わたしの隣の魔法使い
第2章 妖精界ティル・ナ・ノーグ
【その3】
「そうです。この人がフェアリードロップの力が注がれた人間です」
はじめに口を開いたのはカイトだった。5人の側近と呼ばれる人たちが低く唸る。それをノクトは嫌な顔で見ていた。
「その娘をこちらへ」
側近のうちの一人が私を手のひらで指す。カイトは私の背中を押した。そして耳元で囁く。
「大丈夫、何もされないよ。少し力を見るくらいだ」
私は怖かったけれどカイトを信じ、側近の一人の前まで歩いた。近づくとその人たちはカイトより背が高く、フードで隠れていた顔も少しずつ見えてきた。
私は思わずその顔に息を呑んでしまった。側近達はみな、この世の者とは思えないくらい美しい顔をしていて、まるでマネキンのように表情がない。その顔はみな似ていて、真っ白い顔に驚くほど長い鼻。そして澄んだ青い瞳。顔には幾つもの刺青のような模様が刻まれていた。
私を呼んだ側近が私の頭に手を当てる。私はそれに一瞬ビクっとする。
「確かに体の中にフェアリーの力が宿っているようだ。でも非常に弱い。この娘自ら術を生み出すことは出来ないだろう。だが……」
周りの側近達も私の周りに集まってきた。私は失神しそうな気分になっていた。
「あー、もういいじゃないかよ。力は見たんだろ」
私を囲う人たちを掻き分けたのはノクトだった。小さい体でも私の周りの輪を崩す。
「さ、カイトの横に戻りな、ユーリ」
「う、うん」
私はノクトに感謝の顔をして、もとの場所に戻っていた。心臓は大きく鼓動している。なんて魂を吸われそうな顔をしている人たちなんだろう。妖精はみんなノクトやシルフィのように陽気だとばかり思っていた。それがこんなに冷たい顔を持った人たちもいるなんて。
「あなた方の意見を求めたい。ユーリをこれからどうしたらいいか」
私が横に戻ってきたのを確認して、またカイトが口を開く。その答えはすぐには出なかった。少しの時間の間があく。
「ここにその娘を幽閉するのが一番良い方法だろう」
え?私は側近達のその答えがすぐには理解出来なかった。私を幽閉する?私、ここに閉じ込められるの?
「はぁ?何言ってんだ、お前達。そんなことはオレが許さない」
「だが、その娘をこのまま人間界において置くのはあまりにも我々にとってリスクが高い」
ノクトはイライラするようにその場をクルクル飛び始めた。私にもわかっている。私が闇の世界に連れ去れてしまったら、この美しい妖精界はどうなってしまうのか。だから私をここに閉じ込めてしまったほうが安全なんだろう。でもそれって私の人生はここで終わるってこと?
「娘の体の中の力でどこまで闇の国ジハナムに効果があるかわからない。だか我々は危険を冒すことを自らしようとは思わない」
強弱がない言葉達。それはとても冷たく悲しい。私は泣きたくなってきた。
「だからって、ユーリの生活を取り上げることはオレらには出来ないはずだ」
「そうとは限らない。その娘をここから出られなくすることくらい容易い事だ」
私は彼らが言っていることがだんだん理解出来なくなってきた。いや、理解は出来ているんだけど、理解したくなくなってきた。そんな時、私の冷たくなった手に何かが触れた。
「大丈夫だよ。僕がなんとかするから」
それはカイトの手だった。カイトの左手が私の右手を握る。それはとても温かく、私の冷たくなった心を少しずつ溶かしてくれるような感じだった。
「元々の責任は私にあるんです。ここは私に任せては頂けないでしょうか?」
私の手を握るカイトは言い争う側近達とノクトの話に入っていく。側近達はゆっくりとカイトの方を向いた。
「そうだ!責任はお前にあるんだ、カイト!お前がどうにかするのが一番いいに決まっている!」
私を触った冷酷な人とは違った側近がそう声を上げる。それは明らかに怒った声。
「でもフェアリードロップを持つ人間がいるだけで危ないのに、さらにこの荷物を守らせるというの」
また違った側近が声を出す。今度は声が高く、もしかしたら女性なのかもしれない。私を「荷物」を軽く言うことに少しショックを受ける。
「殺してしまえばいい。この世からいなくなればすべて解決する」
また違った側近が声を出す。今まで聞いた中で一番恐ろしい声。
「な!お前、自分が何を言っているのかわかっているのか?妖精が人間を殺すなんてありえない」
その答えにノクトが声を荒げる。私はもうすでに自分のことを言われているのかわからなくなってきていて、「殺す」という言葉に反応が出来なかった。
「ノクトのいう通りよ。フィフス。私達がそんなことを言ってはいけないわ」
その時、今までとはまったく違った美しい声がその場に聞こえてきた。側近達は一斉に跪く。私の隣で手を握ってくれているカイトも跪いた為、私もその場で腰を低くした。そしてそのまま下を向く。だから声の主がどんな姿なのかまだ私にはわかなかった。
「女王様、何もこんな所まで来られなくても」
側近の一人と思われる人物がそう美しい声の主に告げる。その後に綺麗な笑い声が聞こえてきた。
「そう思ったのだけれど、あなた達に任せるとこの子がどうにかなってしまう気がして。だからエアリエルにここまで飛ばしてもらったわ」
「しかし……」
「もうあなた達は下がっていいわ。あとは私が判断する」
「はっ」
その声と共にいくつかの違った風の音が聞こえてきた。話の流れからすると、側近達がこの場からいなくなったのかもしれない。
「あなたがノクトが言っていたユーリね。顔を上げなさい」
私はそういわれて少し戸惑ったけれど、カイトが隣で「顔を上げてごらん」と囁いたので、顔を上げることにした。
「え……」
私はその場に固まってしまった。なんかさっきから固まってばかりだけど、私の目の前にには何と比較していいかわからないくらいの美しい人が立っていた。
白い肌に白に近い金色の流れるような長い髪、作り物のような整った顔に、白い薄手の布のドレスに背中から生えている真っ白い蝶々の羽根。頭には花の冠をかぶっていた。そしてその人から微かに花のような甘い匂いが漂ってくる。私はその真っ白い人を見ているだけでいい気分になってきた。
「私は妖精界ティル・ナ・ノーグの女王のティターニアよ」
私の目の前にいたのはこの世界の女王様だった。
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