わたしの隣の魔法使い


第1章 わたしとあなたの出会い
【その4】


 私は真っ暗な場所に立っていた。
 そこは上も下もどこを見ても真っ暗で、暗闇とは違う完全な闇。手を伸ばしてみても、足を前に動かしてみても、本当にその行動が行われたのかさえわからない位の闇の中で私は立っていた。
−−ここはどこ。
 私は怖くなって声を出してみる。でもそれさえ耳に届かない。まるで頭の中で声を発しているように、口を動かしてみても声は出ることがなかった。
『ミツケタ』
 その時、自分の声は届かなかった私の耳に知らない声が突然聞こえてきた。それは聞いたことのない低い声。でも私はこの孤独の世界で自分以外の人間がいるとその声の主を探した。
−−誰?!どこにいるの?!
『マッテテ、スグニ捕マエルカラ』
 その声は右からも左からも上からも下からも聞こえてくる。私は思いっきり走った。前が見えない世界でも躊躇せず走った。でもその声は少しも近づくことなく、私の耳に届く。一体どうなっているの。
−−はぁ、はぁ。どこにいるのよぉ……。
『マッテテ、君ハ僕ノモノダカラ』
 それから何時間走っただろう。もう声は聞こえなくなったけど、私は走り続けた。何故だかわからないけど、前に進まないといけないとおもったから。前へ前へ進む。目的はないけれど前に進んでいく。
−−あ……。
 今まで完全な闇に包まれている世界だったはずが、気がついてみると小さな光が視線に入ってきた。それはすごくあたたかい光。私はそこがゴールなんだと全力疾走した。今まであんなに走っていたのに少しも疲れてないのは不思議だった。
「ゴール!」
 光は少しずつ大きくなっていって、もう体全部が包まれてしまうくらい大きな光の中に私はいた。そこはとても体が気持ち良くなる場所で、眠気が私を襲い始めていた。
 そして次の瞬間、私はその光の中でまるで気を失うかのように倒れこんでいった。地面が毛布のように柔らかい。このまま眠ってしまえばきっと私は幸せな夢の中で起きられると……

ジリリリリリリリリ!!

 そんな大きな音が私の頭の辺りで突然鳴り始めた。低血圧で寝起きが悪い私でも、この目覚まし時計のおかげで朝きちんと起きることが出来る。

ジリリリリリリリリ!!

「はいはい、今とめるよぉ」
 そんな風に目覚まし時計に不機嫌な言葉を投げかけて私はスイッチをOFFにする。するとピタっと大きな音が止まった。
「うーーーん。なんか変な夢を見た気がするなぁ」
 ベッドから立ち上がって私は1回大きく伸びをする。背中がボキっと音を立てた。そして部屋の窓のまだ新しいカーテンを開けた。朝日が部屋の中に容赦なく入ってくる。今日はとてもいい天気だ。
「さーて、新しい学校頑張ってくるかな」
 昨日学校から届いた新しい制服は綺麗にアイロンがけされて部屋のドアにかけてあった。きっとママがアイロンをかけてくれたに違いない。触ってみたらまだ温かかった。ママに無音の感謝をしながら私は制服に着替える。
 新しい学校の制服は紺と白のブレザーで、金のラインが素敵。それにリボンネクタイもなかなかお気に入りだった。
「あら、可愛いわね」
 丁度私の部屋の前を通りかかったママが私の姿を見て部屋に入ってくる。洗濯籠を手に持っていたから丁度洗濯が終わったところみたい。
「えへ。やっぱこの制服の学校にしてよかったかなー」
 私はその場で1回転してママに姿を見せる。短めのスカートがひらっとその場で舞った。
「この周り、いくつも学校あったもんね。ママもその制服が一番すきよ」
 転校が決まってどの高校にしようかと考えていたとき、私は真っ先に制服が可愛いところにしようと決めた。だってまたすぐに転校しなきゃいけなくなる可能性だって考えられる。だから学校で選ぶのではなく、制服で選ぶことにした。良い学校で選んでしまうと、そこを離れられなくなるかもしれないし。
「さ、はやく朝食食べちゃいなさい。ゆっくりしてると遅刻するわよ」
「はーーい」
 私はまだ少し積んであるダンボールをよけつつ、洗面台に向かった。さすがに初日くらいは気合いいれないとと、昨日出しておいたドライヤーとワックスで念入りに髪のセットを始める。クセっ毛の私の髪の毛がこれで綺麗になるとは思えないけど、何事も気合いだよね。
 朝はそんな感じで慌しく過ぎていく。もうあの夢のことは頭の中から消え、これからの新生活に胸躍っていた。忘れてしまった大事なこと。それはすぐに思い出すことになるんだけど、知らないままのほうが幸せということもあるから、今はきっとこれでよかったんだとおもう。
 私は新しい学校に向けてドキドキしながら向かっていった。



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