わたしの隣の魔法使い


第3章 婚約者と黒き夢
【その3】


 カイトの家に行く途中、私はさっき記憶した妖精の嫌いなものについて専門家に聞いてみた。もちろん私の隣を歩くカイトに。
「ユーリはちゃんと自分の身を守ろうとしているんだねぇ。すごいすごい」
 そう言ってカイトは私の頭をポンポンっと軽く叩く。私はそれが嬉しくて、照れた仕草をしてみせた。なんか……すごいいい感じだ。
 ……って、何が。
「特にナナカマドの実なんてすごい嫌いらしいよ。何かあったら有効かもしれないね」
「じゃあ、常に持っていたほうがいい?」
 そんなことを言っているけど、私はナナカマドというものがどんなものなのかわかっていない。聞いたことも見たこともない言葉だった。
「うーん、常に持つのはお勧めできないかな。持ってるとノクトも寄ってこなくなるし」
「あ、そうか。妖精って全部の妖精のことを指すんだよね……ダメじゃん」
 私は妖精のことを調べていて、ずっと悪い妖精のことばかり考えていた。ノクトだって女王様だってれっきとした妖精。『妖精の嫌いなもの』といったら、当然彼らもそれに含まれる。家に帰ったら鈴とか十字架とか探してみようと思っていたけど、それはやめることにした。
 じゃあどうやって自分の身を守ればいいんだろう。やっぱりカイトに頼るしかないんだろうか。でもそうと決め付ける前に私はカイトの家にあるという魔法使いが書いた妖精の本を読もうと思っていた。もしかしたら悪い妖精が嫌いなものが書かれているかもしれない。

「ねぇ、カイトの家にはどれくらいの妖精の本があるの?」
 カイトは私の問いに少し考えて答える。
「うーん、あれにこれに……たくさんあるかな。どれも古い本ばかりだけどね」
 古い洋館だったら古い本がたくさんある部屋を想像できるけど、あの日本風な豪邸に古い妖精の本がたくさんあるってなかなか想像出来ないなぁと私は思っていた。
「あとは魔法の本なんかもあるから見せてあげる。ユーリはそういうの好きでしょ?」
 魔法の本!私はそれを聞いて胸が高ぶった。そんなのどこの図書館も本屋にも置いてない。
「見たい見たい!好き好き!」
 私があまりに興奮するから、カイトが隣で笑っていた。でもこれが興奮しないでいられますかと。私はますますカイトの家に行くのが楽しみになっていた。

「あれ?誰かいる」
 カイトの家が見えてきて、立派な門がだんだんと私達の視界に入ってくる。相変わらずの大きな門にため息が出る。その門の前に誰かが立っているのを先に見つけたのは私だった。
「芽衣?」
 そのカイトの声に芽衣と呼ばれた女性はこちらを向く。目の覚めるような金髪が揺れた。
「海斗!やっと帰ってきた!」
 白いフリルがついた真っ黒いワンピースを着た芽衣が、カイトに向かって走ってくる。こういう格好をたしかゴシックロリータとか言うんじゃないかなっと私は思っていた。私には絶対着れない。絶対似合わないし。
「今日家に行くねって言ったじゃない。なんでいないのさー」
「あれ?そうだったっけ」
 大きくパッチリとした瞳に整った鼻、小さくてプックリとした唇。黒いリボンのついたツインテール。芽衣はフランス人形がそのまま動いているかと思わせる女性だった。そんな芽衣の薄茶色の瞳が私の方を見る。
「これ、もしかして結李?」
「え?」
 私は彼女の口から自分の名前が出てきたのにビックリしてしまった。もちろん初対面だし、カイトが私のことを他の人に言っているなんて想像もしていなかった。
「そうだよ。彼女がユーリ」
「ふーん」
 芽衣は私を下から上までジロジロと見る。
「たいしたことないじゃない」
 明らかに言葉に敵意がある感じがした。私はまだ彼女が何者かわからない。それなのにそんな敵意を向けられてどんな顔をしていいのかわからなかった。困った私はカイトのほうに目線を合わせる。
「ユーリ、彼女は……」
 カイトが私と目が合い何か言おうとした時、芽衣がその間に入ってきた。
「自己紹介くらい自分でするわ」
 芽衣の声はとても高く、顔と同じようにかわいい。まるで小鳥が歌っているようだったけれど、私に話しかけている声はやっぱり怒っている感じだった。
「私は滝沢芽衣よ」
「彼女は僕のはとこだ」
 カイトは芽衣の言葉に付け足すようにすぐにそう言った。
 『はとこ』それは親の親の兄弟の子供の子供……と、ずいぶん遠いなと私は頭の中で家系図を作ってみる。ということは、芽衣はカイトの親戚で魔法使いのことも当然知っているはず。それなら私のことを説明していてもおかしくないと思った。もしかして彼女にも魔法が使えるのだろうか。
「違うわ、海斗。私のこときちんと正確に説明してよ」
「……わかったよ」
 話の流れがわからなかった。彼女はカイトの親戚。それ以外に私に説明することはあるんだろうか。もしかしたら私がフェアリードロップの力を持ってしまったことに怒っているとか?それを言われると私は何も返すことが出来ないからすごく困る……。

 でも芽衣が私に言いたかったのはそう言うことじゃなかった。それは私がまったく想像していなかった事で、驚きを通り越した信じられない事実だった。

「ユーリ、彼女は僕の婚約者だ」



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