わたしの隣の魔法使い
第2章 妖精界ティル・ナ・ノーグ
【その2】
「じゃあ、魔法をかけるね。ユーリちゃんは目をつぶってたほうがいいかも」
カイトはシルフィの時のように私のおでこに手を当てる。
「魔法、見ない方がいい?」
私はあの瞬間移動の時のことを思い出していた。あの時もカイトは私に目をつぶるように言った。その時のように、あまり人間に魔法を見せるものじゃないとカイトは思っているのではないかと私は少し不安になった。
「いやいや、違うよ。目を開けたままだと気持ち悪くなるかもしれないと思ってね」
「気持ちが悪く?」
カイトは私のおでこに手を当てたまま頷く。
「うん。いきなり体が小さくなるのって、ジェットコースターが頂上まで着いて一気に下に落ちるような感じがするからね」
「ええ?」
その答えに安心しつつ、私はジェットコースターと聞いてすごく怖くなった。私は高所恐怖症で、高いところが何より怖い。でも体が小さくなるのがいまいちピンとこない私は、そのまま術にかかることにした。
「知らないよ?気持ち悪くなっても」
それでも私は目を開けて臨むことにした。何事も経験だと思ったし、きちんと魔法を見ていたかったから。そしてカイトが魔法を唱え始めると、その手が光り始めた。
『汝の体を流れる尊き魂よ しばしその力を抑え 我が意に従え』
そうカイトの口から呪文が流れだすと、心臓が大きく1回鼓動した。その鼓動があまりに大きかったので私は両手で左胸を押さえる。そして次の瞬間、今まで同じ高さの風景がすぐそこにあったのに、それが一瞬にして急降下する。それは本当に一瞬のことでジェットコースターというより……なんて説明したほうがいいんだろう。すんごいはやいフリーホールといったらいいのだろうか。とりあえずすごい体験だった。
「ユーリがこんな小さいなんて不思議だなぁ」
頭はクラクラするし、たしかに気持ちも悪い。一瞬にして今まで見えていた風景が変わるというのはこんなにも変な感じなんだとはじめて知った。当たり前なんだけど。カイトと瞬間移動したときも驚いたけど、小さくなって風景が変わるのはもっと驚く。しかしもっと驚いたのは、あんなに小さかったノクトが、今は私の倍くらいの大きさになっていること。私はこんなに小さくなってしまったの?
「さ、ノクトの背中に乗って、ユーリちゃん」
いつのまにかカイトも私と同じ大きさになっていた。もちろんノクトの半分くらいの大きさ。なんでこんなに小さくなる必要があるのかわからなかったけど、私はとりあえずノクトの背中に捕まった。
「でも、洋服まで一緒に小さくなるとは思わなかったなぁ。どうするんだろうとは思っていたけど」
「ん?洋服はそのままにしてほしかった?」
私はそれに思いっきり首を横に振った。
妖精は小さいものだと思っていた。だってノクトだって10センチほどしかないし、妖精の国に行くって事で体を小さくしてもらったし、私はてっきりこのサイズの人たちに会いに行くと私は勘違いしていた。
「着いたよ。二人ともここを通って」
どれくらい飛んでいただろう。私はノクトの背中に必死に掴まっていたことしか覚えていない。何度かその手を離しそうになってカイトに助けられた。カイトがいなかったら今頃きっと地面に叩きつけられて……ここから先は考えたくもない。
カイトの家からノクトの背中に掴まって飛び立ってからたぶん1時間くらい。私は高いところが怖くて目をずっとつぶっていたけど、けっこうな距離を飛んでいたと思う。今は、ここは日本なの?と思えるくらいの深い森の中に私達は立っていた。体が小さいから余計にそう思うのかもしれないけど、周りのどこを見ても木々におおわれていて、ひっそりと薄暗い。
「ここって、どこ?」
私はノクトが指す方向に目を向ける。しかしそこにはただの地面しかなかった。
「ここはここだよ。とりあえず通ってみればわかる」
後ろでカイトがニコニコしていたけど、私はノクトが言っていることの意味がわからなくて首を傾げる。本当にそこには地面と草と石ころしかなかった。でも私はとりあえず前に進んでみる。恐る恐るゆっくりと。そんな行動にみかねたノクトが私の背中を思いっきり押した。今ノクトは私の倍くらいの大きさがある。そんな大きな人が小さな私を押すとどうなるか……。
「うわぁ」
案の定、私は思いっきり前に飛ばされてしまった。そして転びそうな体を上手く止める。
「ちょっと、ノクト!なんてことしてくれた……」
私はノクトに怒る為に後ろを振り向いた。たしかにそこにはノクトはいたけど、それ以上に驚く景色が広がっていた。今まで深く暗い森の中にいたのに、ノクトとカイトの後ろには黄金に輝く草原が広がり、小川の心地よいせせらぎが聞こえてきていた。
「うわっ。ここはどこ?」
私は自分の後ろどころか、前も横もすべてが黄金に輝く草原の中に身を置いている事に驚く。こんな物語のような世界は人間の住む世界に存在しないと思うし、私は本当に妖精の国に来てしまったみたいだった。
「さ、驚くのはそこらへんにして、そろそろ体を戻そう」
「え?体を戻す?」
よく見ると、周りの風景があの深い森と一緒ですべて大きく見える。川の中の魚も私の何倍も大きい。妖精は小さな世界に住んでいるとばかり思っていたのに、どうやら何か違うようだ。
「もしかして、妖精ってノクトみたいにみんな小さいわけじゃないの?」
「そうだよ。オレらピクシーは小さいけど、人間のような大きさの妖精だってたくさんいる」
そうか、学校へ来た闇の世界の妖精達も私より遥かに大きかった。私はノクトだけ見て勝手に妖精の大きさを頭の中で作っていたみたい。
「この世界へ人間が入るには、体を小さくする必要があってね。だから小さくしたんだ」
「そうなんだ」
「妖精の結界は人間が通ることが出来なくて、結界と結界の間の小さな隙間を通り抜けることで中に入るんだよ」
そしてカイトは私の体を元の大きさに戻してくれた。今度は透明の高速エレベーターに乗った感じ。あぁ、もう意味がわからない表現だけど。そしてカイト自身も元の大きさに戻る。周りの風景は今の大きさならしっくりくるので、妖精も人間と同じようなサイズということに納得する。それでも黄金の草原やキラキラと輝く小川はとても綺麗で息を呑むようだった。
「側近の奴らがお出ましだよ。ユーリ」
小川に心を奪われていた私は、周りにカイトとノクト以外の人達がいることに気がついていなかった。ノクトの声でそれに気がつく。
そこには黒いローブを着た6人の人物が私達の周りに立っていた。ローブは金の刺繍が綺麗だったけど、フードで顔が隠れていた為なんだかとても怖かった。
「これがその娘か」
その声は耳に響くとても低い声だった。
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