わたしの隣の魔法使い


第1章 わたしとあなたの出会い
【その6】


「あれが音楽室で、こっちが化学室。ユーリちゃん、聞いてる?」
 私は1時間目がはじまるまで、滝沢海斗に校内の案内をしてもらっている。この人と歩くととても目立つみたいで、すれ違う女子達が何かコソコソこちらを見ながら話していた。それもそのはず、この人はとっても綺麗。昨日はじめて会った時も思ったけど、なんて美しい顔立ちをしているのだろう。そんな彼が私を見ながら校内の説明をしてくれている。普通に出会っていたらここで恋心が目覚めるに違いない。でも私は滝沢海斗を疑いの目ででしか見ることが出来なかった。
「いやだなぁ。そんな怖い顔しないでよ。可愛い顔が台無しだよ?」
「そんなこといわれても、私はあなたに聞きたいことが沢山あるのよ」
 そんな私の言葉に滝沢海斗は困った顔をする。
「お願いだからもう聞かないでよ。昨日も言ったじゃないか。あれは単なる事故だったんだから、これ以上追求しないで欲しいな」
 それは分かっている。でもその後のことはなんていうの?
「じゃあ、あの妖精のことはどう説明してくれるの?」
「え?!ノクト、ユーリちゃんに姿見せたのか?」
 滝沢海斗は今までクールな顔をしていたのに、いきなり驚いた顔をした。
「え、ええ。それもお風呂の最中に現れたわよ。あれはどう説明してくれるの?」
「……ううううん。それは……、本人に聞いてみよう」
「え?」
 本人?本人ってあの妖精?
 それから起こったことはとても不思議なことだった。滝沢海斗は私の前で何かをつぶやき始める。すると彼の髪がフワッと風になびく感じに揺れ始め、何故だか黒い髪が昨日の綺麗な茶色へと変化していった。そして体が少しだけ宙に浮く。周りは無風なのに、そこだけ風が起こっているようだった。
「えええ?」
 私は何が起きているのか分からなかった。彼を取り巻く風。まるでカメレオンのように色が変化していく髪の毛。そしてよく見ると、彼の瞳の色が右だけ赤くなっていく。
「ノクト、話がある。来てくれ」
 そう彼は私にも聞こえるように呟いた。ノクト。昨日の妖精を呼んでいるってこと?
 そして少しずつ滝沢海斗の周りに吹いていた風が収まっていき、彼の髪の色も徐々に黒く戻っていく。それと同時に、私の目の前に綺麗な光の玉が姿を現した。
「何だよー。オレは朝食中だったんだぞ」
 その光の玉がパンッと破裂したと思うと、中から昨日確かにお風呂で見たノクトが姿を現す。背中の羽根が美しい小さな妖精。
「ノクト、僕に何か言うことあるよね?」
 ノクトが優雅に飛んでいたところに、滝沢海斗がその羽根を指でつまむ。
「な、何をするんだよ。こら、やめろ」
 動きを封じられてバタバタするノクト。なんだかちょっと可愛そうになってきた。
「なーんで、ユーリちゃんがお前のこと知ってんだ?僕は君に姿を見せろなんて命令したっけ?」
 そう言われてノクトは動きが止まる。
「え?えっと……だってさ、たまには人間の女の子と話してみたいとか思っちゃったりなんかしてさー……」
「ノクト!」
 いきなり大きな声を滝沢海斗は出す。その声にノクトはビクっとする。そして小さな手で自分の長い耳を塞ぐ。
「や、やめろよな。お前らの大声はオレの鼓膜を破くくらいうるさいんだから」
 そこでノクトは解放された。そして滝沢海斗は頭を抱える。
「ううううん。この状況は一体どうしたらいいんだ。僕は追放されるのか?」
 ノクトは背中の羽根を上手く動くか確認するようにパタパタさせている。
「故意じゃないんだし、大丈夫なんじゃねーか?そんなに長老は心が狭くないぞ」
「そうなんだけどなぁ……」
 そこから二人はあーでもないこーでもないと議論をし始めた。目の前の私を無視するかのように話し始めた為、私は少し寂しくなったけれど、言っていることが意味不明だった為、中に入ろうとは思わなかった。この二人は一体何を話しているのだろう。
「!!」
「!」
 その時、二人は急に話を止め、表情が険しくなった。そして当たりを必死に見回す。
「二つの力を感じる。そんな強大ではない」
 ノクトが滝沢海斗にそう告げる。その顔は非常に怖い。
「カイトお前、さっき力を開放してないよな?」
 滝沢海斗が軽く頷く。
「当たり前だ。そんなヘマを何でしなきゃならない。でも何故場所がばれた……」
 そして二人は揃って私を見た。
「え?」
 私は困惑し、どうしたらいいかわからなくなった。
「まずいな。昨日瞬間移動した時に力がうつってしまったのか」
「それは考えられる。カイト、とにかく隠れないと。あと15分ってとこだ」
「あぁ。ユーリちゃん、こっち来て」
 私は滝沢海斗に手を引かれ、近くの無人の教室に入っていった。後ろからノクトも入ってくる。
「一体何が起きているの?何かくるの?」
 そんな私の問いに、滝沢海斗は目線を合わせることなく答える。
「今は説明している暇がない。無事この場が済んだらきちんと説明するから」
 そして彼は教室の床にペンのようなもので何かを書き始めた。それはよく小説の中にあるような魔方陣にも見えた。そしてそれに向かって何かを呟くと、その書いたものがボオッと光り、浮かび上がる。
「さ、ユーリちゃん、この中へ」
「え?え?ちょ、ちょっと、滝沢君!」
 手を思いっきり引かれ、私はその魔方陣の中に入る。その魔方陣は踏んでも消えない不思議な物だった。
「カイトでいいよ。そう呼んでくれると嬉しいな」
 そう言ってカイトは私に微笑む。何も説明をされないでこの状況で、私は笑顔を返すことが出来なかった。
「ノクト、妖精の粉をユーリちゃんに」
「ああ。わかってる」
 ノクトは私の頭の上で体を一生懸命動かしていた。するとノクトの体からキラキラした何かが落ちてくる。そしてその後、ノクトは私の頭の上に座った。不思議と重さは感じない。
「これでとりあえず大丈夫だろう。いいかい、ユーリちゃん。これからビックリすることが起こると思うけど、決して声を上げないでね」
「一体何が起こるっていうの?」
 狭い魔方陣の中で私とカイトはその場で座っていた。
「それは後で説明する。たぶん今説明してもわかってもらえないからね」
 私は訳が分からなかったけど、とりあえず頷いた。今は頷くしかなかったから。


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