わたしの隣の魔法使い


第1章 わたしとあなたの出会い
【その5】


「はじめまして、河原結李です。どうぞ宜しくお願いします」
 はじめの挨拶。少しザワザワした部屋に私の声が響く。今までこういうことを何度体験したのだろう。私はもう緊張も何も感じなくなっている。それがなんだかとても悲しい。
「んじゃ、河原さんはあの窓側の一番後ろの席を使ってね。みんな色々教えてあげるのよー」
 そんな先生の声に教室の生徒は一斉に「はーい」という。これもどこの学校に言っても同じ感じ。台本でもあるのかと私は少しおかしく思う。
 その学校学校によって新しい生徒が入ってくるときの教室の反応は違う。ザワザワする所や、シーンとして少しも歓迎されていない所。やけに友好的だったり、はじめから攻撃的だったり。だから私は教室に一歩足を踏み入れて、それからの教室での対応の仕方を変える。幸い、この教室は初めからとても明るく、席に向かう私にも何人かが「よろしくね」と声をかけてくれた。なんだか楽しい毎日になりそうな予感。
 私は先生にいわれた通り、窓側の一番後ろの席につく。外は3Fで近くに大きな木があり、枝にとまっている鳥の鳴き声がチュンチュンと聞こえてきた。もう10月なのに日差しは強く、熱い光が容赦なく机を照らす。
「あれ……」
 誰も座っていない席なのに、何故だか机の中に教科書が入っていた。所々にマーカーがひいてある、使い古された社会の教科書。
「あ、ごめん、机の中に何か残ってた?」
 その教科書を取り出して不思議そうに見ている私に、隣の男子が声をかけてきた。
「今日朝に席替えがあってさ、そこ俺の席だったんだよね」
 私はその言葉に納得して、隣の男子の方を向く。そして手に持った教科書を返すつもりで向いたはずだった。
「え!!」
 私は教室なのをすっかり忘れてそんな大きな声を出してしまった。周りの生徒が私を一斉に見る。
「河原さん?何かありました?」
 そしてすぐに先生が私に駆け寄ってきた。私は顔の前で大きく手を振る。
「な、何でもありません。だ、大丈夫ですです!」
「ほんと……?何か問題があったらすぐに言ってね」
「はい。絶対にいいます!いいます!」
「何かすごい……あやしいなぁ」
「怪しくないです。何にもないです!」
 そんな二人のやり取りに教室から笑い声が聞こえてきた。ほんとにいいクラスなのかもしれない。でも私はそれどころではなかった。そして、先生はすぐにも戻って朝礼の続きをはじめた。私はまだ心臓がバクバクしている。
「ちょ、ちょっと、あなたは……」
 周りに聞こえないように自然と声は小さくなる。
「昨日はどーも」
 私の席の隣にいた人物。その彼はこの騒ぎにも落ち着き払っていて、私をじっと見ている。私はこの顔には見覚えがあった。昨日とは何故か少し雰囲気が違ったけれど、確かに私はこの人に昨日ぶつかった。そしてそこから私の不思議な体験がはじまった。その張本人が今目の前にいる。
「僕は滝沢海斗。よろしくね、ユーリちゃん」
 頭の中にはこの人に聞きたいことが沢山流れてきている。昨日のあの瞬間移動。そしてお風呂にいたあの妖精。もうどこからどう話していいのかわからないくらい混乱して何がなんだかわからなくなってきた。
「これで今日の朝礼を終わりにします。学級委員長ー」
 先生がこっちのほうを見ながらそう叫んだ。
「はい」
 隣の滝沢海斗が立ち上がる。
「河原さんに学校のこと色々案内してあげてね」
「はい。了解しました」
「んじゃ、今日も一日頑張っていこうー!」
 元気のある先生に明るいクラス。素敵な学校生活を送るための条件が揃ったこの場所で、私の心は不安でいっぱいだった。その原因はもちろん……。
「さ、ユーリちゃん。1時間目が始まるまで少し時間があるから、校内を案内するよ」
 この笑顔の滝沢海斗のせいに間違いはなかった。


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