わたしの隣の魔法使い
第1章 わたしとあなたの出会い
【その3】
私の名前は河原結李。たぶん誰が見ても普通の女子高生に見えると思う。勉強も運動も並に出来て、人見知りはあまりしない。でもこれといって特技もない。だから「あぁ、そういう子も前にいたよね」なんて今まで行っていた学校では言われているんだと自分の中では思っていた。
オシャレをすることは嫌いじゃないけど、まだ高校1年生だし、特に気にしたことはない。一応たまにファッション雑誌は見て、今はやっている服装に合わせて買ってみたりはしているけど。いつまた転校するかわからないし、あまり目立ったことはしないようにはしている。だからどんなこともみんなに溶け込んでクラスの中の一人として見られるのがベストかもしれない。
その夜は隣近所への挨拶を一家3人で済ませ、前の家の同じような家具の配置にホッとしつつ、新しい自分の部屋にドキドキした。そして何より、今まで住んだ家の中で一番大きなお風呂に私はとても喜んだ。
大きなバスタブは体を十分の伸ばせる広さで、私はお気に入りの白桃の匂いのする入浴剤をいれ、体をお湯の中に沈めた。美味しそうないい匂いが浴室の中に広がる。
「でもほんと、今日は不思議な体験をしたなぁ」
私は今日の出来事を振り返っていた。いきなり現れた綺麗な男性。そして一瞬で連れて来られた知らない場所。
「あれは、瞬間移動だったのかな……」
お湯に完全に浸かった体はだんだん温かくなって気持ち良くなっていき、私は頭の中でそんなことをボンヤリと考えていた。でもあんまり深く考えても結論は出ないと、私は考えるのをやめた。
「ふーん。別に誰かに言いふらしはしてないんだ」
私はすっかり気持ちよくなって夢の中に入っているんだと思っていた。だって浴室には私一人しかいない。だから私以外の声が聞こえてくるなんて絶対にありえない。
でも私の耳には確かに声が聞こえてきた。それも知らない声が。
「え?!」
私は自分の目を疑った。
「桃の香りの風呂か。それも悪くない」
目の前の水面を小さな何かがプカプカ浮いている。それは動物にも見え、小さな人間にも見える。でも人間にしては小さすぎて……。
「お前名前は?」
白に近い銀色の髪に少し褐色な肌、そして長い耳。背中にはお湯に濡れて原形をとどめていないけど、薄い色の羽根がついている。これはたぶん、私の考えが正しければ妖精というやつなんだろうか。この世の中に妖精が実在する?いや、今日の出来事を考えればこれはビックリしている場合ではない。世の中には不思議なことは沢山ある。……みたい?
「結李……。私は河原結李」
「ユーリね。オレはノクト、よろしくな」
ここで宜しくしていいのか分からなかった。いまだに状況がまったくつかめてないし。私の目はどうなっちゃったんだろう。
「あ、もしかして、自分の目は妖精を見えるようになっちゃったんだとか思ってる?」
戸惑いながら私は軽く頷く。
「いやいや、実際妖精なんて世界にあんまいないよ。今はオレがユーリに見えるように出てきているだけ」
「そう……なんだ」
ノクトの言葉に少しがっくりしてみたりした。私は心のどこかで妖精とか天使とかそういうものを信じている。目に見えるものすべてにそういうものが宿っていると。でもそうじゃないみたい。……いやいや、そうじゃなくて、今私の目の前にいるものは……妖精だよね?物すべてに妖精が宿ってなくても私は今現在妖精を目にしている。これが本当に夢でなければ。
「顔は悪くないな。その下は……この湯が白くなかったら判断できるのに残念」
普段ならそれにキャーっと反応したに違いない。でも私はあまりの興奮と体の火照りにもう何がなんだかわからなくなってきた。
「今日はこれで帰るけど、オレのことと、こないだのこと、誰にも言うなよな。そしたらまた会いにくるから」
私はノクトの言葉に思いっきり頭を縦に振った。もうそれしか出来なかった。
「じゃあな、ユーリ」
そこからの記憶はない。なんか今日はずっとこんなのばかり。
気がついたら私はベッドに横になっていた。あまりに長湯で見に来たママがのぼせる一歩手前の私をベッドまで運んでくれたらしい。
「新しいお風呂で嬉しいのは分かるけど、のぼせるまで入ってないでよ」
なんて言ってた。それは私も同感。
今日二度目の不思議なこと。なんだかこれから私の周りで楽しいことが起こるような気がしてきた。今までもこれからも体験できないような素敵なことが。
そんなことを思いながら私は知らない天井をまったく気にせず眠りに落ちていった。
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