わたしの隣の魔法使い
第3章 婚約者と黒き夢
【その4】
「どこの誰だか知らないけど、海斗には私というフィアンセがいるんだから、勘違いしないでよ」
芽衣の可愛い顔が私に敵意を向けてくる。私はそれに迎え撃った方がいいのか、無視したほうがいいのか難しい所だった。って、私ってばさっき初めて会ったのに彼女を『芽衣』なんて呼び捨てにしているや。まあ、向こうも私のことを呼び捨てにしているし、いいっか。
「私が何の勘違いをするっていうの?」
私はカイトに渡された妖精の本を通されたリビングのソファーに座って読んでいた。なんでか芽衣は私の隣に座って私に喧嘩を売ってくる。嫌いなら近づかなければいいのに。
外見はとても日本っぽいカイトの家は、中に入るとフローリングの部屋もあったりして、和と洋が混ざった今時の家だった。もちろん、広い畳の部屋なんかもあるみたい。部屋数はわらないけど、とても広そうな家だった。こんな所にカイトはいつも一人で過ごしているのだろうか。
通されたリビングはフローリングの部屋で、アンティークなソファーは座り心地がよかった。そして至る所に高そうな陶器の人形が飾ってある。妖精の置物も多かった。
「もちろん海斗のことよ。彼に守られるからって、勘違いしないでほしいのよ」
私はため息をつく。なんだか面倒くさくなってきた。あんなに読みたかった本も頭に入らない。
「じゃあ芽衣が変わる?変わってもらえるなら喜んでこの力をあげるわ。魔法でもなんでも使ったらいい」
隣でグチグチ言う芽衣にもう大人な対応をするのが疲れて、私はそんな風に少し声を荒げて言う。でも言ったことは本当のことだった。この役を彼女に代わってもらえるなら喜んで渡す。
「何よ!私が何も力がないからってバカにしているの?!魔法が使えるのはどうせ海斗だけよ!」
「あーもう!やめろって。何でお前達が言い争っているんだよ」
私達がバトルをしていると、リビングにカイトが入ってきた。その手には何冊もの古い本を持っている。
「仕掛けたのはどうせ芽衣だろ?昨日電話で言っただろう。ユーリは何も悪くないって」
それを聞いて芽衣の頬が膨れる。可愛い仕草だけど私は彼女にいい印象を持っていない。
「でも、でも、でも……」
「でもじゃない」
さらに芽衣の頬が膨れる。もうすぐに破裂しそうだった。
「ごめんな、ユーリ」
カイトは私の前に本を置いて謝る。芽衣は膨れたままカイトにほっとかれている。
私はカイトに言い争っている姿を見られてしまってすごく恥ずかしかった。なんであんなに熱くなってしまったんだろう。
「本はこれくらいかな。どうする?持って帰る?」
「え?持ち出してもいいの?」
私は目の前にあるたくさんの本をカイトの家で見せてもらうのかと思っていた。だってどれも貴重そうな本ばかり。ページをめくると物語が始まりそうな感じの本だってある。この中に魔法の本もあるのだろうか。
「別にいいよ。普通に出版されているのだってあるしね。それに全部頭に入ってる」
「ええ?これ全部?」
積んである本の内容が全部頭に入っているらしいカイト。私は恐るべしと思った。でもそれだけの頭がないと、魔法なんか唱えてられないよね。
「じゃあお借りしようかな。ありがとう、カイト。私も頑張って覚えてみる」
私のそんなやる気にカイトは軽く笑った。
「む?何?なんで笑うの?」
「それ全部覚えたら僕はユーリを尊敬するよ」
「あー、酷い。もしかしてバカにしてるの?」
そんな二人の他愛のない話に、私の隣の芽衣はもちろん嫌な顔をしていた。
「じゃあそろそろ帰るね。私お邪魔みたいだし」
そう言って私はチラッと芽衣を見る。芽衣は嬉しそうに大きく首を縦に振っていた。
なんでこんな子に気を使わないといけないんだろうって思うけど、彼女がカイトの婚約者であることは確か。芽衣がどんなに嫌なことを言おうと、私は後からきた邪魔者にかわりはないんだ。
「家まで送る?」
玄関に向かう私とカイト。芽衣はついてこなかった。
「ううん、大丈夫。本、ありがとね、カイト」
紙袋を貰って本をすべてその中に入れた。少し重いけれど、これくらいなら家までは帰れる。
「ああ。がんばって覚えて」
私は笑顔で頷く。心の中では魔法の本を早く広げたくてしょうがなかった。
しかし、それは突然だった。
玄関で靴を履いて玄関の引き戸を開けようとしたその時、私の背中に急な悪寒が走る。それは風邪の時の悪寒にも似ているけど、すごく寒くてすごく怖くなる悪寒。私はそれが何なのかすぐにわかってしまった。
「カイト……」
「ユーリ、もしかして感じる?」
私は頷く。まだ悪寒は続いていた。
「妖精、ジハナムから出てきたの?」
「あぁ、そうみたいだ」
カイトの表情が一瞬で険しくなる。私ははじめて感じるこの寒さと恐怖に倒れそうになってしまった。
「ユーリ!」
私はカイトに支えられてやっと立っている状態だった。カイトの強い力で肩が少し痛くなる。私はいつのまに悪い妖精に反応するようになってしまったんだろう。
「な!何をやっているの!」
その時、私達の騒ぎを聞いてリビングから出てきた芽衣がすごい顔で走ってきた。もちろんそれは怒った顔。そして私とカイトの間に入ろうとしている。
「芽衣!今は黙っていろ!」
「は?!一体何なの?!私をバカにしているの?!」
そしてそれは一瞬の出来事だった。
『我が前に立ちしこの者を休息へと導け』
カイトは芽衣に向かってそう呪文を唱える。それは本当に一瞬で、カイトの髪の色や目の色なんかが変わったかはわからなかった。そして芽衣はゆっくりとその場に座り込んでそのまま横になった。
「え?え?芽衣、どうしたの?」
「眠りの魔法をかけたんだ。説明する暇がなかったからね」
まだカイトに支えられたままの私だったけれど、だんだんと悪寒は静まってきた。
「さて、じゃあ迎え撃とうか」
「え?」
カイトは私から手を離し、そのまま外へ出る。私も急いでその後から外に出て行った。
「ユーリはまだ僕があいつらと戦っているのは見たことなかったよね」
「う、うん」
魔法を使って敵と戦う。それはやっぱり映画とかで見るような感じなんだろうか。
「じゃあ、僕の活躍をしっかり見ていて」
そしてカイトは呪文を唱え始める。一瞬で髪と目の色が変わったと思ったら、彼の手には1本の剣が握られていた。
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