わたしの隣の魔法使い


第1章 わたしとあなたの出会い
【その10】


 私が住むマンションから学校までは普通に歩いて20分。カイトの家もうちのマンションからそんなに離れていない所にあるらしく、帰り道は一緒だった。二人はこれから色々と話す為、ゆっくり歩く。途中でファーストフードにでも入ろうかと提案されたけど、私は歩きながら話すことを希望した。今はじっと座って話を聞くより、外の風に当たりながら聞きたかったから。
「じゃあ何から聞きたい?ユーリちゃんが聞きたいことから答えるよ」
 私はうーんと考えた。まず私が聞きたいこと。それは何だろう。あまりに聞かなきゃいけないことが沢山ありすぎてどこから聞いていいのかわからずにいた。それでもやっぱりまず初めに聞かなきゃいけないことがある。
「あなたは一体何者なの?」
 私はあの日、カイトとぶつかって生活が変わってしまった。だからやっぱりまずはカイトの正体を聞かなければいけない。
「そうだね。やっぱりそこから答えるのがいいよね」
 カイトの綺麗な顔がいつもより真面目な顔になる。
「僕はこの世界でたった一人の妖精の加護を受けた魔法使いだよ」
「魔法使い?」
 その言葉は聞きなれていた。お話の中やゲームの世界の中で普通に使われている言葉だし、どんなことをする人なのかもわかる。でもそれが実際に存在するのはやはり少し驚く。でもカイトが今までしたことを考えると、驚いてもしょうがないか。
 でも妖精の加護ってどういうことなんだろう。
「普通、魔法使いは自分が魔力を持っていて魔法を使うと思うんだけど、僕の場合はちょっと違うんだ」
 そんな不思議なことを普通に話すカイト。私はそれに口を挟まず、聞くことにした。そしてそれを信じることにした。そしてカイトは制服の下から首からかけたネックレスを取り出す。それには綺麗な青緑の透明な石が付いていた。
「これはフェアリードロップ。僕はこの石を持つことによって魔法を使うことが出来るんだ」
「うわ、綺麗ね」
 私はその石を指で軽く触る。カイトはそれを止めなかった為、私が触っても問題ないようだった。石はひんやりと冷たい。
「これはこの世の中にたった一つだけ存在する妖精王の涙とされている。これを僕の何代も前の当主が妖精から譲り受けたらしい。それが僕にまわってきた」
 そしてまたその石を制服の下に戻す。
「これ、私が持っても魔法を使えるの?」
 カイトは首を横に振る。
「普通の人間がこの石を持っても何も起こらない。どうやら僕の家系が魔力を使うことが出来るらしいんだ」
「へぇ……」
 私はそんなカイトを少し羨ましい目で見た。魔法を使えるなんて、なんてすばらしいんだろう。私も使えるものなら使ってみたい。きっとそれは誰もが夢見ることに違いない。
「でも、何のためにそのフェアリードロップをもらったの?それってあの大きな怪物とかに関係あったりする?第一、あいつらは一体何者?」
 これは二つ目の質問になるかもしれない。あの大きな怪物。それの正体もきっちり聞かないといけない。
「あれは妖精だよ」
「妖精?じゃあノクトとかと同じ仲間ってこと?」
 カイトは軽く頷く。
「そうだね、大きく言ってみちゃえば仲間かもしれない。でも同じ所に住んでいるわけじゃないんだ」
「え?どういうこと?」
 それからカイトは妖精達の世界のことについて詳しく教えてくれた。それは私が想像していなかった世界だった。

 カイトが言うには、世界はいくつかに分かれているという。その中でカイトが実際に干渉しているのが、私達が暮らす人間界と妖精達が暮らす妖精界。そして妖精界に住まうことが出来ない妖精達がいる闇の世界だという。その闇の世界の住人が、あの怪物たちだということだった。
 昔は人間も妖精達も仲良く一緒の世界に暮らしていたという。しかし、時を経て人間を傷つけようとする妖精が出てきたり、妖精を嫌う人間が出てきたり、世界は混乱しはじめた。その時に妖精王はもうこれ以上同じ所には住んではいけないと、光の世界に妖精の国を作ってそこに妖精達を避難させた。その時に妖精や人間に危害を加えていた凶暴な妖精達が闇の世界に幽閉されたという。
「幽閉されたのに、なんで人間の世界に出てきているの?」
 今日たしかに私はこの目で見た。凶暴そうな妖精達が人間界に出てきている所を。
「妖精王の結界の力が少しずつだけど弱まってきているんだ。だからああいう弱い妖精が外に出てきてしまう。力の強い妖精達は出てこれないけどね」
 そうなんだと私は頷いた。じゃあカイトは何のために魔力を持っているの?
「僕は出てきた闇の住人達が人間界で悪さをするのを止める役目を担っているんだ。その為に妖精王は魔力を分けてくださった」
 カイトが魔法を使うことが出来る訳。それがやっとわかった。
「ああいう弱い奴らでも、何をしでかすかわからないからね」
 カイトが魔法を使っている時。それは悪い妖精がこちらに出てきている時。私はふとカイトにはじめて会った時のことを思い出していた。
「じゃあもしかして、私にぶつかった時も何かの相手をしていたの?」
「あぁ、そうだね。あの時も奴らと相手をしていたよ」
「そうなんだ……。私は大変な所にカイトとぶつかっちゃったんだね」
 カイトは私が少し弱気な声を出したので笑った。
「まー、大変な所だったのは確かだけど、きっとユーリちゃんの方が大変なことになっているんだよ?それはわかってる?」
「え?な、なんで?」
 カイトが信じられない事を次々に言うからすっかり忘れていたことがある。そういえばあの時の怪物たちはたしか私を捕まえにきていた。それがなんでなのか、私にはわからなかったんだった。
「フェアリードロップには闇の世界に出口を作れるほどの大きな力が籠められていて、闇の住人が喉から手が出るほどに欲しがっている物なんだ」
 私はそれを聞いて嫌な予感がした。
「あいつらの力では僕からこれを奪うことが出来ない。でも、その力の一部がユーリちゃんの体の中に流れ込んでしまったらしいんだ」
 私はその場で固まった。もう目の前に自分の家が見えているのも忘れるくらい。
「だからこれからあいつらは、ユーリちゃんを手に入れようと必死になって来ると思うよ」
 そんな怖いことを笑顔でさらっというカイトを、私は首を絞めたくなる衝動を抑えるのに必死だった。


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