わたしの隣の魔法使い


第3章 婚約者と黒き夢
【その2】


 元々夢はたくさん見る方だったから、こんな変な夢を見ても気にしなかった。それに覚えているのは大抵起きてから1時間位。だから誰かに会うときまで覚えているということなくて、今回のこの夢も特に気にしなかった。それより自分が変な夢をたくさん見る方が少し気になっていた。なんて現実逃避をしている頭なんだろうと。変な夢見すぎですよ、私。

 今日は日曜日でカイトに呼ばれてもいないので、1日フリー。特に予定もなかったから、私は街の図書館に行くことにした。妖精のことも調べてみたかったし。
「この街、最近出来た大きな図書館があるみたいよ。駅の近くに背の高いビルがあったでしょ?」
 朝食を一緒に食べながらママとそんな会話をする。パパはまだ寝ているみたいだった。新しい職場に新しい土地への引越し。お疲れ様です、とパパに言いたい。
「あー、なんかのっぽなビルが立ってたね。あれが図書館?」
「あれの何階かが図書館みたいよ。暇なら行ってみれば?」
 本が好きな私はもちろん図書館も大好きだった。だからママはこういう情報を私に教えてくれる。私もビルの中の図書館なんてはじめてだったからとても興味があった。

 もう10月だというのに、日差しが少し強い。これが地球温暖化なんだろうかと私は着ていた上着を脱ぎながら駅前に歩いていった。私の家はマンションの10階にあり、駅前が少し遠いけどよく見える。だから図書館のビルも見えていたけど、歩くとそこそこ時間がかかった。今日はいい天気だったから気分良く駅前まで歩く。住宅街からだんだん繁華街に変わっていく街並み。歩く人もだんだん増えてきた。
 『守水駅』という文字が大きな1本道の向こうに見え始めてきた。もうここは駅前。色々なお店がこの道には並んでいる。私は胸を躍らせながら歩く。ウィンドウショッピングってなんでこんなに楽しいんだろう。何か買うわけじゃないのに。
 そしてそんな道の途中に、大きなビルが見えてきた。周りはそんなに高い建物はないので、本当にのっぽビル。40階とか50階とかあるんじゃないかと思わせた。私はそのビルに入る。
 ビルの案内板によると、1階から4階までがショッピングセンターで、地下がスーパーと飲食街。5階と6階が図書館ということだった。なんてでっかい図書館なんだろうと私は感動する。ショッピングセンターも行ってみたかったけど、とりあえず図書館に向かうことにした。入り口から入ってすぐ右側のエレベーターに乗り込む。まだ新しい建物なのか、人の数は本当にすごかった。

 図書館といったら古い建物に古い本棚が並ぶ場所だけだと思っていた。でも今私がいる図書館はなんとも近代的で、高い天井に大きな窓からは明るい光が入り、本を借りるカウンターはまるでどこかのオシャレなバーにいるような感じだった。私はそんな図書館をドキドキしながら歩く。どこにどんなジャンルの本がおいてあるのかが天井からぶら下がっている案内表示で良くわかった。なんだかどこかのお店に来ているようで。
 日曜日なのか、図書館もすごい人だった。私はそんな賑やかな図書館も悪くないなって思った。携帯の着信の音も聞こえる。今や図書館は静かにするところじゃないのかもしれない。

「えっと、民俗学でいいのかな……」
 前にどこかの図書館でたまたま民俗学というジャンルの前を通った時に妖精達の本が置いてあったのを私は覚えていた。たしかにあれは伝説とかだから民俗学なんだなぁなんて思っていた。それがこんな所で役にたつとは思わなかったけど、私は図書館に入ってまっすぐ民俗学の本がある場所に向かった。
「お、あるある」
 民俗学と書かれた棚にはいくつかの『妖精』というキーワードの本が置かれていた。私はとりあえずそういう名前のついた本を5冊ほど手に取る。太い本も何冊かあったからかなり重い。私は落とさないようにそれを運ぶ。

