わたしの隣の魔法使い


第1章 わたしとあなたの出会い
【その11】


 1日の疲れを取るために私はまた桃の香りの入浴剤を入れたお湯の中に体を埋めていた。いい匂いが浴室いっぱいになる。
「しかし、今日はほんと色々なことがあったなぁ」
 私は朝からのことを思い返していた。昨日突然の出会いをしたカイトと同じクラスになって、その後にトロールとゴブリンに追跡されて、私は世界の本当の姿を知った。今までは見えてないだけで、世界はなんて不思議なことに満ち溢れているのだろう。
「私の体にあの石の力が入っているのか。私も魔法使えないかな……」
 そう思って私は両手を前に出してみる。呪文もわからないけど、何か光線でも出ないものかと唸ってみた。
「ダメか……」
 私の両手は願いも空しくうんともすんとも反応しなかった。やっぱり魔法を唱えるにはあの呪文とか魔方陣とかがいるのかもしれない。今度カイトに教えてもらうことにしよう。
 そんなことを思いながら、私はカイトのことを思い出していた。

 カイトは生まれた時から妖精の加護を受けた魔法使いとして生きているんだと思う。それがどんなに責任があることなのか今の私にはわからない。もちろん魔法が使えるというのは羨ましいことだけど、私というお荷物が増えたことで彼の苦労がどこまで増えるのかが少し心配だった。でもそれを直接聞けるほど、今の私には滝沢海斗という人物が一体どういう人物かわからなかった。もっと彼のことが知りたい。私はそう思っていた。

 1時間の長風呂の後、私はママに出された牛乳を一気飲みして部屋に戻った。お風呂でリラックスしたけれど、体はかなり疲れていた。このままベッドに倒れこめばきっと朝まで超特急なことだろう。
「ユーリユーリ 伝言伝言」
 部屋に戻ると、ベッドの上で何かがゴロゴロ転がっていた。それが私に向けて伝言という。
 部屋に妖精がいるってなんだか不思議な光景だったけど、私はだんだん目が慣れてきたのかもしれない。シルフィの姿に少しも驚かなかった。
「あら、シルフィ。まだ私についていたの?」
「ご主人様 命令 絶対」
 そんなことを言いながら楽しそうにベッドでフカフカするシルフィはとても可愛かった。体の周りの風のベールが色々な形に変形している。
「で、カイトはどんな伝言を?」
「明日 ご主人様の家 向かって欲しい それだけ」
 ふむ。明日は土曜日だし、本当はゆっくり寝ていたかったけど、今の私の立場を考えるとそうもいかないことは分かっている。でも私、カイトの家知らないよ?
「シルフィ わかる 着いてきて着いてきて」
 なるほど。この子は携帯電話にもなるし、ナビにもなるってことね。しかし……こんな風に妖精を使っていいものなのかしら。
「わかった。じゃあ私はもう限界だから寝るよ。カイトにもそう伝えておいて」
「うん 了解 うん 了解」
 そして私はベッドに潜り込んだ。シルフィがその拍子にフワッと宙を舞う。布団の中に入ると長いお風呂のおかげで体がポカポカして気持ちが良かった。
「じゃあお休み、シルフィ」
「おやすみ ユーリ」
 いつも布団の中に入って意識が遠くなるまでに時間があったけれど、今日は数分もしないうちに私は眠ってしまっていた。

 こうして私の長い一日が終わった。まるで何ヶ月もの長い時間の中にいるような気がするけど、これがたった一日で起こったことだった。でもこれが始まりの一日だってことは私にも分かっている。私は自分では望んではないけど、すごい世界に足を踏み入れてしまったんだ。
 知らない世界に飛び込むのはとても怖いけど、私は自分の運命をしっかりと受け入れて、これから何が起こるかこの目に焼き付けようと思う。そして少しでもカイトの役に立てるようになりたいと思う。

 たとえ、この先に何が待っていようとも……。


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