わたしの隣の魔法使い


第1章 わたしとあなたの出会い
【その8】


「河原さんがどうしても第2グランドを見たいと言ったので、時間が少ししかなかったのですが、行ってきました」
 それがカイトが先生に言った嘘。カイトが学級委員だからなのか、先生が厳しくないのかはわからなかったけれど、その嘘は先生に認められ私たちは普通に授業に入ることが出来た。15分も授業を遅れてきたのに咎められないのはなんだかとっても不思議。あとは戻る途中、ずっと不安だった大きな怪物が起こした揺れと異臭。それの為にクラスが騒ぎになっていたらどうしようとずっと思っていたけれど、それを感じた人はクラスの誰一人として存在しなかった。そのことを聞くたび私を不思議な顔で見てくるので、これ以上聞くと変な人に思われるかも知れないと、私は聞くのをやめた。
  今日の授業はしっかり6時間目まであって、私は引越しの疲れと今日の朝の出来事のことで少し体がだるかった。途中で帰りたいとも思ったけれど、まだカイトに何も聞いていないのにこのまま帰っても家で悶々とするだけだと、私は6時間目まで頑張ることにした。
 途中の昼休みは、クラスの女子が何名かで私を学食に誘ってくれた。私は喜んでその誘いに乗る事にした。ここはそんなに新しい学校ではなかったけれど、学食はつい最近立て直しが終わってとっても美味しいということで、一番のオススメのミートスパゲッティをみんなで注文をした。評判通りそれはとても美味しく、転校1日目の昼休みは楽しく過ごすことが出来たことが嬉しかった。
 朝の出来事を除けば、とても楽しい1日が過ごせたと思う。まだ顔と名前が微妙に一致しないけど、何人か友達になれそうな人とも話すことが出来たし。これが出来ないと明日から学校に通うのが少し憂鬱になるんだけど、その心配はなさそうで私はホッとしていた。
 そして6時間目が終わり、下校の時間がやってきた。これから部活に行く準備をする人たちや帰る準備をする人たちでクラスは賑やかだった。私も帰る準備をする。隣のカイトも帰る準備をしていた。
「滝沢君」
 そんなカイトの席に一人の女子生徒がやってきた。私はその人を見てびっくりしてしまった。何故なら彼女は日本人形がガラスケースからそのまま飛び出してきたような容姿をしていたから。怖いくらいに美しいとはこのことをいうのだろうか。
「大野さん?どうしたの?」
 カイトは彼女をみて不思議そうな顔をしていた。大野さんと呼ばれる彼女はため息をついた。
「今日は学級委員会があるの覚えている?」
「あ……」
 大野さんの言葉にカイトの手が止まる。
「そうだった……。今日だったっけ」
「やっぱり忘れていた。良かった。迎えにきて」
 そんなやり取りを私はみとれるように見ていた。カイトと大野さんが並ぶとテレビを見ているように華やかで……。
「彼女は隣のクラスの学級委員長の大野雪」
 そう私に耳打ちしてきたのは、私の前の席の小宮山さんだった。学食に誘ってくれたのも彼女で、すごく明るくて楽しそうな人で、私は彼女と友達になれるといいなーっと思っていた。
「美人でしょー。でもなんか冷たそうで私は苦手なんだよね」
「そう……なんだ」
 たしかに大野さんはとてもお高そうに見える。絶対に私なんかと友達にはなってくれなそうな感じ。
「じゃあ、少し用事済ませたらすぐに会議室に行くよ」
「わかった。先に行ってるね」
 そう言って大野さんは教室から出て行った。歩く姿もなんとも優雅。私と小宮山さんは揃ってため息をつく。そのため息の理由が二人一緒ではないみたいだったけど。そして二人して笑った。
「じゃあ私も帰るね。また来週。河原さん」
「うん。またね、小宮山さん」
「あ、私のことは真昼でいいよ。真昼って呼んでやって」
「え?ほんと?じゃあ私も結李でいいよ」
 真昼は嬉しそうに頷いて、私を名前で呼んでくれた。
「じゃあね、結李」
「うん。また来週ね、真昼」
 転校初日で友達が出来た。これほど嬉しいことはなかった。それも明るくてとても楽しそうな友達。うん、やっぱりこの学校はとてもよさそう。
「よかったね。友達がもう出来たみたいだ」
「うん。なんだか楽しくなってきちゃった」
 カイトはいつの間にか席をたって私の隣に来ていた。そして申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん、これから会議行ってくるよ。すっかりわすれてて」
「みたいだね。さっきのやり取り見てたし」
 また大野雪さんの顔が浮かぶ。きっと彼女には着物が似合うんだろうなと勝手な想像を働かせた。
「たぶん1時間くらいで終わるけど待っていられるかな?」
「うん、大丈夫。でも朝のような怪物が来たりしないよね?」
 私はあの怪物達のことを口にしながら、頭の中で思い出してみる。その記憶があまりに鮮明で今でも鳥肌が立つくらいだった。あんなのが私一人の時にきたら、一体どうなってしまうのか、想像もしなくない。
「まだノクトの粉の効果が残っているだろうし、それは大丈夫だと思う。それにもし来たら僕がすぐに助けにくるよ」
 昨日の瞬間移動がどうやって起きているのかはわからないけど、カイトの「すぐ」というのはあれくらい「すぐ」なんだろうと思い私はカイトに頷いた。
「じゃあ終わったら連絡を……ユーリちゃん、携帯持ってる?」
「あ、ごめん。私携帯持ってないんだよね」
「ん、そうなのか」
 今時中学生でも携帯は持っているものだと思うけど、私はなんとなく持っていなかった。別に今まで必要な場所もなかったし。でもこういう時は持っていたほうがいいのかも知れないと思った。
「じゃあ、こうしよう」
「え?」
 するとカイトは私の額に右手の人差し指をつけ、何かを呟き始めた。今度は私にも聞こえる。
『風の子シルフィードよ。我が命によりこの者にしばし仕えよ。その身をこの者に捧げよ』
 そしてカイトの目が一瞬赤く光る。
「うん、これでおっけ」
「え?」
 私は確かに自分の体に何かされたと思ったのに、どこにも変化はなかった。
「何をしたの?どこも……変わってないけど」
 カイトは笑いながら自分の席の机の中から何冊かのファイルを取り出していた。
「すべてが君の目に見えるわけじゃないからね。ま、後のお楽しみで」
「う……うん……」
 もう何がなんだかだったけど、私はこの人を信じるしかないと、今はもうこれ以上聞くのはやめた。
「じゃあ、行ってくるね。あとで連絡する」
 そしてカイトは教室から出て行った。
「どんな連絡方法で連絡してくるんだか」
 もう色々慣れてきた私は、笑うしかないと笑ってみた。


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