 大きな図書館には個室ではないけど、資料を読んだり何か書き物をするための個人スペースというのがあり、この新しい図書館にもそれは存在した。少し大きめな部屋にたくさんの椅子と机が並び、それが個々に仕切られている。私はその一つのスペースを借りた。
「まずはどこから調べたらいいのかな」
 私はそんなことを声に出さないように頭の中で話す。さすがにこのスペースはとても静かだった。ページをめくる音やペンで文字を書く音が聞こえる。私も机に本を置き椅子に座った。

 取り合えず私は本をペラペラとめくる。中には妖精に会う方法や妖精の国について、妖精の仲間などの説明が長い文章で書かれていた。私は自分が見てきた妖精達を思い出しながらその文章を読む。これが意外と当たっていてなんだか不思議だった。
 そんな妖精の本の中に「妖精の嫌いなもの」という項目があり、私はこれは使えそうだとそのページを開いた。妖精の嫌いなものを知るのは自衛の為になりそうだし、いざと言う時に使えそうだったから。その本の中にはこんなことが書いてあった。
『妖精の嫌いなもの。鉄、鈴、十字架、ナナカマドの実など』
 なんだか吸血鬼みたいだななんて思いながら私はそれを忘れないように頭に記憶する。メモ出来るものでも持ってくればよかったと私は後悔した。
「やっと見つけた。こんな所にいたんだ、ユーリ」
 妖精の知識を一生懸命覚えようとしている私の後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。私はそれが誰だかすぐにわかる。
「うわ、カイト」
 椅子に座ったまま後ろを振り向くと、そこにはカイトが立っていた。昨日の今日で私は色々と思い出してしまった。もちろん抱きしめられたことも。私の顔はもしかしたら赤くなっているかもしれない。
「どうしてここに?もしかして妖精出てきているの?」
 カイトは変わらぬ笑顔。昨日のあれは彼にはなんともないのかもしれない。ドキドキしているのはきっと私だけかも。
「いやいや、近くで用事があったんだけどここにユーリがいるような気がして探してみたんだ。ここで何をしているの?」
 今は見えていないけど私にはシルフィがついている。これって発信機のようなものなのかと私は思った。でもカイトにこうやって見つけられるのは嫌いじゃない。
「図書館にいるんだから、本を読んでいるに決まっているよ」
「そりゃそうか。ん?妖精の本?」
 その時、部屋のどこかでゴホンっと聞こえた。そうだった、ここは話し声が厳禁の場所だった。私は本を5冊持ち椅子から立ち上がった。そしてカイトの背中を押しつつ、部屋から出て行く。
「うん。少しでも知識を頭に入れようと思ってね」
「ユーリは勉強家だなぁ。どれどれ」
 そういってカイトは私から本を3冊ほど奪う。重そうな本だけ奪われて私の手の中は軽い本だけになった。もしかして持ってくれたの?
「ほー、色々良く書いてあるなぁ」
「でしょ?実際に見てきたのと同じようなことが書いてあるからびっくりしたよ」
「だねぇ。妖精は滅多に人間には顔を見せないんだけど、これはなかなかすごいな」
 そして私達は本を元の場所に戻し、カイトは興味深々で棚にあった他の妖精の本たちを一通り見ていた。
「どの本もすごいけど、うちにこれよりもっと詳しい本があるからユーリに貸すよ」
「もっと詳しい本?」
「うちの何代も前の魔法使いが書いた本なんだけどね。そういうのがこっそりと出版されていてびっくりするよ」
 本物の妖精魔法使いが書いた本!それは読んでみたいと私はカイトに是非貸してと頼んだ。
「じゃあ……、これから時間ある?うちに寄ってくれれば貸すよ」
「うん、是非是非。楽しみだなぁ」
 そして私とカイトは図書館を後にし、カイトの家へと向かっていった。


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