わたしの隣の魔法使い
第3章 婚約者と黒き夢
【その1】
私はまた夢を見ていた。
今度は前が見えない世界じゃなくて、広がる草原の夢。どこまで続く緑の世界は私をホッさせた。空には雲ひとつない青空が広がり、遥か向こうに川のようなものが見える。他には緑の地面しかなく、とりあえず私は川まで歩くことにした。草を踏むキュッキュという音は耳に心地よい。その場に寝転んでみたくもなるけれど、私は遠くの川を目指した。
どれくらい歩いただろう。徐々に川は近づいてきて、耳に流れの早い水の音が聞こえてくる。照りつける太陽と地面の温度とで私の喉は水分をとても欲していた。私は水を求め少し早足になる。
そんな時、どこからか小さな声が聞こえてきた。その声はとても小さく、川の流れに気をとられすぎていたらたぶん聞こえてこなかったかもしれない。でも私の耳にはその声が届いた。私は立ち止まり声のする方向を向いてみた。すると少し向こうにうずくまっている人影を見つけることが出来た。さっきはたしか誰もいなかったのに、今は黒い影が見えている。でも少し遠い。私はもうすぐそこの川とどちらを選ぶかすごく悩んだけれど、何かあってはいけないとまずは人がいる方に行くことにした。
川と平行に歩く私。だから川の音は相変わらずうるさい。でも人との距離はだんだん縮まっていった。
それが声ではなくて泣き声だってわかったのは、私がそのうずくまっている人にだいぶ近づいてからだった。今なら手が届きそうな場所まで来ている。そしてそこでその人が子供だということに気がついた。
「どうしたの?」
私はうずくまって泣いている子供の背中に手を当てた。太陽の熱で熱くなっている。
「何かあったの?」
私は座り込んで子供に問いかける。でも子供は泣くばかりだった。小さな声で、シクシクと。
「お母さんとお父さんとはぐれてしまったの?どこから来たの?」
私はそう子供に話しかける。でも子供は私に気がついていないかのようにただその場で泣いていた。私はどうしたらいいかわからなくて困ってしまった。でもこのままこの子をほっておくわけにはいかない。うずくまるその子を私はとりあえず立たせる事にした。
「私が一緒に探してあげる。だから立とう。ここはちょっと暑いわ」
そう言って私は子供の小さな両肩を持って立たせようとした。するとそこではじめてその子がこちらを向く。
「……君は誰?」
その子は眉毛の上で切り揃えられた前髪と、肩までの長さが綺麗に揃った黒い髪がとても可愛らしい少年だった。大きな瞳が金色なことに驚く。なんて綺麗な色なんだろう。
「私は結李よ。あなたは?」
「僕はロビン」
泣き顔が少しずつ可愛い笑顔に変わっていく。本当に可愛い子で私は少し抱きしめたくなった。
「何かあったの?こんな所で一人でいるなんて」
私はまた辺りを見回す。でもロビンのほかに人なんてどこにもいなかった。相変わらず太陽の光が暑い。背中から汗が流れるようだった。
「僕、探し物をしているんだ。どこかでそれを落としてしまって」
「落し物?何を落としたの?」
私がそう言うと、ロビンは首を傾げる。その仕草もまた可愛かった。
「うーん。それがね、なんか思い出せないんだ。思い出せなくてここまで来ちゃって、帰れなくなったんだ」
「そうなんだ……。それは困ったね」
私とロビンは手を繋いでその場から歩き出した。ロビンがあっちでもないこっちでもないとキョロキョロと周りを見ながら動く。私はそれに引っ張られる形でついていった。
「ねえ、ロビン。ちょっと川のほうに行ってもいい?私、喉が渇いちゃって」
「うん、いいよ。僕も喉カラカラだ」
そして二人は川のほうへと近づいていった。そして大きな川が見えてくる。川の音は激しかったけど、私達がいる方はそんなに流れが速くなく、水をすくえそうで私はホッとした。
川はとても透き通っていて太陽の光でキラキラ光っていた。川の底では魚がたくさん泳いでいる。私はこんな綺麗な川は見たことないと感動しつつ、水をすくう為に川の中に入っていった。川岸ならくるぶしくらいまでの水位なので危なくなさそう。
「あ、結李。僕、川には近づいちゃいけないって言われているんだった」
靴と靴下を脱いで水の冷たさを足で感じていると、後ろで待っているロビンはそんなことを言った。私はこんなに気持ちいいのに?というような顔をロビンの方に向ける。
その時だった。私の足を何かの強い力が掴む。
「え!?」
そこからは一瞬の出来事で私は何が起きたかわからなかった。気がついたら私は川の中に引きずり込まれていたのだ。遠くの方でロビンの声がする。
(な、なんなの!く……苦しい!)
でも身動きの取れない水の中では私はどうすることも出来なく、そのまま気を失ってしまった。
そしてこの夢は終わるを告げる。
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