わたしの隣の魔法使い


第1章 わたしとあなたの出会い
【その9】


 生徒がみんな出て行って一人になった教室はとても静かだった。時折他のクラスから声が聞こえてくるものの、私が今いるクラスは静かでひっそりとしている。人が帰ってしまった後の学校ってなんて寂しいんだろう。私はカイトを待つ1時間ほどの時間をどう使おうか悩んでいた。どこかに冒険に出てもいいかなっと考えたけれど、まだ今朝のことやカイトのことなど何も説明を受けないままでどこかへフラフラ行ってしまうのはあまりに危ない。だから私は教室から動かないことにした。
 窓の外の校庭から部活をする人たちの声が聞こえる。私はそれを何も考えずにボーっと見ていた。野球部にサッカー部。あれは陸上部かな?そんな風に外で忙しく動く人たちを見ていた。
 私の体は疲れがピークだったみたいで、そんな風に静かな教室で興味もない外をボーっと眺めていて、いつの間にか眠ってしまっていた。授業中も何度も夢の世界に行きかけていたのに、今この状況で眠くならないわけがなかったかもしれない。私は気がつくと夢の中に入ってしまっていた。

 そこはとても暗く、そしてとても寒いところだった。
「私、ここを知ってる……」
 私は暗い世界の中で記憶を辿っていた。それはあまり古くない記憶の中にあり、色々なことがあって忘れていた記憶だった。
「そうだ、今朝見た夢だ……」
 真っ暗な中でどこへ行っても出口が見つからない夢。そして聞こえてきた知らない声。またここへ来てしまった。寒くて寂しい。私は怖くなってまた走り出した。前がどこかわからないけど、とにかく前へ前へ走った。
「なんでまたここに戻ってくるの?あれは夢じゃなかったの?」
 私はあの声に問いかけるように走りながら声を出した。しかし、あの声は私の耳に聞こえてくることはない。
 どれくらい走っただろう。長い長い距離を走って体はすっかり動かなくなっていた。私はその場に座り込む。しかし私はここであることに気がついた。今まで真っ暗で何も見えない世界を走っていたかと思っていたら、周りの世界が真っ暗ではあるけれど、なんとなく何があるか見えていることに。そこはどこまでも続く闇夜の草原で、1本の道が通っている。私はどうやらその道をずっと走ってきたみたいだった。
「なんて寂しいところなんだろう」
 私は立ち上がって周りを見ながら前に進みだした。真っ暗な世界を歩くのは何があるかわからず怖かったけれど、どこにいるかわかった後もとても怖かった。ほんとうに草原と道しかない。明かりはなく、ただただ道が続いているだけだった。
「ねえ、あなたはどこにいるの?この世界のどこかにいるんでしょう?」
 声の主に私は問いかけた。この夢が前の夢と繋がっていることは私にもわかっていた。だから私はゆっくりと歩きながら声の主を探した。
 また長い時間歩いた。するとまた前と同じように前に明るい光が見えてきた。
「そう、もう起きろってことね」
 私は何度か辺りを見回し、耳を澄ましてみたけれど、あの声はどこにも存在していないようにひっそりとしていて、諦めて私は光の中に飛び込むことにした。

「ユーリユーリ、起きて起きて」
 声が聞こえる。また知らない高い声。
「ユーリユーリ。起きてくれないとシルフィ怒られちゃう」
 シルフィ……それは誰?そんな人私は知らない。
 そんな寝言のようなことをブツブツ言っていると、いきなり私の顔に思いっきり強い風が吹き付けてきた。あまりの風の強さと痛さに私はガバっと起きる。そこは元いた教室だった。
「な!なに?!え?」
 私はまだヒリヒリする顔を両手でこする。乙女の顔になんてことしてくれるの。
「起きたユーリ。おはようおはよう。ご主人様帰ってくるよ帰ってくるよ」
 私の机の上に小さな何かがヒラヒラと漂っていた。
「え?え?」
 それはノクトのように小さかったけれど、何かがノクトとは違っていた。体全身が薄い緑色の女性の体をしていて、体の周りを風のような布のような物がクルクルと回っている。軽く触れてみたら、それは指を通したので、本当に風なのかもしれない。それが私の前で嬉しそうに漂っている。
「あなたもしかしてシルフィード?」
 私はカイトが会議室に行く前に私にしたことを思い出していた。そういえばシルフィードがなんとかっていう呪文唱えていたっけ。これがカイトの言っていた連絡方法みたい。なんて非現実的な連絡方法なんだって私は心の中で笑った。
 風を体にまとうシルフィード。私はあることを思い出していた。そういえば前に読んだファンタジー小説にそんなような名前が出てきていた。
「ねぇ、もしかしてあなたって四大精霊だったりする?」
 四大精霊。それは本で読んだだけだったけれど、その一人にたしかシルフっていう風の精霊がいたはず。私はテンションが上がった。
「なーにそれ?わたしわからない」
 可愛く首を傾げるシルフィ。そうか、四大精霊って名前は人間が考えたことかもしれない。
「うーん、じゃあ、火の精霊とか水の精霊とかもいたりする?」
「いるよ。それらは僕の守護だからね」
 シルフィに聞いている途中に違った声が教室に入ってきた。私はその声の方を向く。そこにはカイトが立っていた。
「火の子サラマンダー、水の子ウンディーネ、土の子ノーム、そしてそこにいるのが風の子シルフィードだ。それら四精霊は僕を守ってくれている」
 やっぱり。私は自分の知識が間違っていないことに嬉しく思った。
「ユーリちゃん、よく知っているね。もしかして詳しかったりする?」
 カイトは会議で使ったと思われるファイルを自分の机の中に片付けている。
「ううん。本で読んだくらいの知識かな。でも本当にこうやって会えるのは嬉しいかも」
 私は両手で水をすくうようにシルフィを持ち上げる。風のように重さは感じない。シルフィもなんだか嬉しそうだった。
「そうか、そう言ってもらえるのは嬉しいな。よし、準備出来た、帰りながら色々話しようか」
 私は頷いて鞄を持って席を立った。気がつくとシルフィードは私の前から姿を消していた。
 そして私とカイトは校門へ向けて歩き出した。カイトには聞きたいことがたくさんある。まずは何から聞こうと考えながら私は歩いた。


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