような声ではなく、頭に直接届くような不思議な音。
「邪魔と言われてもここをどくわけにはいかない」
 カイトは両手で剣を構える。炎に包まれた剣は激しく燃えていた。
『デハ オ前 死ネ』
 ワームは言葉を発したと同時にその大きな体を反らした。そして一気に体を前に倒す。それと同時に口から紫色の煙のようなものが吐き出された。もしかしたらこれがカイトの言っていた猛毒の息?
 しかしカイトはそれを剣と体ですべて受け止める。カイトの体の周りに球体の壁があるようだった。ワームの紫色の息は私まで届かない。
『ナニ!』
「それくらいで僕を倒すことは出来ない。そろそろ学習しろ」
 そして防御状態の剣をワームの方に向ける。カイトはそのまま前に突進していった。

「大丈夫?ユーリ」
 さっきまで大きなワームがいた庭は、何もなかったように静かだった。あんなに粘々した液体が流れていた地面にも何も残っていない。
「ワーム、どこへ行ってしまったの?」
 私はもしかしたら夢を見ていたのかと思った。でもカイトの手には炎が消えた綺麗な剣が握られている。
「ワームの存在をこの剣で消したんだ。どこへいったのかはわからない」
 カイトがワームに向かって走っていって、ワームの体を剣で貫いてからは一瞬だった。ワームの体は炎に包まれて、そして大きな叫びと共に体が消えていく。それはあまりにあっけなくて。
「そうなんだ……」
 人は死ぬと天国へ行くという。妖精は死ぬとどこへ行くんだろう。
「この剣は魔剣なんだ。妖精を殺すことが出来る刃を持っている」
 誰が見てもその剣を美しいと言うんじゃないかと思う。でもその美しい剣はあの大きな妖精の存在を一太刀で消してしまった。それはとても恐ろしい事。
「これはカイトが魔法で作り出している剣なの?」
「そうだね。でも正確にはこれも妖精王から貰ったものなんだよ。それを魔法によって召喚してる」
「そうなんだ」
 私はカイトの持っている剣を見る。刃の模様が淡く光っていた。
「こんなに美しいのになんだか怖いね……」
 カイトは私の言葉に優しく笑った。それにどんな意味があったのかは私にはわからなかった。

「芽衣は大丈夫?」
 私はカイトと一緒に門を出て家の前の道に立っていた。私はその手に重い紙袋を持っている。
「まだ玄関で寝ていると思うよ。大丈夫、きちんと説明はするから」
 あんな状態で眠らされ、きっと起きたらすんごい怒るんだと思う。私はそれを想像するだけで怖かった。
「じゃ、帰るね。カイトがとても強いっていうのが見れて、これから安心だよ」
「だから言っただろう?僕は強いって」
「あはは。そうだね」
 たしかにカイトはとても強かった。でも一瞬で妖精を殺してしまうのは私には恐ろしかった。でも私を彼らに奪われないようにしてくれているんだから、これには慣れないといけない。
「あ、ユーリ」
「ん?」
 カイトは帰る私を引き止める。
「いつからジハナムの妖精が出てくるのがわかるようになった?」
 そういえばそうだった。私は悪い妖精が出てきたのを感じることが出来たんだった。
「うーん、今回がはじめてだと思う」
「前、学校であいつらが来た時は感じなかったんだよね?」
 私は頷く。あの時は確かに感じなかった。
「そうか……たまたま感じなかったのかな。でもユーリがあれを感じられるようになったなら色々とやりやすい」
「そうだね。私も身構えることが出来そうだよ」
 まずはあの悪寒と戦わないといけないけど。
「引き止めてごめん。じゃ、また明日学校で」
「うん。また明日ね」

 そして私は家へと帰っていった。今日も色々あったけど、とりあえず夜はこの重い本たちを頑張って読もうと思う。そして少しでも頭の中に妖精や魔法の知識を入れたいと思っていた。




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